9 魔法
この世界には魔力が宿っている。
花に、動物に、人間に。
魔法とは、その魔力を発現させること。
人を眠らせる花粉を出したり、口から火を吐いたり、空を飛んだりできる。
しかし、人間には魔力は有れど発現させる力が無い。
それを発現させるための道具が魔具と呼ばれる物。
魔具には二種類ある。
1つは、魔力を込めれば誰でも使える物。通称魔道具。
もう1つは、自分自身の魔力でしか反応しない固有の物。通称魔武具。
後者の魔具は魔力が結晶化した魔石から生まれる。
魔石は色によって魔力の濃度が違う。
そしてその魔石は洞窟や地下に落ちていることが多い。
魔道具は魔力を込めて使う物だが、大量の魔力を消費する場合には魔石で代用できる。
自らの魔力の代わりに魔石の魔力を使用する。
「と、簡単ですが、ここまで大丈夫ですか?」
「専門用語が多くてさっぱりだけど、要はその魔石ってのを使ってゲートを復活させるってこと?」
「そういうことです」
セカイは一回聞いただけでなんとなく理解したようだ。
魔がつくものばっかりでややこしい。
これって覚えた方がいいのかな。
いや、そもそもこれはこの世界の常識なんだ。
覚えといた方がいいに決まってる。
そう言えば、よく考えたら私達にも魔力があるって言ってたよね。
それって、つまり……。
「はい!キルファさん!!」
「はい、ツルギさん。なんでしょうか?」
「つまり、私達にも魔法が使えるってことですか!?」
「はぁー?あんたね、そんなことできるわけ」
「ええ、使えますよ」
「はぁ!?」
やっぱり、やっぱり、私にも魔法が使えるんだ!
これは今世紀最大の喜びかもしれない。
セカイは眉間に皺を寄せて、訝しんでいる。
確かに実感はないし、信じられないのもわかるけど。
私は喜びのあまり、セカイの背中をバシバシ叩く。
「ちょっと、テンションアゲアゲのとこ悪いけど、あんたちゃんと話聞いてたの?」
「ん?なにが?」
「人間が魔法を使うには、魔具ってのが必要なのよ。持ってないじゃない」
「あぁ、なんか魔道具とか魔武具とか……?魔道具なら使えるんでしょ?」
「やだ!理解してないの!?」
「……えっとね、鶴木さん」
緋色君の声が聞こえて来て正気に戻る。
まさかここで緋色君から説明してもらえるとは。
「魔道具はね、電化製品みたいなものなんだ……」
「テレビとか、電子レンジとか?」
「うん、そう。それを使うときに電気が必要だよね。それが魔力なんだ」
「つまり、あんたが望んでるような魔法って感じじゃないのよ!」
「え……水を操ったり、炎を出したりできないの……?」
「魔道具じゃ、無理かな……」
ここは魔法の世界のはず。
そんな、そんなことが許されていいはずがない。
私が目に見えて落ち込んだ。
まぁまぁ元気出しなさいよ、なんてセカイが慰めてくれる。
「……と、ここでお二人にご相談です」
涙目で前を向くと、キルファさんは笑顔で私達を見ていた。
初めて会ったとき、手に持っていた杖を握って。