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午後の執務室。ブライトは机に両肘を突き組んだ手に額を乗せ、大きな溜息を吐いた。
そんな様子を見てヴィルトとエルヴィンは顔を見合わせ、肩を竦めた。
「その分だと、アウロア様にこっぴどく振られてきたんでしょ?」
ヴィルトが傷口を抉る様に、満面の笑みでエルヴィンに確認する。
「えぇ、それはもうバッサリと。爽快でしたよ」
エルヴィンは目の前で繰り広げられた事のあらましを、ヴィルトに話した。
「あぁ・・・それは浮かれポンチの陛下が悪い。浮気したくせに要求が自分本位すぎ!」
「まったくです。横で聞いてて殴りたくなってきましたから」
「よく殴らなかったね」
「今はね。一年後は分かりませんけど」
「確かに」
あははははは・・・と笑う二人に、ブライトは反論する気もおきない。あまりに真っ当な意見すぎて。
「で、どうするの?このまま一日無駄に過ごすの?」
ヴィルトが書類を捲り書き込みながら、ブライトに聞いてくる。
「今日から一年だし。一年なんてあっという間ですよ」
エルヴィンもまた、書類に書き込みながら相槌を打つ。
「分かってる・・・・ところで、何で二人とも仕事手伝ってくれてるんだ?」
二人はソファーに座り、せっせと仕事をしてた。
国王の決済でなければならないもの以外、ヴィルト宰相の判断によりエルヴィンと二人で書類を決裁していく。
「それは、陛下が余りにもヘタレ過ぎて、落ち込んで時間を無駄に使いそうだなと思いましてね」
「我々で、少しでも時間を捻出してあげようと思いまして」
「―――ヴィルト・・・エルヴィン・・・お前たち・・・・」
思いがけない優しさに、涙目になるブライト。だが続く彼等の会話に、その感動が全て吹っ飛んでいった。
「別に陛下の為じゃないですよ」
「アウロア様を守る為です」
「正直な所、隣国の王太子には迂闊に手を出せないでしょう」
「ホント、王太子を何とかできれば、俺達も陛下の肩を持つことなく離縁一択でいいんですけどね」
「確かに。お子様にはお可哀想ですが、フロイデン国に戻って新たな縁を探した方が、アウロア様の為の様な気がするし」
「実家はいいですからねぇ。リヒト様もアウロア様が戻られたら共同で国を経営したいとおっしゃってますしね」
リヒトとはアウロアの弟で、彼女が嫁ぐ事になり急遽、次期当主もとい王太子となった可哀想な弟である。
リヒトはアウロアには及ばないもののかなり優秀であり、後継ぎとして申し分ないのだが、一日中机にかじりついているより剣を振り回している方が性に合っていた。
本来であればアウロアの右腕として軍を統括する予定だったのだ。
アウロアを女王としエルヴィンに宰相をさせ、リヒトは領地を駆け回る・・・・それが理想的な未来だった。
「リヒト様、アウロア様が嫁ぐ事に決まった時は、本当に落ち込んでましたからね」
「それと隣国同様、カスティア国も恨んでますからね。彼が国王になったらこの国もどうなるんだか」
「リヒト様って、面倒事は力技で解決しようとするんだよね」
「あぁ、あるある。フェレメンもカスティアも落としてしまえって何時も言ってるし」
その言葉に、ブライトは一気に正気に戻る。
ヴィルトとエルヴィンは笑いながら冗談の様に言っているが、これは本気話だ。
リヒト王子の事はアウロアからも聞いていた。
優秀ではあるが脳筋な所があり、二人が言うように色々と手続きやら交渉をしなくてはならず時間を食う案件に関し、『面倒』の一言で済ませ力技で解決しようとするらしい、と。
今はまだ国王が健在で常識的に彼を制御しているが、彼が国王になれば誰が止めるのか・・・・
何のためらいもなくこの国を落とし、アウロアを奪還していくのかもしれない。
目に見えるような未来に、ブライトは自然と背筋が伸びる。
「俺、頑張る!いや、頑張ります!お二方、どうかご助力お願いします!」
もう、此処まで来れば好いた腫れたの問題でもなくなってくるが、やはり彼女を守り愛したい。
愛するアウロアと真の夫婦になれれば、このカスティア国の平和も守られる。
そう理解したブライトは、アウロア第一主義という本性を曝け出した彼等に頭を下げた。
「おやおや、国王たるもの簡単に頭を下げてはいけませんよ」
「ですが、その心意気は買って差し上げましょう」
国王よりも態度がでかい二人に少々ムッとはするが、このままではアウロアを口説く事すらできないとグッと呑み込んだ。
「とある異国の諺ですが『千里の道も一歩から』というのがあります」
「 何事も一歩一歩着実に進める事が大切だという事ですよ」
「ですが陛下がそんな事をしていれば、一年なんてあっという間です。時間が限られているので、まずは使える者は何でも利用しなくてはね」
「なんせ、陛下の好感度はゼロ以下。地にめり込んでますから」
この国の最高権力者を笑いながら扱き下ろす二人だが、誰よりもアウロアに近しいのも事実。
腹は立つものの、今のブライトには彼等の背後に後光が差したかのように、何より誰より頼もしく見えるのだった。




