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本当にこれが、ただの風邪の症状なのだろうか・・・・
アウロアは戸惑いながらも医師から引き継いで、ブライトの看病をしているのだが、その症状に思わず眉を寄せた。
吐く息は荒く熱いのに、その顔色は青白い。
額に触ればとても熱く、相当苦しいのだという事が見て取れる。
嫁いできてから、これといって寝込むほどの病気を患う事が無かったブライトの、その弱々しい姿に胸がざわつく。
どちらかと言えば、子供の風邪が移ったりなどしてアウロアの方が寝込む事が何度かあったが、ブライトには一切移る事はなかった。
額に乗せた温くなった布を取り換え額に乗せれば、気持ちよさそうに息を吐きながらうっすらと目を開けた彼は、掠れた声で妻の名を呼んだ。
「ア・・ウロ・ア・・・?」
「陛下・・・喉が渇きませんか?お水を飲みますか?」
小さく頷くブライトの身体を少し起こし、水を飲ませた。
ほっと息を吐きながら横たわるブライトの眼差しは何処か夢うつつで、求める様にアウロアへ手を伸ばした。
掴んだ手はやはり熱くて、アウロアはまたも眉を寄せる。
「陛下、もう少しお眠りください」
「・・・・ここに・・・いてくれ・・」
熱の所為もあり、弱々しく幼子のように甘える声色に、アウロアは目を見開く。
確かに熱が高くなると心細くなる。自分も経験があるから。
離縁騒動があってからブライトに付きまとわれ、愛をこれでもかというほど押しつけてこられてはいたが、純粋に甘えてくるということはなかった。
甘えに似てはいるが、どちらかといえば懇願なのだろうと認識していたから。
だからだろうか。
その眼差しに、その言葉に、アウロアの胸がギュッと締め付けられるように苦しいのは。
ただ苦しいだけではない。
何処か甘い疼きにも似たそれは、失くしていたと思っていた感情を思い出させるかの様に、心の奥を撫でていく。
その所為なのだろうか。急に目の前のブライトが、可愛らしくて愛おしく感じてしまうのは。
まるで、乾いた大地が潤うかのように感情が広がっていく。
こんな事は初めてだった。
亡くした婚約者の時は、ゆっくりと恋していった。
結婚してからは、毎日のように抱かれ情が移っていった。
でも、今は?
毎日のように全力で愛を示し、その全てで愛しいのだと訴える夫。
リーズ国やフェレメン国の王太子の件がブライトに味方したかのように、色々と絆されてきているとは感じていたが。
だけれど、まさかこんな急に想いが生まれるとは思ってもみなかった。
突然の感情を植え付けた本人は、虚ろな眼差しでうわ言の様に「アウロア、愛している」「そばにいて」「捨てないで」など、弱々しく訴えかけてくる。
それすらも何故か嬉しく感じてしまい、この間まで鬱陶しいと感じていた気持ちは何処へ行ってしまったのかと思う反面、どこか冷静な自分もいて問いかけてくるのだ。
このまま、流されて彼の好意を受け取ってもいいのだろうか・・・と。
でも・・・この数年間の感情を簡単に変える事もできない。
―――つまりは、信用し切れていないという事なのよね、多分。
いくら未遂だったとはいえ、イライザの件が彼を信じきれない原因の一つでもあるから。
一時とはいえ彼女を心の拠所とし、側室に迎えようとしていたのだ。
一度ある事は二度、三度とあるのだ。・・・・きっと。
だから、手放しで信用する事は、できそうにない。―――アウロアが常に考えている事である。
その思いはブライトに愛を囁かれれば囁かれるほど大きくなっていった。
だから、それとは相反する感情がこうも簡単に生まれた事に、動揺しその感情自体をも一時の気の迷いなのではと疑っているのだ。
イライザの事を聞いても平静を装っていた。だからといって、決して傷つかないわけではない。
裏切られた・・・と思ったのだから。
もう傷つくのは嫌だ。だから、自衛をしなくてはいけない。
ブライトの手を握りながら、真実を見極めるかのように、焦点の定まらないブライトの瞳をじっと覗き込んだ。




