タウルス・ウィルドは待ち望んでいた
カードの育成
通常ストーリー及びイベントでは敵との戦闘がある。敵の数やターン数はその時々の戦闘によって異なる。タイプはアタック(赤)、ディフェンス(青)、バランス(黄)の3種類があり、一回の戦闘に配置できるのは5人まで。
基本の陣形としては、手前にディフェンスタイプを置き、次にノーマル、一番奥にアタックタイプを配置する。
カードが揃ってきたら、レベルを上げたアタックタイプのみで速攻倒してしまうのが一番早い。
20××年の『新緑の温室』イベントからディフェンスタイプが有利な耐久戦や、多数の敵を倒すバランスタイプに有利な連戦も出てきたが、基本性能はアタックタイプが優れているので、初心者はアタックタイプの育成中心が望ましい。
このようなゲームバランスの悪さがユーザーに不評だが、運営からゲーム内容の改善を検討中と20××年×月の生放送にて回答があったため、今後に期待したい。
『長らくのご愛好ありがとうございました』
その声は、天から降ってくるようにも、体の内側から響いてくるようにも聞こえた。
俺はなんとなく、本当になんとなく「あ、終わったのか」とつぶやいていた。
季節は春、桜吹雪の舞う中、俺たち3年生の『卒業』という形で物語を終わらせたのは『運営』の最後の慈悲なのだろう。
『運営』という言葉が何を示しているのか俺にはわからない。当たり前に知っているようで、どこで聞いたか定かでない。不思議な概念。
でもこれだけはわかる。
きっと、もう知らなくてもいいことなのだろう。
「タウルスー! 寮のサヨナラパーティー参加するだろ?」
ジェミニが桜の木をぼうっと眺めてる俺を呼びに来た。
「んー、参加するけど。ちょっと行くところがあるんだ」
先行ってて、と手を振ると、いつものことだと思ったのか、ジェミニは特に訝しむことなく「じゃあ、またあとでなー」と去っていった。
「さてと」
卒業証書を持ったまま、ゆっくり歩いて向かうのは、ずっと部活で使っていた園芸部の倉庫のその奥。ガラスの壁に囲まれた色鮮やかな温室の中。
その温室でも一番奥の、樹木の陰になっているちいさな隠れ家のようなその中に、俺の探し人はいつもいる。
今日も卒業式だというのに、早々に式から姿を消したと思ったら、シルクのロングドレスを引きずりながら温室で土いじりをしているのだから呆れてしまう。
「先生」
「……」
返事はない。集中すると周りの声が聞こえなくなるから、いつものことだ。
「先生、レア先生。そろそろ休憩しましょう」
「……ウィルドさん、その呼び方はやめてくださいと申し上げたはずです」
「反応しない先生が悪いんですよ。ほら、せめてそのつやつやしたパンプスは脱いでください。ヒールが泥に埋まっちゃいますよ」
眉間にしわを寄せて振り向いたのは、長い艶やかな黒髪に、紫水晶の瞳の、ちんまりとしたかわいらしい人。
『魔法植物学の嬰児』と呼ばれ、16歳で最高学府を卒業した天才、プレアデス・オーネ。
俺が部長を務めていた園芸部の顧問であり、この温室の主でもある。
「もう汚れているので、今更靴を変えても一緒です」
――しかし、その実態は、非常にものぐさで、魔法植物以外に興味のない、割とダメ人間な御年20歳のご令嬢であった。
「一緒じゃないです。本当はそのドレスも着替えてもらいたいんですけど」
「んー」
この生返事は絶対に魔法植物に気を取られて何も聞いていないな。
何年この先生と一緒に園芸部をやっていると思っているのか。
「それよりもうすぐ咲きそうなんですよ、『燐光草』」
「ああ、あのあわや大惨事の問題植物……」
俺は遠い昔のように思えるあの日のことを、ぼんやりと思い返していた。
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「やあ、ようこそスピカさん」
「タウルス先輩! それにカプリコーム君!」
「スピカだー。今は部活見学中、だっけ?」
「そうなんです、まさか、こんなにきれいな温室が学園の中にあるなんて……」
スピカはあたりをきょろきょろと物珍し気に眺めていた。
「シグヌム学園は魔法植物学に力を入れていることで有名なんだ」
「魔法植物学、ですか?」
スピカにはあまり馴染みがないようで、こてりと首をかしげていた。
夜空のような深い紺色の髪がさらさらと肩を流れていくのが、女の子だなぁと思って見ていた。
俺は近くにあった白色の薔薇の花を摘んでスピカの目の前にかざした。
それを軽く振ると、花弁がさらさらと雪がほどけるように崩れ、細かい氷の粒になって地面へ消えていった。
「!?」
「ああ、そっか。初めて見ると驚くよね。――普通の植物に魔力を与え続けると、魔法植物になるんだ。魔法植物は普通の種類より効能が優れていたり、付加要素が付いたりするんだよ」
「授業だと簡単な魔法植物の育て方とか習ったりするよ。2年生後期の授業だったかな。俺たち園芸部は普通の植物から授業で習うより複雑な魔法植物までいろいろ育てているよー。どれも綺麗だからね」
「なんだか、すごく楽しそう!」
きらきらした目で見られると、俺も部長として、なんだか誇らしくなってしまう。
「園芸部はいつでも入部大歓迎だよ。そうだ、もうすぐ試作中の花が咲くころなんだ。スピカさんも一緒に見ますか?」
「ぜひ、お願いします!」
そうしてスピカを温室の奥へ案内すると、そこには茎から葉、つぼみのがくまで真っ赤な、俺の背丈ほどもある花が、今にも花開きそうにつぼみを膨らませていた。
「この花はつぼみが開くと七色の燃えるように光る花粉が舞う予定なんだ。『燐光草』って名付けようと思っているんだよ」
「花も細い花びらがいっぱい花火のようにまあるく咲く予定なんだよ!」
カプリコームも柄にもなくワクワクしているようで、説明に熱が入っている。
「それなら、夜に見るとそれこそ夜空に浮かぶ花火のようになって、とっても綺麗に見えますね……」
「確かに。それは気が付かなかった。スピカさんの視点は面白いですね」
「ヒラクヨー」
「え、さっきの声は……?」
「ああ、魔法植物は、時々喋るものもあるんだよ……『燐光草』にはそんな機能つけていないんだけどなぁ」
その時に、異変に気付くべきだった。
「ドッカンファイヤ――――――!!!」
「は!?!?!?」
開いた花は非常に大きく、サングラスのような目とギザギザの歯が生えた口で踊り狂っている。
そして、某有名ゲームの花のように、火の玉を口からぽんぽんと吐き出し始めたのだ。
「フィーバー!!!」
「ひぇえええ!!」
「なんっだよこれぇ!?!?」
「うーん、肥料の配合を間違えたのか、それとも水の量か……」
「タウルス先輩考察は後! このままじゃ他の温室の植物まで全て燃えてしまうぞ!!」
「そうだね、しょうがないか」
俺は右手を前に出して『付加障壁』を展開した。
燐光草の周りに半円のドームのような薄水色の障壁が張られ、火の玉が障壁にぶつかって消えていく。
これで物理攻撃だけでなく、魔法による攻撃も防ぐことが出来る。
さすがにノーダメージとはいかないが、先生を呼んでくるまでは持つだろう。
「カプリコーム、君は先生を呼んできてくれ。ここは俺が持たせる」
「わかった、先輩頼みます!」
「スピカさんはごめんけど、俺が障壁を張っている間、サポートをしてくれないか? 見たところ、数回に1度、大きな火球を出しているから、そのタイミングで障壁の強度を上げないと吹き飛ばされてしまう。俺はこちらに集中していて火球がよく見えないから、スピカがタイミングを教えてくれ」
「わかった……」
「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!!」
燐光草はなにやら楽しそうに呪文じみた言葉を唱えながら火の玉を飛ばしている。
「くっ、そろそろ厳しくなってきたな」
「先輩、私の魔力譲渡したらまだいけますか……?」
「いや、この状態を保ったまま魔力譲渡は難しい。しかし、このままだとジリ貧だ……しょうがない。あれを使うしかないか」
俺はポケットに入れていた鍵をスピカに放って渡した。
「奥の小屋の鍵だよ。あの中に魔力の中和剤が3種類あるから、そのうちどれかは効くはず」
「中和剤……ということは、もしかしてそれを使うと……」
「燐光草は『魔法植物』じゃなくなる。まぁ、こんな制御できない魔法植物生み出してしまった時点で消してしまわないといけなかったんだ。俺は甘かったよ」
「タウルス先輩……」
「スピカさん、早く! おそらく青い瓶の中和剤が一番効くはずだ」
「はい!」
スピカは小屋まで駆けて行って鍵を開けると、青い瓶を掴んで飛び出した。
その時、勢い余ったせいか、小屋の入り口でつまづき、手に持っていた瓶がスピカの手を離れてふわりと浮いた。
「あっ――!」
「任せろ――射貫け、聖槍」
宙を舞った青い瓶は、燐光草の真上まで来ると、俺の魔力で飛ばした光の槍で貫かれ、中和剤をシャワーのように浴びせかけた。
「ウォーター……」
みるみるうちに燐光草はしなりとしぼんでいき、ついにはへなへなと地面にくっつくように倒れ、そして茶色く枯れて土になってしまった。
「ごめんね」
土に戻ってしまった燐光草のあった場所を撫でる俺を、スピカは悲しそうな目で見つめていた。
「……タウルス先輩」
「スピカさんもごめんね。怖かっただろう?」
「いえ、私は大丈夫です。でも……」
「気にしないで。不完全なものを生み出してしまった俺が、まだ未熟だっただけだから」
「タウルス先輩ー! 大丈夫ですかー!?」
「カプリコーム君も戻ってきたね。スピカさん、行こうか」
俺はスピカに向かって、手を差し出した。
「最後くらいは、格好つけさせてくれるかな?」
「先輩は、いつも格好いいですよ」
スピカの言葉に、俺は「ははっ、そうだといいな」と少し明るい気持ちで笑っていた。
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「あの後先生に無言で怒られたのが、学園生活で1番怖かった思い出ですね……」
「人を襲う魔法植物を生み出してしまった時点で、すぐに枯れさせる判断を怠った。もし怪我人が出ていたら、君も退学させられていた可能性があるから怒るに決まっているでしょう」
でも、君の考えていたこともわかるよ、と先生は続けた。
「君の悲願だものね。暖かな魔法植物を作るのは」
「ええ」
燐光草の元になった花の名前は『火願花』と言った。
寒くなる時期に燃えるように赤い花を咲かせるため、魔法植物として昇華させたら燃料にならないかと様々な機関で研究されている花でもあった。
俺の故郷の村は、俺が幼いころに、酷い冷害に遭った。
よくある農村だったので農業以外に産業がなく、冷害が起こったら食べるものはほとんどなくなってしまった。
それなのに、去年と同じように火願花は咲き狂っていた。
火願花は食べられない。微弱だけれど毒がある。
それならせめて、俺たちを暖めてくれる火になってくれないかと、寒空の下で腹を空かせながら思っていた。
ずっと、ずっと願っていたのに。
その年に、俺の村はなくなった。
中央からの支援は届かず、ほとんどの村人が飢えと寒さで死んでしまった。
俺は魔力が高かったせいか、運よく生き残ったが、家族は俺以外には一人も助からなかった。
今でも覚えている。
つぶした家畜の骨が積みあがる畑。骨と皮だけの死肉をむさぼる烏。誰も埋葬しない骸に咲く火願花。
俺はあの地獄を、一生忘れることはないだろう。
「……少し、気がせいてしまっていました。今までで一番いい出来だったんで、ついに完成したのかと思っていて……いいえ、そんなの言い訳ですね」
「本来植物に熱というのは非常に相性が悪い組み合わせです。そんなに簡単に暖かくなる花ができてしまっては、研究者たちの面目がつぶれてしまいます――ほら、見てください。もうすぐ咲きますよ」
先生が指さす先で、つぼみがほころぶ。
花火のような燃える赤い花弁。ぱらりと舞う七色のホログラムのように光る花粉。
死を運んできた忌々しい赤ではない、暖かな緋色。
「先生……」
「中心温度は60度。持続時間は鉢植えなら3日、切り花なら12時間。茎の部分を持てば、松明としても使用可能ですが、コスト面で実用はまだ難しいでしょう。それでも、ひとまず第一関門突破、と言いたいところでしょうか」
「60度しかないということは、本当に燃えているわけではないのですか?」
「ええ、熱源と光源は別のものです。熱源は鉄を媒介にして、空気中の酸素を取り込むように調整して……」
要するに、使い捨てカイロのような原理か、と頭に浮かんだが、使い捨てカイロという言葉が何を意味している言葉なのか、自分でもよくわからなかった。
「君の肥料配合が役に立ちました」
「俺の?」
「ええ、あそこまで一人で考えられれば、君は一人前の魔法植物学者です」
そして、小さな声で「君が、卒業するまでにできてよかった」と。
それだけ言うと、先生はくるりと燐光草に背を向けて、歩き出してしまった。
「先生……プレアデスさん!」
ロングドレスから出ている細い腕を掴んだ。
「俺、隣国の魔法植物学専門の学院に行きます。プレアデスさんより卒業まで時間はかかるかもしれませんが、必ず戻ってきます。なので……」
待ってて、くれるでしょうか?
情けないほどに小さくなってしまった声は、それでも届いたようで。
「っ――」
「えっ……!?」
飛び込んできた小さな体をぎゅっと抱きしめてから、耳元で囁かれた言葉は、誰にも教えない、俺だけの秘密の言葉だ。
キャラクター:タウルス・ウィルド
擬人化元星座:牡牛座(Taurus)
CV:田丸篤志
年齢:(7月1日時点で)18歳
誕生日:5月5日
タイプ:ディフェンス型
総合力トップカード:SSR『待望の焔』(20××年『新緑の温室』イベントランキング上位ボーナスカード)
概要:主人公のことを何かと助けてくれる心優しい青年。常におっとりとした言動で、中々学園に馴染めない主人公に対して当初から優しく見守ってくれている。イベントでは実験に失敗したり、テストで解答欄をずらして書いてしまい補習になったり、騎馬戦で巻き込まれて早々に退場してしまったりする何かと不憫な目に遭う役目になってしまっている。
コメント欄
・トンチキイベの申し子タウルス先輩
∟温室イベのオタコール花は酷かった
∟あのイベが先輩の武器名初めて出たイベっていうのも酷かった
∟スタフロストってなんかきらきらしてていい名前よな
∟聖槍→星霜→スター(星)+フロスト(霜)→スタフロストやぞ
∟おやじギャグやん
∟ランサーってそういうポジなとこあるよな…
∟この人でなし!
・牛と山羊が園芸部は草生えるわ
∟タウルス先輩が園芸部に入部した理由はまた出しますって生放送で言ってたけど
∟出る前にサ終だよ
∟タウルス先輩だけじゃなく先輩推しも不憫すぎてつらい
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