四話 便利な下僕を手に入れた!
とりあえず、索敵スキルを使いながら森を探索すること数分。
俺はイノシシを見つけた。
いや、正確にはイノシシではない。
何せ体色が青い上に、足が六本あるし胴体が長い。
鑑定スキルを使って確かめてみると、どうやらウルボアという名前らしい。
レベルは28。
俺の敵ではないな。
俺は索敵スキルと命中補正スキルを併用してウルボアに魔法の照準を合わせた。
「《ロック・バレット》」
放ったのは、メイジレベル1で習得できる《ロック・バレット》。
メイジはマジシャンの下位職業で、ウィザードの二つ前の職種だ。
俺が、小声で照準を合わせたウルボアに唱えると、そいつに向かって礫弾が弾け飛んだ。
「ブギヒィィィッ!?」
礫弾は見事ウルボアの頭にぶち当たると、貫通して向こう側の木にぶつかって止まった。
「うん、問題なく発動したな」
俺はそう呟くと、いそいそとウルボアのところへと向かった。
「にしても、さすが異世界……。
こんな魔物、ゲーム時代には居なかったぞ……」
死体に触れて、素材変換スキルを行使すると、ウルボアの死体が淡く光って消え、目の前にウィンドウが表示される。
⚪⚫○●⚪⚫○●
討伐報酬
EXP 28
ドロップ
イノシシの肉 ×1
ウルボアの角 ×2
⚪⚫○●⚪⚫○●
経験値28か……。
まあ、弱かったし、仕方ないかもな……。
(ていうか、リアルになってもここは同じなんだな……)
俺は苦笑いを浮かべると、さて早速獲得した食料アイテムをストレージから引き出してみた。
ウィンドウから現れたのは、赤い血液に濡れた肉が一切れ。
百グラムステーキ一枚分くらいだろうか……?
「イノシシ一頭、しかも普通のより結構大きいやつからこれだけしか取れないって……。
効率悪すぎだろ」
俺は土魔法の《クラフト》を使って、即積の調理台を用意すると、火魔法の《炎熱操作》を使って肉を焼く。
「そういや、イノシシ食うのって何年ブリだっけなぁ……。
あの頃は中学生くらいだったか」
暫く肉の焼ける音を聞きながら、昔を懐かしんだ。
「……もう、帰れないんだよな」
肉をトングで裏返す。
表面がちょっと鉄板にくっついていたので、風魔法の《風圧操作》と命中補正スキルで剥ぎ取った。
「まあ、別にいいけど。
ていうか、そんなことよりソースが欲しい。
ポン酢でもいいや。
とにかく味付けになる調味料が欲しいな……」
しばらくして焼きあがった肉を、《クラフト》で作ったナイフとフォークで突きながら愚痴る。
「あとお米。
やっぱり、焼き肉にはご飯がないと落ち着かんわ」
どうせなら野菜も欲しいところだけど。
無い物ねだりしても仕方ない。
「森を抜けたら人里を探してみよう。
よし、そうだな。
先ずは村か何か、人の住んでる場所を探すことにしよう!」
じゃないと、寂しくて俺泣いちゃうかも。
俺は焼き肉を感触すると、水魔法の《ウォーターボール》で出した水で口を洗いだ。
⚪⚫○●⚪⚫○●
腹ごしらえを終えた俺は、あの池のある場所まで戻ってきた。
さっきこの森を抜けるとか言っていたが、でもやっぱりここはなんだか落ち着くのだ。
森を出るのは準備を整えてからにしても遅くはないだろう。
「……とりあえず、寝床建てるか」
ここは水飲み場だ。
寝ている間に獣が来る可能性は十分にある。
壁に囲まれた安全スポットを作るのは悪いことでは無いはずだしな。
俺はそうあたりをつけると、とりあえず邪魔になる木々は伐採して、床を平らに整えることにした。
「《ウィンドカット》」
命中補正スキルを使って、対象範囲を指定すると、俺は手刀を横薙に振るって、風魔法の《ウィンドカット》を発動した。
《ウィンドカット》は、メイジレベル2で覚えられる、初級攻撃魔法。
ジョブレベルが上がると、広範囲に攻撃できるスグレモノだ。
続いて召喚スキルを使って十体ほどのリビング・メイルを召喚する。
リビング・メイルは文字通り動く鎧だ。
中身は何も入ってなかったりする。
「うっ!?」
ふと、体の中から何かがズルっと抜けていくような、そんな不快感に襲われた。
「な、何だ……今のは……?」
もしかして、何かのバッドステータスでも受けているのだろうか?
そう思ってステータスを開いてみると、しかしどこにも状態異常を示すようなアイコンは表示されていなかった。
何か変わったこともなく、称号欄には相変わらず変な称号が二つついているのみだ。
それ以外の変化といえば、多少MPが減っている程度だが……。
俺はウィンドウを閉じると、召喚したリビング・メイルに目を向けた。
リビング・メイルに変わったところはない。
若干、昔よりグラフィックがリアルになって、金属光沢がついた程度だ。
召喚獣のパラメータにも、何ら異変は見当たらない。
「……消去法で行くなら、MPの減少か……?」
だが、さっき《ロック・バレット》を放ったときや《ウィンドカット》を使ったときは何も起こらなかった。
「うーん、多分想像はつくけど、検証はまた今度にするか。
とりあえずリビング・メイルに指示を出して、切り株を抜いてもらおう」
ゲームではできなかった用法だが、リアルとなった今でならできるかもしれない。
俺は疑問を頭の片隅へ追いやると、リビング・メイルに切り株を抜くように指示を出した。
「リビング・メイル。切り株を抜きなさい」
すると彼らはくるりと背を向けると、各々自分から近いところにある切り株を一本だけ抜いて、行動を停止した。
どうやら実験は成功したみたいだ。
(うーん、全部抜かなかったのは本数を指定してなかったからかな?)
実験し、結果の予想を立て、考察し、検証する。
今度は本数を指定して、リビング・メイルに命令した。
今度は二本だ。
「リビング・メイル。切り株を二本抜きなさい」
命じると、動きを止めていた彼らが再起動して、命令を履行した。
どうやら仮説はあたっていたようだ。
(なら今度は、命中補正スキルを併用して――)
「リビング・メイル。切り株を抜きなさい」
俺は命中補正スキルで切り株を指定してから、三度同じ命令を繰り出した。
するとリビング・メイルは予想通り、すべての切り株を引き抜いてくれた。
「うん、これ便利だな。
いろいろ活用法が見えてくる」
だけど、命令の内容は多分、具体的に指示しないと思い通りに動いてくれない。
命令の方法によっては、自爆する可能性すらある。
(便利だけど、用法はちゃんと気をつけよう)
そう心に決めるアリスであった。