5.間に合いませんでした☆
インフルエンザになりました(´・ω・`)
<前回までのあらすじを英語で簡潔に述べよ>
綺都「l forgot to toothpaste…….」
美織「アヤトゥーイズベリーベリーシスコン.」
綺都「おい」
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朝の午前7時20分。
麗らかな日差しと小さな鳥達のさえずりで綺都は目を覚ました。カーテンを開き自室の豆電球を消し、カーディガンを羽織って下の階へと降りて行く。
台所からは卵焼きの焼ける匂いと、食器がカチャカチャと鳴りあう音がする。
「おはよう。」
「おはよう。アヤト。」
「おっはー\(^o^)/」
二人に挨拶を済ませて顔を洗いにと洗面所へ向かう。
……ん?二人?
綺都がリビングのダイニングテーブルの方に目を向けるとそこには普段うちにいないはずの彼女がそこにいた。
そう、神崎美織が朝からうちで優雅に昆布茶を飲んでいた。
「なんっっでお前がいるんだーーーーー!!!!?」
「ちがう!誤解だアヤ子!!彼女とは何の関係もない!」
「そーいうふざけはいいから、な、なんでおまっ!俺んちの場所知ってるんだよ!?こわっ!!」
「いやいやいや誤解だ。流石に上杉んちを探そうとは思わないよてかそれだと完全に危ない奴になるやん。」
呑気にははは、と笑いながら昆布茶をすすっている美織の後ろから姉のカスカがフライパンを片手に来た。
「アヤトの親友って、女の子だったんだね。すごい可愛い子でびっくりしちゃったよ。」
「いやいやまさか最近気になる近所で毎朝ジョギングをしているべっぴんさんがまさか親友のお姉さんだとは気づきもしませんでしたな。はっはっはっ。」
「どこの伯爵様だよおのれは。」
そう言ってげしっと美織の脚を軽く蹴る。
うちの姉は毎朝30分ほど近所をジョギングしている。
美織の格好からして彼女も毎朝ジョギングをしているのだろう。
ジョギングしてて自分と同い年くらいの人を見つけて意気投合したらまさかの友達のお姉さんだったとかいうおそらく小さなオチだ。
「聞いてよアヤト。私がジョギングしてた途中大きなイノシシと遭遇して襲われそうになったところを近くの通りかかった美織ちゃんがイノシシと闘って私を助けてくれたのよ。」
「思ったより壮大だった!!!」
「だからお礼として昆布茶を貰っているわけだね。はっはっはっはっはぶふぇごほっごほっほっむせたヴォエ!!!!」
「姉さんこいつ家から追い出していいよ。」
「えー何言ってるのよアヤト。親友でしょ?」
「というかお姉さんこれ昆布じゃなくてワカメっすよ昆布茶っていうよりワカメスープですよ。」
「あれ!? うそほんとだ!!!!!」
「美人なうえにドジっ娘と来ましたかはっはっはっはっはっ。最高かよお前の姉貴……。くれ。」
「口調とキャラを統一させろ、あとやらん。」
「義弟は手厳しいようですな。」
「誰が義弟だ。…顔洗ってくるから、入ってくんなよ。」
「はいはい、いってらっしゃっせー。」
まるで我が家のようにあぐらをかいて座っている美織を背にして綺都は今度こそ洗面所へと足を運んだ。
洗面所に入るとおそらく美織のだろう、彼女のセーラー服が無造作にハンガーに掛けられておもいきり邪魔になっている。
「うちに住むつもりか……。」
ぼそりと呟きながら彼女のセーラー服を後ろのタンスに掛けた。セーラー服からは柔軟剤の良い香りがした。
こうやって改めて考えみるとそういえばあいつもちゃんとした女子だったなと気付かされる。
蛇口を捻って桶に水を入れているとカスカが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「アヤト今日寝坊したから早くいかないと遅刻しちゃうよー?」
「えっ?」
「今日目覚まし設定してなかったでしょ?」
違う。寝る前にちゃんと目覚ましは設定した筈だ。
「姉さん、もしかして止めた?」
「止めるわけないでしょ。」
「じゃあ誰が…………神崎ぃぃぃぃい!!!!!!」
間違いない。奴しかいない。
直感した綺都は光の速さで顔を洗いタオルを片手に美織の所へと全力疾走した。
「お前か、アラームを止めたのは。」
綺都は険しい顔つきで、美織に詰め寄った。
コーヒーカップを片手に彼女はつまらなさそうにそっぽを向いて唇を尖らせた。
「大声でこちらに来るかと思えば……。決めつけですかぃ。」
「お前以外に誰がいる。」
「アラーム設定するの忘れてたとかじゃないの。」
「いや、それはない。昨日寝る前にちゃんと設定をしたのを覚えている。」
「そんなに私が信用できないか、そーかそーか。」
そう言って美織は冷たい眼差しで綺都を見上げる。
いつもの彼女の表情はどこにも無かった。
「信用していないとかじゃない。消去法でお前なんだよ。」
「あのさぁ、上杉。そいつの日頃の行いが悪いからといって、必ずしもそいつのせいにするもんじゃないよ?
信用していないなら消去法と来た。何を根拠にそう言っているの?それはただの自分の疑いと感情を相手に理不尽に押し付けているだけじゃないか。」
綺都と目も合わせずに美織は押し黙った。
「…………。」
言われてみれば確かに彼女の日頃の行いを根拠にして自分の疑いを無理矢理押しつけていた気がする。
綺都はため息ついて寝癖が少しついた髪の毛をくしゃくしゃと掻いた。
「悪かったよ。疑ってごめん……。」
聞こえるからわからない小さい声で恥ずかしそうに言うと、美織は一瞬驚いたように目を見開き、柔和な笑みを浮かべた。
「わかってくれたなら、嬉しいよ。」
そう綺都に笑いかけて彼女は、席から立ち上がった。
「行こ、遅刻しちまうよ。」
「…おう。」
洗面所へと姿を消した美織の後ろ姿を見送って綺都も支度をする。
友達というのは仲良くすることだけではなく、正しいことを教えてくれたりもするんだなと感じた。
間違った道を歩ませないように誘導するのも友達なのかもしれない。
「いってきます。」
「いってきまーす。」
家の前で手を振るカスカを背に、二人は学校へと歩きだした。
いつの間にか季節は冬に近づいていて、呼吸をしただけで白い息が出てくる。
いつもの通学路だが、隣に美織がいるのでいつもの景色が違うように見えてしまう。
誰かと一緒にいるだけでこうも違うのかと綺都は灰色の空を見上げながら心の中で呟いた。
「ねー上杉。」
「ん?」
「遅刻で罰掃除嫌だからさ、鬼ごっこしよーぜ。楽しいしあったまるし遅刻しないから一石三鳥!!」
歯を見せてひひっ、と笑う美織を見て綺都は呆れる。
ああ、こいつはなんでこんなにも思考が小学生なのだろうか。
「断る。もうそんな幼くないからね。」
「まあ、上杉なら言うと思ったよ。」
思ってもいなかった返答に綺都は目をぱちくりとさせる。
こいつ、最初からしないってわかってたのか。
「ならば、上杉が走る気になるような言葉をかけよう。」
「……なんだよ。その言葉は」
そう尋ねると綺都の隣で歩いていた美織は突然走り出した。
どんどん彼女が小さくなっていく。
やがて綺都の視界の中で豆粒くらいの大きさになった美織は周りが住宅街にも関わらず、大きな声でこう叫んだ。
「目覚ましのアラーム止めたのは、紛れもない!!!!
この神崎美織でーーーーーーーーすっ!!!!」
その言葉と同時に綺都は地面を強く蹴って、小さくなっていく美織を全力疾走して追いかけていった。
「やっぱりお前かぁぁぁああああああああ!!!!!」
彼らの近くにいた近所のおばさんはこう話す。
「あの大人しくて真面目な綺都くんが大声を発しながら女の子を追いかけていくあんな姿は初めて見ました……。
きっと、親御さんもみたことないと思います……。」
その朝、中学校では閉門のチャイムと同時に時間におそらく間に合わなかったのだろう七不思議と同じ男子生徒の嘆きの悲鳴が響き渡ったという。




