5 いざ、外へ
「え?私達帰れないの?」
「ええ、少なくとも転位の魔力が溜まるまでは一月かかりますので……」
「嘘でしょ……」
緋色君とキルファさんにこの国の事を聞いて、それでもやっぱりどこか現実味の無い話だなと思っていた。
もちろん、こっちに来れるんだからすぐに帰れるんだとも。
でも、実際はそんなに甘くは無かった。
私達が初めに倒れていた場所、転位ゲート。
そこに魔力が溜まらないと帰れないらしい。
「ええー、どうしよう……」
「いいじゃない。折角だから楽しみましょうよ、魔法の世界!」
「学校とか、あるじゃん」
「良く聞くでしょ、異世界とは時間の流れが違ったりするの。定番よ?ね、ヒイロ君?」
「……残念だけど、時間の流れは向こうもこっちも同じ……」
一瞬セカイの言葉で喜んだのが馬鹿みたいだ。
そんな都合のいいことあるはずがない。
どうしよう。1ヶ月も学校を休んだら心配される。
っていうか、お母さんに怒られる!
なんとかしないと……。
「な、なんとか……なりませんかね」
「方法が無い、訳ではありませんが……あまりお勧めはしませんね」
「そ、それでも!方法だけでも、教えてくれませんか……」
「キルファさん、僕からもお願いします……。"魔戦"もありますし、あまり……この世界に長居させたくない……」
「そうでしたね。まぁ、ヒイロ殿も居るなら、大丈夫でしょう……」
またまた聞きなれない言葉が出てきたぞ。
"魔戦"とは、一体なんだろうか……。
でも、ひとまず帰る方法があることは安心だ。
キルファさんの話し方からすると、なんだか危険そうだけど。
私達はキルファさんに詳しい話を聞くために、研究所と呼ばれる場所を出て、街へ行くことになった。
研究所を出ると、岩壁の道が長く続いていた。
まるで万里の長城だ。
周囲はどこを見渡しても草原が続いているだけ。
街なんか見る影もない。
長い道を歩いて、先頭の緋色君は立ち止まりしゃがみこんだ。
靴紐でも解けたのかな、なんて思っていたけれど、何かを呟いているように聞こえた。
後ろから軽く覗いてみると、小さな音と共に地面に四角い穴が出来ていた。
「梯子があるから、気をつけて登って。決してはぐれないように」
そう言って、緋色君は穴に降りていった。
地面にあるのに昇ってって、どういうことなんだろう。
私は不安に駆られながら続いて穴に降りる。
しっかりと梯子を踏みしめ、両手で掴む。
光は無いのに、不思議とそこに居る人達は見えていた。
一段一段降りていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
そして、気がつくと私は梯子を登っていた。
いつ登ったのかはわからないけれど、確実に私は上に向かっていた。
前に居るのは緋色君で間違いない。
じゃあ、きっと合ってるはずなんだけど……。
とりあえず早く着いて。私は強くそう願った。
しばらく経って、上から光が射しこんできた。
梯子を登り切ったみたいだ。
そこは地球儀の部屋程ではないけれど、それと同じくらい埃を被っている部屋だった。
「着いたの……?」
「うん、着いたよ」
私の後ろから、セカイとキルファさんも出てくる。
キルファさんはしゃがみこんで何かを唱えているみたいだ。
きっと、あの道を出現させる魔法か何かなのだろう。
「あーもう!訳わかんない!何なのあれ!!」
「本当にねー、私も疲れちゃったよ」
「二人とも」
緋色君が私達を窓まで手招きする。
そこから外を見ると、さっきとは全く違う光景が広がっていた。
中世のヨーロッパのような街並み。
炎や水が宙に浮いている。
見たことも無い動物が空を飛んでいる。
思わず鳥肌が立ってしまう。
「ふふ、初めて見る方はそういう反応でしょうね」
「すごいです、本当に……」
「ええ、びっくりしちゃったわ……」
「改めて、ようこそ。アルスタットへ。そして、キュエリス王国の首都キュエリスへ」