二話 ここが異世界だと確定しました。
「しっかしそれにしても、転移させるならもっとマシな場所あっただろ……」
柔らかい日差しの差し込む森の中。
銀色の髪を垂らして、木の根に腰を下ろしながら愚痴をつく。
あれからしばらく森の中を探索したが、見つかったのはきれいな池があるこの場所だけ。
動物は遠くにちらほら見えるが、襲ってくる気配は無し。
虫もそんなにいない。
崖を見つけてそこから遠くを見渡してみたりもしたが、残念でした。
どこを見ても樹海が続くだけだ。
平原や村、集落なんてものは一切見当たらない。
「……まるで、終末世界オンラインみたいだな……」
終末世界オンラインとは、オンラインと称していながら一人プレイ用のVRRPGのタイトルである。
池を覗いたときに映った顔が、どこか見覚えのあるものだった気がしたが、そういえばこの顔は、俺がサブキャラとして作っていた女の子にそっくりだった。
主に性欲を満たすために使っていたキャラだったが、そういえば、魔法スキルも結構上げていたっけ。
「試しに、メニュー開いてみるか」
俺はそう呟くと、右手の薬指と小指だけを立てて、左から右へとスライドさせた。
すると、目の前にメニューが開示された。
「お、あたりか……。
てことは……何か?もしかしていつの間にか寝落ちしてたのか?」
西暦2035年、安久17年の今日。
VRゲーム用のヘッドセットには、確か五時間操作しなかった場合強制的にログアウトするよう、セーフティが掛けられていたはずだ。
もし寝落ちしていたのだとしたら、まだ寝落ちしてから五時間経過していないという事になるが。
俺はさっとメニューに目を走らせると、メニュー右上の時計を確認した。
時刻はどうやら5時前らしい。
(うん。
やっぱ寝落ちしてただけだわ、これ)
あまりにも触覚がリアルだったから、遂には異世界転移でもしてしまったのかと思ってた。
「……ん?」
いや、それはおかしい。
俺はメニューを閉じると、ふるふると頭を横に振った。
VRはこんなに感覚リアルじゃなかったし。
たしか処理容量の問題で視覚と聴覚と多少の触覚以外は再現されてなかったはず。
それに、これはMMOじゃない。
メンテナンスが入る余地はないし、第一あったとしても一回強制ログアウトされるはずだ。
草だって、ほんとコンクリみたいな感触だったし……。
「……てことはつまり……んん?」
いや。でもそんなことあり得るのか?
というかそもそもあのゲームにこんなマップあったっけ?
あれは確か中世ヨーロッパを舞台にした剣と魔法のファンタジーだったはず。
考えられるとすれば、条件クリアによる新マップだが……。
俺は首を傾げると、もう一度メニューを開いた。
「もしここがゲームなら、ログアウトボタンがあるはず……!」
ここがボーナスステージだとしても、先にログアウトボタンの確認だけはしておこう。
それだけ確認したら、もうちょっとだけ遊んでからログアウトすればいいさ。
……そう、思っていた時期が俺にもありました。
「うっそぉ〜ん……」
結果から言えば、ログアウトボタンは消えてました。
あとついでとばかりに、メインキャラとサブキャラを切り替えるためのパラメータ切り替えボタンも消えてました。
どうやら俺は、これからずっとこの体で生活していかなければならないようだった。
「これが、リアル異世界転移……なのか」
俺はそう呟いて、もう一度木の根に腰を下ろすのだった。