12 お姉さんと料理と
いらっしゃい、という優しい声が聞こえた。
家族連れや恋人が集まっている。
賑やかだけど騒がしくはないお店だ。
席に着くとお店のお姉さんがメニューを持ってきてくれた。
「今日のオススメはオムライス。珍しくドラゴンの卵が手に入ったの」
「……露店でもドラゴン料理、売ってました……」
「珍しいわよねぇ、こんなに出回るなんて」
「誰かが、乱獲でもしてるんですかね……」
「はっ、まさかあなた……」
「僕だったら、もっと出回ってますね……」
「あはは、それもそうね」
緋色君が仲良さそうにお姉さんと話をしている。
いや、気にすることはない。
知り合い、ただの知り合い。
セカイが背中を叩いてくる。
……わかるよ、その気持ち。
お姉さんは別のお客さんに呼ばれて私達のテーブルから離れた。
決まったら呼んでね、と言い残して。
私達の心配をよそに、緋色君は何も変わらない素振だ。
「どうする……?」
「……あっ、あー、うん、何にしよっか?」
焦り過ぎよ、と小声でたしなめられる。
冷静に、そうだ冷静にならなくちゃ。
「あー、ボクはオムライスにしよっかなー?」
「あっあー!私もそうしよっかなー」
「じゃあ、僕は……ハンバーグにしようかな……。折木君は……?」
「俺は、そうだな……唐揚げ定食で」
「うん、わかった……」
緋色君はお姉さんを呼んで注文をした。
お姉さんはすぐに作るからね、と言って厨房へ消えていった。
振り返り方とか、返事の仕方が一々可愛い。悔しい。
大人のくせに可愛いとか正直卑怯だと思う。
「さて、じゃあ魔骸の話でも、する……?」
「あ……お願いします……」
正直ちょっとお姉さんの方に気を取られてる。
二人はなんの関係もないってことで納得しておかないと。
そう、緋色君は誰にでも分け隔てなく接するし、優しいし。
だから、彼女と話してても何の問題は無い。無問題。
ということで、魔骸の話へ移ります。
魔骸とは、その名の通り魔の骸。
自らの持つ魔力が溢れだして暴走し、自我を失った状態のこと。
暴走化した魔力は体内に高密度の魔石となり蓄積されていく。
人間でそうなる人はほとんどいない。
「……で、これがさっきの話に、繋がってくる」
「魔骸を倒して、魔石を手に入れろってことね?」
「そう……」
「魔骸……って、元には戻らない、の?」
「溢れた魔力は戻らない。魔石になればもう、自我も戻らない……」
「そうなんだ……」
それはすごく、悲しいことかもしれないと思った。
元々は普通に生活していたのに、自我を失ってしまうなんて。
「魔石を集めるには、魔骸を倒さなくちゃいけない。その為には魔法が必要だ」
「……危険が無いわけじゃない。魔骸は、僕達を襲ってくる……」
「だから、出来れば魔石集めには参加してほしくない。けど、魔武具を手に入れたらきっとなし崩し的にそうなってしまう」
そんな危険なこととは、思ってもみなかった。
そこまで考え付いていなかった。
魔法を使えるのは確かに魅力的だ。
でも、私に戦う覚悟があるんだろうか。
この話を聞いても、セカイは変わらず、私に笑顔で頷いた。