五話 小鬼族の里探し計画を練りましょう。
どうも。
無性に腹が立ったので威圧してみたら、関係のない人にまで影響が及んだ挙げ句、気絶する人や失禁しちゃった人まで出て来てちょっとビックリしているアリスです。
あ、人って言っても俺達みたいな人間……人類は一人も見当たらないです。
はい。
徹底的に人間がいません。
多くの割合を占めているのは獣人で、その次に多いのが耳がちょっと長めの、暗い髪色をした人たち――たぶん、悪魔だろうね。
たしかイルマちゃんも悪魔って言ってたな……。
で、その他は多分妖精に分類されるのかな……?
ドワーフっぽい人とか、エルフっぽい人たちがチラチラと見える。
……まあ、その人たちは今全員、気を失っているわけだけど。
「これは……貴方様方達がおなさったのですか!?」
そんなことを考えていると、ドタドタと慌ただしい足音を立てて、二階からライオンの獣人と思われる人が降りてきた。
「うん、慌てすぎて敬語がめちゃくちゃになってるよ?
とりあえず落ち着いてくれるかな?」
あまりにも酷い慌てようだったので、俺は乾いた笑みを浮かべながら、どうどうと彼を沈めた。
(たぶん、この世界だとこれも状態異常に判定されてるだろうし……)
俺はそう言うと、まだ顔が青い彼に笑顔を浮かべながら、気配探知で気絶している人たちを探し出して、命中補正スキルでロックオンする。
「《ブラッシング》」
俺が魔法名を唱えると、次の瞬間気絶していた人たちが起き上がり、失禁していた人たちの尿が消滅し、ブルブル震えていた目の前のオッサンの震えが止まった。
(こんなものかな)
魔力向上スキルレベル35で開放されるスキルMod:低燃費による影響か。
《ブラッシング》による消費魔力コストは、思ったより低かった。
ちなみに低燃費は、その使用するスキルの属性の熟練度が高ければ高いほど、消費魔力が抑えられるというModだ。
すると彼は、突然止まった体の震えや恐れに疑問符を浮かべだ。
周囲を気配探知で確認してみると、彼らも同じように急に収まった恐怖諸々に首を傾げているのがわかった。
「さ、さっきのは……?」
「ただの魔法だけど?
ねぇ、そんなことより冒険者登録したいんだけどさ。
急に係員の人とかまとめて崩れ落ちちゃったんだよね……。
代わりに頼めます?」
この時、アレンはそんなことを笑顔でライオンに告げる彼女を見て、思った。
(……あ、この人絶対後で俺の同族になる)
だって見てよ、あの表情!あの目!
完ッ全に新しいおもちゃを見つけた子供みたいになってるんだぞ!?
アレンは両掌を合わせると、そこのライオンに向かってお辞儀をした。
もちろん、それと同時に口に出した言葉は「南無」の一言だった。
ライオンはその意味有り気なアレンの態度を見て何を思ったのか。
恐らく野生の勘とでも言うべき何かが働いたのだろう。
彼は快く(?)アリスの依頼を承諾すると、再度身分証明書の開示を求めた。
そしてその結果。
彼はこの従業員がやらかしてしまったであろう失態の内容を、ほぼ完璧に把握したのだった。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「いやぁ〜、滞りなく進んで良かったねアレン。
なかなか面白いものも見れて、私は大満足だよ♪」
「だろうな……」
ギルドを後にしてしばらく。
持っていた素材アイテムをその場で売って路銀を得た俺たちは、そのままあのライオンが勧めてくれた、格安かつ飯がうまいと評判の宿へと足を運んでいた。
「……ん、私?」
俺は肩をすくめながら盛大なため息をついて首肯すると、先程聞こえた彼女の一人称に首を傾げた。
「ん?
なにか変かな?」
「いや、今まで一人称が“俺”だったから、ちょっと違和感を覚えたんだ」
俺は途中で買った串焼きを完食して、質問の内容を補足する。
「あー……。
これはアレだよ、アレ。
周りから不審な目で見られないようにっていう配慮さ」
「……お前、あれが不自然だって理解してたんだな?」
「うっせ、変態」
「誰が変態だチビ」
そんなやり取りを一通りしつつ、俺達はようやく宿についた。
宿があった場所は、ギルドを取り巻く商店街を抜けて近いところにある宿で、4階建ての石木造りの宿だった。
「ここだな、『馬の骨亭』」
手に持った地図を照らし合わせながら、俺は到着を宣言する。
先に前へと突っ走っていった元気な銀髪美少女はといえば、日本ではまず見かけることのない造りの外観にため息をついていた。
「おおっ!
凄いよアレン!
なんかこういうのドイツとかにありそう!」
謎の判断基準で謎な褒め方をする彼女に、俺は苦笑いを返しながら頷いた。
中に入ると、内装もかなりきれいに整えられていて、本当にここが格安なのかと疑いたくなる雰囲気があった。
まるで、何かの映画のセットみたいだ。
(樽って俺ゲームでしか見たことねぇわ……)
俺は椅子代わりに使われているそれを遠くから眺めながら、たしかに彼女の興奮のしようも仕方ないと感心していた。
「いくよ、アレン!」
彼女はそう言うと、鍵を指でくるくると回しながら、上り階段の上から呼んだ。
どうやらいつの間にか部屋を取ってきたらしい。
俺はそんなはしゃぎまくりな彼女に苦笑いを浮かべると、急ぎ足で彼女の後を追った。
⚪⚫○●⚪⚫○●
俺――いや私は、白いシーツの敷かれたベッドを発見するなり、ダイビングした。
「痛っ!?」
ら、思ったより固くて反発もなくてびっくりした。
「何これ硬ッ!?」
私はベッドを手でポンポンと叩きながら、その硬さを確かめた。
この硬さは、明らかに藁でも羽毛でもない。
たしかに、押せば凹む感触はある。
手を優しく包み込む柔らかさは残っている。
……が、硬い。
少なくともダイブしたら痛いってくらいには硬い。
「なんというか、よく弾む木の板を並べた感じの硬さ……かな?」
冒険者って、よくこんなところで寝れるなぁ……。
私だったら絶対無理だ。
「よし」
私は一つ頷くと、アイテムストレージから私特性のふかふかエルダー・コカトリスの羽毛布団とレザーの敷物を取り出して、ベッドの白いシーツの上に重ねた。
ちなみに敷物は単に、私の布団が汚れないようにするための予防策だ。
「ふう、これで大分良くなった……」
エルダー・コカトリスの羽毛布団と比べれば天地の差だわ、これ……!
「コカトリスに感謝しないとな」
私は頬を緩めると、そのまま眠りにつこうと目を閉じようてして、響いてきたノックにむくりと身を起こした。
「……」
見に行って確かめるのも面倒だった私は、気配探知を使って扉の外を確認する。
(なんだ、アレンか)
もしかしてアレンも布団が硬かったからって、いつものエルダー・コカトリスの羽毛布団でも取りに来たのかな?
まあいいや。
どうせこれからの方針とか話し合わないとだし、ついでに。
私はそう考えると、魔力操作スキルを使って扉を開けた。
「うおっ!?」
まるで自動ドアのように開いた扉に、アレンが驚いた声を上げた。
「どうしたのビビリ」
「誰がビビリだ!?」
「じゃあ変態」
「変態でもねぇ!?」
一通りのやり取りを終えて満足した俺は、満足そうにふふん!と鼻息を吐いて、彼を部屋に入れた。
「それで、用事は?
コカトリスの羽毛布団を取りに来たんじゃないんでしょ?」
私は単刀直入に要件を聞いた。
「あ、それは後で俺も頼む。
それで要件だが、これからの方針について話そうと思ってな」
「奇遇だね、私もそう思ってた」
私はそう言うと、ウィンドウを操作して机と椅子を出して、席についた。
これからの方針について、というのは、どうやってあの里を探し出すかということについてだ。
あと、《最果ての森》に潜るのに必要なアイテムについて。
それらのことについて、2人は話し合った。
里を見つける手段については2人で議論していてもなかなか答えが出なかったので一旦保留として、とりあえず食関連のアイテム――特に調味料や主食にするパン、もしくは米。無ければ類似品。そして料理用の教本。もしくは料理のできる仲間。
それ以外では特に森の中で生活する上で困ったことはなかったので、とりあえず明日からはそれらを集めること、それとストレージの食料の保存状態の実験用に、何か生物をいくつか揃えるということが決まった。
「それじゃ、また夕飯時な」
アレンはそう言うと、、肩にレザーシートに巻かれた羽毛布団を担いで私の部屋をあとにした。
明日からは大変そうだな。
一瞬そんなことを考えたが、よくよく考えてみればあの森でのサバイバル以上に大変なことなんてそうそう起きないだろう。
私はそんなふうに楽観的に考えると、マップ画面を開いて、明日に備えて店の場所の把握に務めるのだった。




