4 この世界のこと
「まさかヒイロ殿のご友人だったとは、申し訳ありません」
「いえ、そんなそんな……」
現在、私達は緋色君が入ってきたあの扉から別の部屋へ移動し、そこで休憩している。
あの部屋とは違い、きちんと整頓されている場所だ。
ソファーは柔らかいし、壁には綺麗な絵が飾ってあるし、応接室みたいなものなのだろうか。
緋色君に出会った私達は事情を話すために、ひとまず落ち着いて話が出来る場所ということでここに来た。
飲み物も出してくれて、さっきまでとは違って好待遇だ。
「改めまして、自己紹介を。私はキルファ・アースティス。キュエリス王国国立魔法研究所所長をしております」
「き、きゅえ、りす?」
「王国国立……って魔法!?」
「あ、あぁー、そうですね。まずは、そこから話をしなくてはいけませんよね。えーと……」
「キルファさん、僕が話します……」
「ありがとうございます、ヒイロ殿」
それから何十分か、私達は緋色君の話を聞いていた。
それをまとめると、ここは魔法の世界アルスタットというらしい。
で、この国はキュエリス王国と言って、比較的穏やかで平和な国。
もう1つ国があって、そこと争っているらしい。
詳しくは難しくて頭に入らなかった。
いや、国の名前をこの短時間で覚えただけでも及第点だと思う。
学校の英語の授業とか全く頭に入ってないから。
「ところで、君達はどうしてここに……?」
「あ、あぁー……」
どうする。ここで探してたなんて言えば、なんで探してたのか聞かれる。
そもそも追いかけてたなんて言えないし……。
何かいい言い訳を。
ちらりと横を向くとセカイは素知らぬ顔でお茶を飲んでいた。
いやいやいや、あんたも一緒に考えなさいよ。
まぁ、ここは無難に躱すか。
「い、いやぁー、実は体育館に行く緋色君を見つけて、ちょっと気になって様子を見に行こうとしたら、こいつに見つかって」
「……あら?」
「それで、緋色君を見失っちゃったけど体育館の窓が開いてたから下を覗いてたら」
「落ちちゃって?」
「え……あそこから落ちてきたの?」
「あそこから、というとヒイロ殿の転位ゲートのことですか?なるほど、命拾いしましたね」
なにやら物騒な単語が聞こえてきたぞ。
やっぱりあれ、まずかったんだ。
「えーと……あの場所は転位ゲートって言ってね。僕が適当に人目につかない場所に作るんだけど……」
「転位ゲート?」
「簡単に言うと地球とキュエリスを繋ぐ門です。転位ゲートを通るのには色々条件があるのですが……」
「条件?」
「そもそも転位ゲートは潜在的に魔力が無いと通れないんだ……」
「それに、ヒイロ殿のゲートには時間制限があったはずです」
「地面に真っ白い光の渦とか、無かった……?」
「無かった、よねぇ?」
「無かった、わねぇ……」
「……生きてて良かったですね、お二人とも」
キルファさんが今までに見たことが無いような、生還者を労わるような目で私達を見る。
一気に血の気が引いていく。
つまり、私達に魔力が無かったら、もうちょっと落ちるのが遅かったら……。
あのとき、頭から落ちていたから……想像もしたくない。
セカイはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、テヘって顔をしている。
テヘじゃないんだよ、テヘじゃ!
危うく人生が終わりになるところだったんだから……!
とりあえず、こいつは後でぶっ飛ばす。