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16 イライザside

アウロアが猶予を受け入れ戸惑っているそんな中、国王からの使者を目の前に、側妃になり損ねたイライザも又、現状に戸惑い理解するのに必死だった。


突然、国王の使いだという男がイライザの元にやって来た。

これまで話し相手になってくれて、愚痴を聞いてくれてありがとう。

おかげで夫婦仲も良好になった。という様な趣旨の感謝の言葉を述べられ、王宮のパティシエが作ったという、『幻のお菓子』を手土産にお礼を言いに訪れたのだ。

因みに何故『幻のお菓子』などと言われているのかと言うと、王宮で開催される夜会でしか食べる事が出来ないというのが一つ。そして、その夜会も年に二度しか開かれないという事もあり、高位貴族であろうとも滅多に口にする事が出来ないものなのだ。

しかもその夜会は、招待客を厳選する為、限られた人しか食する事ができない。味も『幻』と言われるだけあって、ものすごく美味なのだという。―――まぁ、王宮で働く人達は普通に食べる事ができるのだが・・・

そんな『幻のお菓子』を呆然と眺めながら、イライザは何を言われているのかすぐには理解できないでいた。

要約すれば『今までありがとう。もう会う事はないよ』という事なのだろう。


いや、ちょっと待って!私、捨てられるの?


捨てられるとは語弊があるが、イライザの中では既にブライトの恋人なのだ。手すら握った事もないのに。

一体何が起きているのかさっぱりわからなかった。

昨夜、一般に開放されている某伯爵の薔薇園で会ったばかりだというのに。

その翌日にはまるで掌を返されたかのようなこの対応。

頭がついていかない。



彼女は使者からお菓子を受け取るまでは、誰もが狙っている側妃の座が目の前に転がり込んできた事に、逃がすものかと並々ならぬ執念を抱いていた。

と言うのも、既に結婚適齢期を過ぎてしまった自分にとって、国王陛下は最高級の物件だからだ。

ここ一、二年、父親が縁談を持ってこなかったのも、この日の為だったのではと、都合よく解釈してしまうほどに。


だがその実情は、誰も彼女との婚姻を望まなかったのだから、縁談などくるはずもない。

彼女は、侯爵令嬢とそこそこ地位もある。本来であれば王妃になってもいいほどの地位なのだが、阿婆擦れである事がかなり有名だった為に、候補にすら上がる事は無かった。

そんな娘だが父親にとっては、可愛い娘である。

本来であれば、父親が娘の幸せの為にと良い縁談を見つけてくれるのだが、彼女はやり過ぎたのだ。

学生の時から、そして今現在まで数多くの幸せを壊してきた。

それは彼女だけではなく靡いてしまった相手の男にも責任があるため、幸いな事に賠償金を請求される事はなかったが、この狭い貴族社会。父親である侯爵は、厳しい視線にさらされながら肩身の狭い思いをする羽目になってしまっていた。

だが当の彼女は、悪い事をしたと言う気持ちが全くない。

何故ここ最近、誰も自分を相手にしてくれないのかが分からなかった。昔は男の方から、あれだけ言い寄ってきていたというのに。

今では遠巻きに見られるだけで、誰も近寄ってこようとはしない。

父親である侯爵も、イライザの男漁りの酷さに頭を悩ませていた。

どれだけ注意しても、聞く耳を持たない。挙句に、言葉が通じないと頭を抱えてしまうほどに。

そんな悪名高い彼女にも一応、縁談は幾つか来ている。

だが、まともな嫁ぎ先ではない。

よって、どこぞの癖のある貴族の後妻に入るか、修道院に入れるか・・・・究極の二択となっていたのだ。


そんな親の苦悩など知る由もないイライザは、とある夜会で国王と会ってしまった。

疲れ切った様子でベンチに座っている彼を見た時、これはチャンスなのだと本能的に悟った。

素知らぬ顔で近づき、言葉を交わせばこれまでの男同様すんなりとその懐に入る事が出来た。

其処からは、罠か?と疑ってしまうくらいトントン拍子に近しくなっていった。とは言え、他の男同様簡単に身体の関係を持てなかったことが、後の彼女の敗因でもあるのだが。

正直な所、既成事実さえ作ってしまえば側妃になれるだろうと思っていたが、思いの外ブライトは身持ちが堅かった。

何度か密会は重ねたものの、お子様同士の付き合いか?と思うほど、健全なお付き合いだった。―――いや、今思えばお付き合いと言うよりも、単なる雑談の為の密会だったような気がする。

だが、時間が経てばきっと彼は自分に手を出してくれる。誘えば応えてくれるだろうと思っていたのに。

別れは突然やってきた。


ブライトに関しては、あと一押しだと思っていた。

会うたびにその言葉を肯定し、こう言って欲しいのだろという言葉を厳選して返す。

全てが大当たりだった。心の中でガッツポーズをしてしまうくらい。

今までの彼の自分に対する気持ちは、単なる『愚痴聞き友達』では無かったはずだ。だが、恋愛感情を向けられているとも感じてはいなかった。

単に、自分の味方を探している・・・うまくは言えないが、ブライトを肯定してくれる人が欲しい・・・そんな感じに捉えていた。

だから細心の注意を払いながら『私はいつでも貴方の味方よ』をスローガンに左団扇の未来を掴むために、イライラしながら付き合っていたというのに。


あれだけ好みの女を演じてやったっていうのに・・・どういう事なのよ!

一晩にして何があったって言うの!?


一晩と言うよりも、本日午前中に夫が妻に惚れちゃったんです・・・とは、誰も思わないだろう。

使者が用事は済んだとばかりに立ち上がると、父親でもある侯爵が慌てふためいて応接室に転がり込んできた。

「屋敷の前に王家の馬車があるが、お前又何か仕出かしたんじゃないだろうな?!」

娘は可愛いとは思うが、全く信用していない父親は『まさか王家にまで手を出したんじゃないだろうな!!』と顔面蒼白である。

本来の侯爵は礼儀を重んじる。娘とは違い常識人。妻を早くに亡くしてしまったが、娘には寂しい思いはさせまいと優しくも厳しく接してきたつもりだったのに・・・

何処をどう間違えば、こんな人間が出来上がるのかと思ってしまうほど、侯爵は真っ当な人間だった。

これまでの事があったため、混乱状態で応接室に飛び込んでしまったが、王家からの使者を目に止めると一瞬にして冷や水を浴びせられたかのように冷静になった。

無礼をひたすら謝る侯爵に、使者は困った様に笑い訪問の理由を説明してくれた。そして用は済んだとばかりに帰って行ったのだった。

一応、王家に対しては未遂だった事が分かり安堵する侯爵だったが、イライザはそれどころではない。

千載一遇のこの機会を逃すわけにはいかない。

草食系の陛下に物足りなさは感じるが、夢にまで見た高貴な人達の仲間入りができるはずだったのだ。


最後のあがきとばかりに、近々側室に迎えられるのだと自ら吹聴し回っていたが、今まで以上の国王夫妻のラブラブっぷりに誰も信じる者はいなかったという。



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