18 自らの魔石
それは、とても珍しいことだという。
稀に起こるらしい。
魔石の持つ力に耐えられずに、湖から抜け出せなくなるそうだ。
そうなったときは、精霊が魔石を湖に戻し、また後日魔石を取りに来させる。
私もそうなってしまったらしい。
でも、私の手の中には赤く光る魔石があった。
「貴女は紙一重というところでした。戻ってこられるギリギリの部分を彷徨っていたのです。それを、彼が引っ張り出したのです」
「・・・・・・そうだったんだ。ありがとうセカイ」
「しっかりしなさいよ。あんたが魔石を手に入れられなかったら、意味ないじゃない」
「うわぁ、そうだよね・・・・・・」
「さて・・・・・・」
精霊さんは私の前から移動して、今度はセカイの前に立った。
セカイの至近距離まで近付いて、顔をペタペタと触っている。
精霊の手というのは一体どんな感触なんだろう。
彼女は不思議そうにセカイを見ている。
「貴方は・・・・・・?」
「なぁに?ここまで来て、ボクの魔石は無いとか言うつもり?」
「いえ、魔力のある人間ならば、必ず魔石は生まれます」
「・・・・・・なら、大丈夫じゃないの」
「・・・・・・ええ。それでは貴方も湖へ」
セカイは湖の中へ足を入れた。
腰の辺りまでが湖に埋まり、そのまま奥まで歩いていく。
やがてその姿は暗闇に紛れて見えなくなった。
「大丈夫かな・・・・・・」
「彼なら平気でしょう。すぐに帰ってきます」
「そうですか・・・・・・ところで、握手してもらってもいいですか?」
精霊さんは常に冷静な面持ちだったが、わかりやすく疑問を浮かべた。
キルファさんはぎょっとしている。
「な、何を言い出すんですか、ツルギさん」
「キルファさんは知りたくないですか?どんな感じか気になりませんか?」
「いや、しかしですね・・・・・・」
「ふふっ、良いですよ。貴女のような方は初めてです」
精霊さんは右手を前に出した。
「ありがとうございます!」
私は大喜びで精霊さんの右手を握り返す。
清涼感溢れる見た目だけど、そこまで冷たくはなかった。
触れているのに、掴んでいるのに、その感覚は全く無い。
空気よりは硬く、水よりも柔らかい。
そんな何かを握っている。
「だ、大丈夫なのですか・・・・・・?」
「思ってたより、何とも言えない感触です。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。いずれまた、貴女と握手を交わしたいものです」
「そんなの、いくらでも!」
私達がそんなことをしている間に、セカイは帰ってきた。
手には深い緑色の石が握られていた。
「あんた、何してんの?」
「ちょっと触らせてもらってただけ!それより、綺麗な石だね!」
「あぁ、これね。あんたのは?・・・・・・あぁ、暑苦しい色してるわね」
「赤は情熱の色だよ!」
「どうでもいいわよ・・・・・・」
私達は無事に石を手に入れた。
湖から離れ、元来た場所へ戻る。
「それでは、私の役目はこれにて」
「ありがとうございました!」
「いえ。・・・・・・魔石は貴女方の運命を切り開くものです。どうか、お気をつけて」
精霊さんがそう言った途端、私の意識は途切れた。
気がついたときには、あの洞穴へ繋がる部屋に立っていた。
まるで夢のような時間。
でも、私の手の中には確かに、赤く燃える石がある。
運命を切り開く魔法の石が。




