陰・地平線・物語
投稿日:7/21(短編投稿後、連載に変更)
時間:1時間20分(20分オーバー)
文字数:1363字
陰・地平線・物語
そこにたどり着いたとき、何を思っただろうか。
子供の頃に読んだ物語を、今でも覚えている。
「地平線の果てには、なにがあるのか」
気になった主人公たちが、冒険の旅に出る話だ。
旅路は長く何度も諦めかけ、それでもたどり着いた主人公たち。
物語の最後は、こう締めくくられていた。
「彼らがそこで見たものも、感じたことも、わたしにはわかりません。
その答えは、あなたたち自身で確かめてみてください。」
あこがれの場所へ向かうと決めたとき、賛同してくれた人は僅かだった。
「もう少しいろいろと考えてみたらどうか」と諭された。
「ここに何の不満があるというのか」と尋ねられた。
「夢物語に生きるのも大概にしたらどうだ」となじられた。
そんな中でも
「周りの声に惑わされる必要はない」と言ってくれた恩師がいた。
「きつかったら戻ってくればいいさ」と言ってくれた母がいた。
「無事に帰ってきなさい」と言ってくれた父がいた。
「仕方ないなぁ、君は」と苦笑いしつつ、ついてきてくれた友がいた。
旅路は困難の連続だった。
最初こそ普段見ない景色にはしゃぎ、新しい町を訪れる度に
自分たちのいた村との違いに感激していた。
しかし旅を続けていく中で、世界は決して綺麗なものばかりではないことを
目の当たりにすることとなった。
生きるために人から物を盗んで暮らす子どもたちを見た。
ふらふらになりながら物乞いをする老人を見た。
領主の私腹を肥やすために法外な税をかけられ、苦しむ人々を見た。
僕らは何をすることもなく、それをただ見ていただけだった。
何もできないことをはがゆく思いながら、ただ見ているだけだったのだ。
時には喧嘩もあった。
大体は僕の世間知らずと言葉足らずが原因だった。
「お願いだから脳内で完結しないで言葉にしてくれないか…」
と友人が頭を抱えた回数はもう思い出せない。
本当に迷惑をかけることになってしまった。
一方で友人の妙なものに興味を持つ癖が原因で発生した喧嘩もそこそこあった。
「なぜこの壺の素晴らしさがわからないんだ、この芸術的な形をごらんよ!」
「旅の最中だっていうのに、そんな壺買ってどうする気なのさ!」
何回か喧嘩をするうちに、自然と喧嘩の中にもルールが定められていった。
・食事の席では停戦する
・暴力には訴えない
・納得できない部分を伝えあい、その上で妥協点を探す
・妥協点がない場合には、お互いに諦める
喧嘩をすること自体が少しずつ減っていったが、このルールは今も守られている。
そうして、今僕は地平線の果てに立っている。
旅路の中でいろいろなものを見ることとなった。
善い物も、悪い物も、綺麗な物も、汚い物も。
物陰に潜む悪意もあれば、日向の往来で人の善意を見ることもあった。
弱い人から更に奪い取る人の姿を汚いと思い、整えられた庭園に美しいと思った。
僕が見てきたものは世界の一部で、まだまだ見ていないものは数多くある。
それでも、この旅の中で見てきたものは今見ているこの景色も含め、
村にいただけでは決して見ることはなかっただろう。
隣に立つ友人は何を感じているのか、僕にはわからない。
でも、それでいいのだろう。
地平線の果てには、なにがあるのか。
物語の最後は、こう締めくくることにしようと思う。
「彼らがそこで見たものも、感じたことも、僕にはわかりません。
その答えは、彼らだけの物だから。」
お題の中に「地平線」を見つけた時点で某幻想楽団が頭に浮かび、
「地平線の果てを目指す」にイメージが固定される。
「物語」を地平線の果てを目指す上でのフックとして使用することに決定。
初めに物語を使ったので、締めも物語で締めたいと大まかな方針を決めた上執筆開始。
ここでしっかり終わりを見据えていなかったために最後の無理やり感がひどい。反省点。
「陰」については結局のところ無理やり「物陰」などの単語を使うにとどまってしまった。
当初の想定ではこの話全体に暗い雰囲気をにじませることでお題達成にしようと思っていたが、
思ったほど暗い雰囲気を出せなかった気がする。反省点。




