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面接

 ……コンコン!!

「はい、どうぞ」

ドアをノックすると、向こうから初老の男性と思われる人の声が聞こえた。

「失礼いたします」

一呼吸おいてドアをゆっくりと開けると、大きな机に向かって座っている、推定年齢70代前半と思われる男性が難しそうな顔をしていた。

(この人がこの会社の社長か……)

結果を先に言ってしまうと彼は社長ではなかったのだが、社長と思わせてしまう貫禄というか風格というか、そういったものが備わっているような気がした。しかし今になって思えば、本当に気がしていただけなのかもしれない。とにかく緊張していていちいちそんなことを考える余裕がなかったから。

 さて、面接会場となるこの部屋は、いわゆる社長室になるのだろう。30畳ほどの広さの部屋には彼1人しかいない。彼が座っている大きな机が窓際にでんと構えていて、私がいるドア側には来客者と面談すると思われる丸いタイプのテーブルが置かれている。そのテーブルの真ん中にはこれまた豪華で大きな花が飾られていた。あまり花には詳しくないので、何の花かは分からないが。壁に目をやると、そこにはなにか優秀な成績を収めたであろう賞状がいくつも誇らしげに飾られていた。部屋の雰囲気はこの建物1階のショールームもシンプルながら華やかな印象はあったが、そこと比べると、あまりのギャップに少し戸惑った。そして私から見て左手にはドアがもう1枚あり、どこかの部屋とつながっているようだった。


 机に座っていた男性は私を見るなり表情をニコニコとさせ、しゃべり始めた。

「お、キミか。ウチに入りたいというのは?」

「あ、はい。くまさぶろうと申します」

「少し話を聞いたんだが、なにかおもしろい学校に通っているそうだね? ギターを作るとかなんとか?」

「はい」

「どっちのほう? アコースティックのほう?」

「いえ、エレキのほうです」

「あ、エレキかい。じゃああれだね、ロックとか好きなんだね?」

「そうですね」

心臓がバクバクで緊張のピークに達していたのが分かったのだろうか、雑談みたいな展開になって少しだけ緊張がほぐれた。

 しばし彼と雑談していると、左手にあったドアから50代くらいの男性が資料を手にやってきた。

「すいません、お待たせいたしました」

「遅いよ! 待たせちゃいけないでしょう」

「はい」

彼は社長に少し怒られた。時間に厳しい会社だ。その時の私はこの会社にまったくマイナスのイメージを持っていなかった。

「じゃあ始めましょうか。どうぞこちらの席へ」

手前の丸いテーブルの席へ案内され、席に着いた。


 ついに面接が始まった。緊張が再びピークに達し、口の中はカラカラでうまく話せるか不安だった。しかし面接時間約30分のうち、8割は社長のお話で終わってしまった。内容としては、

1.営業マンのあるべき姿

2.社会人になるということはどういうことか?

3.指示を待つだけの人間にはなるな

4.こういう人間になってほしい

5.会社の沿革

他にもいろいろあったが、緊張していてまったく覚えていない。それよりも面接で聞かれる定番の、志望動機とか自分の長所・短所とか意気込みとかまったく聞かれない。これ、このまま面接が終わっちゃうんじゃないか? さっきの筆記試験の時に面接官を立たせることなく1人で進めたり何も聞いてこない面接だったりと何かおかしいと思いつつも、このままこの状況から抜け出せるならラッキーと思うほうが強かった。そんな不安というか安堵感が心の中に芽生え始めたところで、後からやってきた50代の男性にバトンが手渡された。

「じゃあくまさぶろうさんね、1つだけ聞くけど」

やっと面接らしくなってきた。どんな質問が来る? 志望動機か? 意気込みか?

「……友達、いる?」

「……え? 友達……ですか……?」

まったく予想もしていなかった質問に、思わずキョトンとしてしまった。

「ええ、もちろんいますけど……」

ちょっとカチンときた。友達がいるかって、失礼な質問だな。根暗に見られたのか?

「本当に?」

「はい、本当です」

現に友達はたくさんいる。大学時代の同じクラスだった人とは連絡を取り合っているし、SNSでも繋がっている。高校時代の友達もまったく違う地方の大学に進学してしまって減ってしまったが、同じ東京の大学に進んだ人とは仲良くしている。もちろんたまに会って遊んでいる。専門の人も一緒だ。

「そう。ならいいんだけど。……いや、なんでこんな質問をするかというとね、くまさぶろうさん、ギター作ってるんでしょ? そういう黙々と作業をする人たちって、どうしても内向的になっちゃう傾向があるじゃない?」

「あぁ、なるほど……。」

これって偏見では? なんか納得がいかない。

「じゃあ最後に。何か質問はありますか?」

「質問ですか……。異動はもちろんあるかと思うのですが、どれくらいの頻度であるのでしょうか?」

「異動ね。まぁだいたい2~3年くらいに1回と思ってくれれば。といってもまだ市内にしかお店はないから、異動っていうほどのものでもないですけどね」

「なるほど、分かりました」

「他には?」

「他……。いえ、特にないです」

「はい、分かりました。じゃ、これで面接は終わります。結果は後日、郵送でお知らせいたします。お疲れさまでした」

「ありがとうございました」

深々と頭を下げ、お店を後にした。


 帰り道。

思えば変な面接だった。いろいろ突っ込んだ質問が来るのかと思えばお話を聞くだけ。肝心の質問は「友達、いる?」の1つだけ。こんなのでいいのか? 自分としては楽だったが。まったく手応えを感じなかったから、受かるのか落ちるのか、判断がつかない。もやもやした気持ちのまま、家路についた。

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