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「「お母様!」」

そう言って室内に駆け込んできたのは、息子のイーサンと娘のシャーロット。

双子の兄妹は突進するようにアウロアに抱き着いた。


兄のイーサンは母に似たのか活発で何にでも興味を示す、好奇心旺盛な子に育っていた。

見た目も母親にそっくりで銀髪にオレンジ色の瞳を持つ、四才ながらにして超美形。

妹のシャーロットもイーサンについてまわることが多い所為か、こちらも好奇心旺盛な子に育っている。

父親似の小麦色の髪に母親譲りの藍色の目。母と父の良いとこ取りのこちらも超美しい顔立ちをしていた。

二人ともやんちゃではあるが四才にしては頭もよく、将来有望な事は誰が見ても明らかだった。


「イーサン、シャーロット。少しお話があるんだけど」

アウロアの左右に座らせ子供達の肩を抱きながら、世間話でもするかのような口調で問いかけた。

「お母様がお父様とお別れしたいと言ったら、どうする?」

アウロアを見上げる大きな瞳は、キョトンとした様に見開かれ首を傾げた。

そしてイーサンの口から思いがけない言葉が飛び出した。


「お父様、うわきでもしたの?」

「え?」

四才の子供からまさかの『浮気』という言葉。アウロアの思考は一瞬にして真っ白になった。

「だって、せいやく書に書いてたでしょ?」

今度はシャーロットがさも当然と言った感じで、舌っ足らずに可愛らしく言った。

内容がこんな事でなければ、思わず抱きしめたいほど可愛らしい。

だが・・・・

「な・・なんで、誓約書の事知ってるの!?」

「エルヴィン先生におしえてもらったー」

「もらったー」

何度も言うが、内容がこんなのでなければ、本当に可愛らしい双子の反応。

アウロアは視線で人を殺せるのではないかというくらい、エルヴィンを睨んだ。

だが本人はどこ吹く風。しれっとして「授業の一例として見せただけですよ」と返してきた。

エルヴィンは双子の教育係も務めており、教科書では学べない最前線で働く官僚たちの、生きた政治学を学ばせていた。

「他国との交渉の中で、誓約書というのは大事なものだとお話ししましたら、どういうものなのか実際に見てみたいと言われましたので、手近にあった陛下の結婚誓約書をお見せし解説したまでです」

「・・・・・何て事・・・」

思わず頭を抱えたアウロアだったが、直ぐに説明する手間が省けたではないかと思い直す。

子供達は親の贔屓目抜きにしても、かなり優秀だ。自分が四才の時は、勉強もせず木の棒を持って草原を走り回っていた事を考えると、雲泥の差だ。

「コホン・・・では、話の続きをします。イーサンの言う通り、お父様が側妃を望みました」

「え~、お父様ってバカみたい」

「ほんとうだね。お母様よりきれいな人なんていないのに」

「まぁ、ありがとう、二人とも。それでね、お城に残るか残らないかでお母様の対応も変わってくるのよ」

「せいやく書に書いてました」

「お母様もこいびとつくってもいいのよね?」

「えぇ。此処に残った場合はね。それでね、あなた達の意見も聞きたいと思って」

その言葉に「う~ん」と可愛らしい眉を顰めて顔を見合わせる双子。

その様子を見て、ブライトより遙かに優秀だわ・・・と、アウロアは内心驚きを隠せない。

いくら政略結婚とは言え、家族間は良好でブライトもアウロアも双子を溺愛していた。

だから「離縁」の事を言い出せば嫌だと泣きだすのではと思っていたのだ。

だが現実は、泣くどころか兄妹で額を突き合わせ何やら相談している。


あぁ・・・子供の成長を喜ばなくてはいけないのに、何だか寂しいわ・・・・


しみじみと思いながら二人を見ていると、大きくて可愛らしい目をアウロアに向けた。

「ぼくたちは、お母様にはお城にいてもらいたいです」

「でもそうなると、お母様はお父様以外の人と一緒にいる事になるわよ?そして、その人と貴方達も交流しなくてはいけないのよ?嫌ではない?」

「それは、お母様をたいせつにしてくれる人なら、かんげいします」


・・・・・なんて、健気!!


ブライトが悪いにしろ、離縁する事が非常に悪い事の様に思えてくる。

だが、アウロアには我慢する気などさらさらない。

子供を犠牲にしてまで自分の幸せを優先するのかと言われれば、その通り!と答えるだろう。

親には親の、子には子の人生がある。それに双子達はいずれ国を背負っていかねばならない。


両親の不仲などに心揺さぶられては駄目なのよ!まぁ、この子等の反応を見ていれば大人よね。

もしこれが自分の事だったら・・・思いっきり駄々をこね、大泣きしたかもしれないわ・・・


―――と、そこまで考えて、あれ?と思う。

この子達、本当に納得してる?と。


「ねぇ、お父様とお母様、本当にお別れしていいの?」

別に引き留めて欲しい訳じゃないけど、何か淡々とし過ぎてない?


二人を膝の上に乗せ、大きくて綺麗な瞳を交互に覗き込むアウロア。

「お母様を思って、無理しなくていいのよ。あなた達がどう思うか聞きたいの」

そう言うと、途端に二人の大きな目にぷっくりと涙が溜まっていく。

「お母様ぁ。もう四人でいっしょに、ねむることできないの?」

堪えきれずポロポロと涙を流し、シャーロットが本音を吐き出した。

「四人で剣のおけいこも、できなくなるの?」

イーサンも、いつ零れてもおかしくないほど涙を溜めている。

小さな手で縋りつきながら言い募る彼等は年相応で、贔屓目なく可愛い。

その可愛らしさに、アウロアの決心が揺らぎ始める。


と、取り敢えず子供達の意見を私は聞くけど、信念は曲げないわ!

そう!親には親の、子には子の人生があるんだもの!

わ・・・私は、子供を犠牲にしてまで自分の幸せを優先するのよ!

話せばきっと分かってくれるわ!

説明責任・・・・説明、責任・・・・


そう心で念じながら、彼等の攻撃を受け続ける。


「お父様とお母様と兄様と、おにわをかけっこ、できなくなるの?」

「お父様がお母様とぼくたちを、ぎゅってだっこしてくれなくなるの?」

「もう、四人でいっしょにいられないの?」

「お父様もお母様も、ぼくたちのこといらなくなるの?」

二人の大きな目からは、とめどなく大粒の涙が溢れている。

「お母様がお父様いがいの人と、なかよくなるのは、いやぁ」

「お父様がお母様いがいの人と、なかよくなるのは、いやぁ」


そう言ってアウロアの首に縋りつきながら泣く子供達に、アウロアはあっさりと白旗を上げた。

「――――エルヴィン・・・猶予を承諾します・・・・」

「ありがとうございます」


アウロアの斜め後ろに立っていたエルヴィンは、彼女の肩越しからこちらを覗く様に見ている双子に、こっそりと親指を立てた。

それを見た二人もさりげなく親指を立てて返す。

その姿を満足げに見て頷くエルヴィンなのだった。


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