21 魔法デビュー
「さて、話はこれで終わりです。それじゃあそろそろ、実際に魔法を使ってみましょうか」
ついに来た。魔法デビューのときだ。
私はセカイと目を合わせて頷いた。
「まずは初級からですね」
キルファさんは何も持たずに、両手を上向きにした。
しばらくそのまま見ていると水が球体上に溜まっていく。
その水はどんどん大きくなって、一気にはじけて水飛沫を飛ばす。
「まずはこれくらいでしょうかね。初めてなのでこれを使ってください」
キルファさんから中が空洞で透明な丸いボールを渡された。
この中に自分の得意な属性のものを入れてみよう。ということみたいだ。
でも、そんな簡単に行くのだろうか。
なんの実感もつかめない。
「さぁ、目を閉じて。イメージをしましょう」
キルファさんの声に誘導されていく。
目を閉じて、想像する。
この掌の中の丸いボールに赤い炎が入っているところを。
わかりやすく、想像する。
それは、蝋燭の先の糸にまとわり付く火だ。
このイメージを保ったまま、魔武具に意識を少しずつ傾ける。
そのまま、魔武具を通して、精霊に祈りを捧げる。
わかりやすいように、呪文を唱える。
この世界に住まう精霊よ、我に力を貸したまえ。『ファイア』
呪文を唱えると、掌が温かくなるのを感じた。
目を開けると、ボールの中に火が灯っていた。
私がイメージした通りの、蝋燭の先に灯っているような火。
吹けばすぐに消えてしまいそうなものだったけど、紛れも無く私が生み出したものだ。
「お二人とも、素晴らしいですね。魔法の才能がありますよ」
横を見ると、セカイのボールの中には風車が入っていて、それがくるくると回っている。
風を生み出した、ということなのだろう。
胸の鼓動が早くなる。
これが、魔法。
叫びだしたくなる気持ちを必死に押し殺す。
嬉しい、楽しい。もっと、もっと使ってみたい。
それから日が暮れるまで、私達はずっと魔法に明け暮れていた。
キルファさんと緋色君、折木君に教えてもらいながら。
「精霊への祈りの言葉は、口に出さなくても大丈夫ですよ」
「慣れてくると、心の中で唱えるだけで、できるようになるよ・・・・・・」
「魔法を発動させるキーワードがあると、やりやすいかもしれないね」
皆から色んなアドバイスを貰って、練習を重ねて。
その日、私とセカイはボール無しで、掌の中に魔法を発動させることができるようになった。
キルファさんによると、魔法を習いたてでここまで出来るのは珍しいことだという。
なんだか、少し特別になったような感じがしてくすぐったい。
「では、今日はここまでにしましょうか」
キルファさんの言葉で、今日の練習はお開きとなった。
外へ出ると、辺りは真っ暗になっていた。
こんな時間まで熱中していたのかと驚いてしまう。
まるで夢の中にいるような、そんな感覚がいつまでも抜けないでいた。