1 これがはじまり
ここがどこなのか、なんなのか、それは全くわからない。私の見ている夢か、はたまた死後の世界か。どちらにしても、ここは私がさっきまで居た場所とは明らかに違っている。
ドーム状の空間で、1本の道が真ん中に延びている。その縁には炎が揺らめいて、私はその道の真ん中に居た。後ろの方は扉が開いてあり、前の扉は閉じられていた。そして、後ろを振り向いたときに気が付いたのだが、私の苦手なやつまで居る。
もとはと言えば、こいつが私を突き飛ばしたりするから。
ことの始まりは、なんというか些細なことだった。
私の同じクラスに緋色 零という人が居る。物静かで目立たないタイプだけれど、何でもそつなくこなして、困ったことがあれば助けてくれる優しい人だ。そして私はそんな彼に恋をしている。
まぁ、彼の魅力を知っている人間は私一人な訳が無くて。いつも陰からストーカーのように付きまとってるこの男。巳原 セカイだ。
こいつとはことあるごとに喧嘩をしている。最近はほぼ毎日。折角同じクラスで話す機会も増えたっていうのに。こんな風にしてちゃいけない。私は一歩リードする!そのために、決死の思いでラブレターを書き、後は手渡すだけ。
だったのに……。
「あら、奇遇ね。どこに行くの?」
なんて胡散臭い笑顔でこいつは私の行く道をことごとく塞いでいったのだ。抜け駆けなんてさせるわけないでしょ、と言わんばかりの迫力で私を追いかけてくる。
私は全力で逃げた。走った。
こいつに捕まる前に緋色君にラブレターを渡さなくては。
そうして走り回っている途中で緋色君を見つけた。
見つけたからには彼の元へ行かなくては。
彼を追いかけて体育館の二階まで。
なんとかあいつも撒けたから、手紙を渡そうと思ったんだけど……。
近づいている途中で、体育館の二階の窓から、彼は飛び降りた。
見間違いかな、なんて思って彼が飛び降りた窓まで近づいた。
カーテンが風に揺れている。
ここの窓って開くものだったんだ。
ってことは、本当にさっき緋色くんはここから?
その拭いきれない可能性を消し去るために、軽く身を乗り出して下を見た。
緋色君はいない。
よかった、と安堵したのもつかの間。
「見つけた!」
あ、忘れてた。こいつの存在。
世界はそのままの勢いで私にぶつかってきた。
その拍子にバランスを崩して私達は窓から落ちた。
覚えているのは、迫って来る地面と真っ白い光。
こうして至って普通の恋する女の子、鶴木 陽菜の人生は終わった。
と思ってたらこの謎空間。
これから一体どうすればいいの……?