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6.数分後に気づいた上杉氏

<前回までのあらすじを30文字以内で説明せよ>



 綺都「初めてくらったケツバットは優しさを感じました。」


 美織「なんで私だけ釘バットなんだよ。」


 __________________________


「おいこら綺麗に掃かないかお前たちー!」




 昼休み、銀杏の葉が舞う校庭で体育教師の怒号が冷たい空気のなか響き渡る。


 上杉綺都うえすぎあやとはいつもならば教室で次の授業の予習をしている筈なのだが今日は遅刻したせいで罰掃除をさせられている。

 あのあと結局間に合わなかった。

 おかげで人生で初めて教師からケツバットを食らうはめとなってしまった。

 いまだに尻がジンジンと痛む。

 綺都は早く教室に帰りたいがために無言で必死になって黄色い銀杏の葉掃き続けた。



「神崎ーー!お前はなにをしとるんだぁー!!」



 綺都の丁度後ろで再び怒号が響く。

 神崎と名前を呼ばれた少女、神崎美織(かんざきみおり)は体育教師に反抗する。



「しーっ!起きちゃいますよ!」



「な、なにがだ。」



「ダンゴムシ。」



「ほっとけぇぇぇええええええええええ!!!」



 毎日この馬鹿とあんな会話をし続けている松沢先生は素直に凄いなと思う。

 一番大変なのは紛れもない彼だと思う。

 綺都は自分の白い息を見ながらつくづくそう感心した。



「お、上杉ちゃんと集めたな。帰ってよし!!」


「失礼します。」



  こんもりと銀杏の葉の大きな山を作った綺都はそれを背に教室へと校舎へ帰っていく。帰る時に美織の姿をちらっと見たが、彼女は一向に終わる気配がない。というか、なぜ箒ではなくシャベルを持っているのだろうか。

 奴は除雪作業でもするつもりなのだろうか。

  綺都は美織がシャベルで一生懸命銀杏の葉を掃く姿を思い浮かべながら一人でクスッと笑い、教室へと帰っていった。




 教室に帰るとさっきまで外にいたので室内はとても暖かかった。

 綺都は次の予習をしておこうと思い、自分の席に座って机の中から教材と筆箱を出してノートを広げた。

 正直周りが騒がしいので集中が出来ない。

 集中が出来ないのなら頭に入ってこないためおそらく勉強しても意味はないだろうと感じた綺都は周りに聞こえない程度に小さく舌打ちして、勉強道具を机の中にしまった。

 読書をしようと思ったが、生憎家に忘れてしまったので窓の外の景色を観察することにした。



「…………。」



 窓の外の景色、というか神崎美織を観察するの間違いだ。

 彼女はまだ掃ける筈のないシャベルでひとり一生懸命銀杏を掃こうとしていた。

 そんな彼女の姿が面白可笑しくて、無自覚というのが更に可愛らしく感じて綺都は顔を綻ばせた。



「なーに一人でニヤニヤしてんだよ。」


「わっ!」



 外の景色の方に集中していた為、突然何者かに腕を肩に回されて思わずびくりとはねあがる。

 腕を回した者の方に顔を向けるとそこには幼なじみの雄市が白い歯を見せて爽やかな笑顔を浮かべていた。



「ゆ、雄市……」


「何一人でコソコソ見てたん?」


「べ、別に!銀杏見てただけだよ?」


「お前は銀杏を見てニヤニヤするのか。どんな変態だよ。」


 


 雄市が窓の外に顔を覗かせると目を細めしばらくして何かを察したかのように、嫌らしい笑みを浮かべて口を開いた。



「なるほどな、とうとうアヤトにも春が来たか。」


「春?」


「神崎のこと見てたんだろ?最近仲良いもんなお前ら。」


「なっ!?」



 綺都はガタンと席から立ち上がる。

 自分の顔が熱くなるのを感じる。きっとゆでダコの様に顔が真っ赤なのだろう。

 そんな彼の姿を見て雄市は更に目を細めて嫌らしく笑う。



「記念すべき初恋じゃないかアヤトさん。おめでとう!宴の用意をしなければな!」


「違う雄市!!誤解だよ神崎とは何もない!!」


「しかし今日一緒に登校してたって吉田から聞いたぞ。」


「あれは!ただ神崎がうちに来てっ、」


「え、もう実家に挨拶しにきたの!?やるじゃん神崎。」




 雄市は口元に手をあてて「きゃー!(о´∀`о)」といかにも女子が出すような甲高い声を発する。

 普段は笑って過ごせるが今この状況で言われるとものすごい腹が立たしく感じる。




「だから二人とも罰掃除だったのか。仲良く遅刻ってな、アヤトが寝坊したせいで……可哀想に神崎…。」



「違う!俺が遅刻したのは神崎が勝手に人の目覚まし時計のアラーム止めたからだよ!!それであいつ俺を放って一人だけ下の階で優雅に昆布茶飲んでた!!」



「へっ……?」




 雄市の顔が一気に固まった。

 あの柔らかい嫌らしい笑みはひとかたまりもなく消え去っていた。



「え、?」



 雄市の反応に綺都は目を点にした。

 なんか変なことを言っただろうか。さっきからピクリとも動かない雄市が怖い……。

 雄市は瞬きひとつもせず綺都を指差して震えながら小さな口を開いた。



「え、二人って…そういう関係……?」


「何が?」


「そんなに、その…仲良い関係……??」



 質問の意味がわからない。

 確かに一応親友だし仲は良好なのだと思うが。




「仲は良いと俺は思いたいけど……。」


「!!!!」



 雄市はガタッとその場から後ずさる。

 綺都は彼の不審な行動に警戒して身を固めた。




「ど、どーしたの雄市?」


「カスカさんも、そのこと知ってるのか?」


「うん。」


「ギャーーーーーーー!!!!」


「なんだよ!?」


「お前らまだ中学生だろ?!そんなことして大丈夫かよ!?」


「そんなことってどんなことだよ!??」


「こんな公共の場で言えるわけねーだろ!!!」


「はい!?」


「可愛いアヤトが汚れたーーーー!!!」


「意味わかんねぇ!!なんなんだよ!!??」



 雄市は顔を真っ赤にして「聞かなかったことにするから!」と言って自分の席に戻っていった。

 綺都は呆然として顔をゆでダコの様に真っ赤にしている雄市を点の目で見つめていた。

 その時に鳴り響いた五時間目の始まりを示すチャイムは、いつもよりも儚く聞こえた。

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