五話 魔法少女は解体ショーを開いたようです。
さて。
リビング・メイルが切り株をすべてくり抜いたその後。
俺は切り倒された木を使って、とある実験を始めることにした。
実験、というのは素材変換スキルについてだ。
素材変換スキル。
ステータスレベル1の時に、鑑定スキルと共に最初から習得済みになっているスキルだ。
終末世界オンラインでは、素材が5種類存在する。
武器を作るために必要な鋼材。
消費アイテムを作るのに必要な薬品。
体装備や装飾品など、いろいろな装備品を作るのに必要な獣品。
魔導具を作るのに必要な宝石。
そして最後が、このゲーム特有のオリジナル魔法作成システム、『魔法ツクール』でオリジナルの魔法を作るために必要な魔法式。
素材変換スキルは、それぞれのアイテムから、対応する素材を作成したり、倒した魔物をアイテムに変換するスキルだ。
さて。
今回の実験についてだが、先程朝食として捉えた、あの青いイノシシを覚えているだろうか。
そう、ウルボアだ。
でかい図体して、百グラムステーキ一枚分しかお肉をくれなかった、あのケチなイノシシだ。
あのイノシシを倒した時、死体は残ったままで消滅はしなかった。
その後素材変換スキルをゲームと同じように行使すると、イノシシの肉とウルボアの角二本に変換された。
では諸君。
ここで一つ疑問なのだが、もし仮に、あそこでスキルを使わずに、血抜きして捌いて、と自力で肉を削ぎだしていたら、もっとお肉を貰えたのではないだろうか?
「……というわけで」
俺は豪腕スキル(レベル2/10)を使って、伐採された木を二本、整地された地面に並べて、それを交互に見比べ、宣言した。
「素材変換スキルの弱点を探してみよう!
おーっ!」
……。
……。
はい。
もう、何かね。
ずっと周りが木、木、木、木ってなってくるとね。
もう頭がなんかおかしくなってくるんだよね……。
一人で叫んでみたものの、数匹魔物がこちらに反応しただけで、言葉を返してくれる人は誰もいないのです。
……あ、ちょっと涙出てきたかも。
それはさりとて。
とりあえず反応した魔物を《ウィンドカット》で処理して、先ずは木以外のものから検証していくことにしましょう。
俺は頭の中に、某マヨネーズの3分間クッキングのテーマ曲を流しながら、死体になった魔物を三体運んできた。
今回捉えたのはこちらの三匹になります。
ブラックスネイク ×1
ブラックパンサー ×1
ウルボア ×1
「またウルボアかよ……」
俺は苦笑混じりにそう言うと、とりあえずウルボアを裏返して、腹にストレージから取り出した試作のナイフで切り裂いていく。
「固っ!?」
手応えがなんかリアルすぎて気持ち悪い。
ゲームではメインキャラをソードマンにしていたおかげで刃を突き立てるのに忌避感はさほどわかなかったが、この手応えはちょっと予想してなかった。
「ほんと、変なところリアルだよな、ここ」
か弱い少女の腕で、豪腕スキルを併用して何とか腹を切る。
内蔵を傷つけないように、慎重に腹を割く。
尻尾や性器を取り除き、中に手を突っ込んで内蔵を取り除くが、その前に一旦体装備と足装備を消して、汚れても大丈夫な服に着替え、挑戦する。
「動物なんて捌いたことないからな……。
これでやり方あってるのか……?」
俺は腰をグリグリと回してから、ウルボアに向う。
それからしばらくして、内臓を抜くことに成功した。
「ふぅ……」
なんか手が生臭い。
あとで《ウォーターボール》で洗っておこう。
とりあえず検証としては、どうやら素材変換スキルを使わない方が大量に肉をゲットできるが、面倒くさいということがわかった。
「んー……。
食料を手に入れるって所ではやっぱり、手で捌いたほうが量は取れるんだよな……。
でも面倒くさいし……」
骨取るのとかってどうすんの?
魚とやり方は同じでいいのか?
「……とりあえずストレージにぶち込んで、蛇となんか猫っぽいの処理しよ」
面倒くさいし、もうスキル使って楽に済ませようか。
何より、早く体洗いたいし。
そういうわけで、俺は残り二体の魔物に手を触れると、素材変換スキルを行使した。