16 転移へ
緋色君はキルファさんの傍に近づいて、顔に乗っている本を手に取った。
机に置いてあげるのかな、優しいな。
なんて思ってたら、キルファさんの頭をよく頭を叩いた。
角が当たってないと信じたい。
「……痛い」
「……おはようございます、キルファさん。何度も言ってますが、寝るときは、ベッドで寝てください」
「あ?あぁ……そうか、また寝てたか」
「仕事のし過ぎ、で死にますよ……」
「それはそれは、気をつけるよ……っと、皆集まってたのか。ちょっと、そこのパンでも食べてて待っててください」
キルファさんはゆっくりとソファーから起き上がり、部屋の奥へ向かっていた。
緋色君がソファーに座り、どうぞ、という目で見てくるので、私達も座る。
折木君はテーブルに置いてあるバスケットからパンを手に取って食べている。
それを見て、私とセカイもパンをいただくことにした。
昨日のお店でも思ったけど、異世界という割にはご飯が地球のものとほぼ同じだ。
地球の文化がこっちにも伝わっているのだろうか。
しばらく黙々と皆でパンを食べていると、キルファさんが戻ってきた。
「やぁ、お待たせしてすみません。お味はどうですか?」
「うん……まだまだ、かな……」
「やはり、そうでしょうね……」
「あら、こんなにおいしいのに?」
「ははは、ヒイロ殿に比べたら、私のなんて……」
「そんなに美味いのか……」
「……そこまで、でもない」
バスケットに入っているパンはどれも美味しかった。
キルファさんが作ったらしい。
色々と謎な人だなあと思う。
私もいつか緋色君の作ったパンを食べてみたい。
「さて、それでは今日の予定ですが……」
話に一区切りついて、キルファさんが本題を話し始める。
「まずは魔力の湖に行き、魔石を手に入れます。その後、神殿でそれを魔武具に変換。魔法の練習という流れでどうでしょうか?」
「魔石集めは……?」
「流石に今日すぐに、といのは厳しいと思います」
「そっかぁ……」
「ま、こういうのは焦らない方がいいわ。ゆっくり行きましょ」
「そうだね……」
「では、行きましょうか」
魔力の湖とはどういうところなのだろうか。
ここから結構かかるのかな。
部屋を出て、お城の中を歩き回る。
その中に他の木の扉とは違う、石の扉があった。
キルファさんがその扉を開けると、中から青白い光が溢れてくる。
その部屋の中央にある小さな石が、煌々と光を放っていた。
雰囲気が、私達がこの世界で倒れていた部屋に似ている。
「ここから魔力の湖へ飛びます。さぁ、手を繋いで」
「手、繋ぐの……?」
「転位するのに必要なんです。絶対に話さないでくださいね」
セカイは渋々といった感じで私と手を繋いだ。
キルファさんとセカイと三人で輪になるように石を囲む。
「緋色君と折木君は?」
「俺達は留守番」
「監督者、じゃない、から……」
「んー???」
「魔力の湖へ行けるのは、魔石を持ってない人とその監督者だけなんです。お二人の監督者は私ということで、あの二人は留守番です」
「へぇー、そうなんですね」
「それじゃあ、心の準備はいいですか?」
「はい!大丈夫です!」
「こっちもよ」
「では、行きますね……」
キルファさんが手に力を込める。
小さな声で何かを唱えている。
キルファさんの声に合わせて、体が徐々に浮いていく感じがした。
中央の石の光も一緒に強くなる。
目が開けられないくらいの光に耐えられずに目を瞑る。
今はとにかく、絶対に手を離さないようにするしかない。