悪魔・アルバム・ヒロイン
投稿日:7/26
時間:55分
文字数:1580字
悪魔・アルバム・ヒロイン
昔から写真に撮られるのが好きではなかった。
写真を撮ると魂が抜かれるだとか、悪魔は写真に写らないだとか。
悪魔じゃなく、吸血鬼だっただろうか。
そんなことをどこかで聞いたことがあるからだろうか。
どうにも写真というのがあまり好きではなかった。
周りの子たちが思い思いのポーズを取る中で、
どうやったらより写らないで済むかを考えていた。
結果として、アルバムに残る自分の姿はそのほとんどが
そっぽを向いていたり、帽子を深く被っていたりと
ささやかな抵抗の跡が残るものとなっていった。
そんなことばかりするものだから、いつしか親も
俺を写真に撮ろうとすることは減っていった。
それでいい、気が楽だと思っていた。
そんな俺と違い、近くに住む従妹は写真が好きな子だった。
カメラを持っては、そこいら中を何かないか歩き回っていた。
道端に咲いている花が気に入ったのかいろんな角度から撮ってみたり。
うちの飼い犬であるクロをやたらアップで撮ってみたり。
草むらに寝転んだかと思えばそのまま頭上の空を撮ってみたり。
親の言いつけで一緒にいる俺にも容赦なくそのカメラを向けてくる。
その度に慌ててそっぽを向く俺を見てクスクス笑いつつシャッターを切る。
その姿を見てなぜかほっとする自分がいるのだった。
そんな従妹と卒業アルバムの写真を選ぶ係になったのは、意図してのことではない。
たまたま俺が風邪で休んでいる日に決められた結果、そこに割り当てられてしまった。
それを従妹から聞かされたときに思わず絶句してしまったのは仕方のないことだと思う。
珍しいことに従妹はその姿を見て笑うでもなく、不安そうな表情を浮かべた。
「あの、本当に嫌だったらあたしからも先生に言ってみるけど…」
決して嫌なわけではない、ただ従妹と二人というのがどうにも気恥ずかしかった。
「いや、別に大丈夫だ」
そう言うと従妹はほっとしたようだった。
写真を選ぶのは一筋縄ではいかなかった。
記念である以上、クラスの全員をバランスよくアルバムに載るようにしなければならない。
それに加えてアルバムに載せる以上、できるだけ見栄えの良いものにしなければならない。
普段から写真に写らないようにしている俺のような奴はほかにいなかったが、
それでも一人ずつどの写真がいいか選んでいくのは候補を決めるだけでも大変だった。
必然従妹と話す機会も多くなっていく。
休みの日もどちらかの家に行ってはああでもないこうでもないと話し合う。
そうこうするうちに、どうにか二人以外は選び終えることができた。
問題の二人、自分たちの写真。
俺の写真はその多くが俺であるかの判断もつかないような遠目でのものか、
そっぽを向いたりでアルバムに残すにはどうにも格好のつかないものだった。
従妹はといえば、みんなの写真を撮るのに専念していたからか、まるで数がなかった。
「うーん、なんとも難しいねー」
「お前がそんなに写真に写っていないとは思ってなかったわ」
「いやぁ、あたしも予想外だったよ」
そうしてお互いに押し黙る。
いや、一つだけあるのだ。
俺も従妹も真正面から映っている写真が。
後ろから肩を叩かれ、振り向いたときに撮られた写真。
友人の悪ふざけによって取られたその写真。
従妹とのツーショットが。
顔が赤くなっていないか不安になる。
こっそりと従妹を見る。
目が合う。
慌ててお互いに目をそらす。
もう我慢の限界だった。
「な、なぁ」
「うん」
「お前さえよければさ…この写真使おうぜ」
「あ、あたしは構わないけど…嫌じゃない?」
緊張のあまりなんと答えたんだったか覚えていない。
そうして完成したアルバムがここにある。
今まで写真にはあまりいい思いを抱いていなかった。
それも今日からは少しは変わっていくんじゃないだろうか。
「ねぇねぇ」
振り返ると、シャッター音。
「えへへ、隙あり!」
満面の笑みの彼女の姿を見ながら、そう思うのだった。
お題の「アルバム」「ヒロイン」から写真が好きなヒロインが誕生。
話を回すために主人公はあまり写真が好きではない設定に。
この設定がそもそもあまり生かせず終わってしまった。
今回は下記のような「話にだせないままの設定」が多くなってしまった、反省点。
・「ヒロインに撮られることだけは嫌がらない」姿から、周りからは半ばカップル扱い
・「卒業アルバムの写真を選ぶのが従妹と主人公」なのも周りからの後押し
「悪魔」についても「いつも悪ふざけをする友人」についてもう少し描写するつもりが、
描写がカットされたことにより無理やりな消化となってしまった、反省点。
この三題噺でのルール外縛りとして、「登場人物には名前をつけない」縛りをかけていたが
今回はその縛りを解除しようかと何度も考えることとなった。仲がいいのに名前を呼びあわない二人…
上記の通り、今回は反省点の多い仕上がりになった。