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第8話

 長い長い自己紹介を終え、情報を整理してから部屋を出て、昼食を取るべく、食堂へ足を進める。


「貴族の時点で普通に知り合いはいっぱいいるか、人の名前覚えるのとか苦手なんだけどなぁ……」

 なんて呟く。


 食堂への道の途中で仕事から帰ってきたらしい親父に会う。

「父さん、おかえり。お昼を食べに帰ってきたの?」


「おお、アルナ、ただいま。丁度いい、話があるから一緒に食べよう。」

 親父は何でか知らないがちょっと憂鬱そうにいていた。

 まあその話だろうと理解した俺は、

「分かった、じゃあ行こう」



 食堂に入った俺たちはメイド達によって用意された昼食を頬張る。

 美味しいのだけど、引っかかることがある。


 そんな俺を親父が見て言う、

「なぜ貴族であり王国の筆頭公爵なのにこんな質素で庶民的なんだ、なんて思ってるな?」


 うわああぁ、また顔に出てたかあぁ……偽装(カムフラージュ)、パッシブにしとこうかな。


「う、うん。失礼だった?」

 素直に肯定し疑問をぶつける。


「とんでもない、まあ私は元々平民でな……しかも冒険者だったから、贅沢なんて知らなかったんだ。私は私腹を肥やす豚どもに成り下がりたくはないからな、月給がこの家に使っても有り余りすぎるから稼ぎの半分は冒険者支援に使っているよ」


「父さんには頭が上がらないよ、まったく、聖人君子って言葉が合うよ」


 親父は、

「私が聖人君子だって? 《剣聖(ソードエスカトル)》が聖人な訳ないじゃないか」

 なんておどけるが、一瞬だけ昔を思い出すように哀愁を漂わせたのを俺は見逃さなかった。


 何かあったのかななんて思うのは野暮である、何かないとああはならないだろう。


「話を戻すがさっきの事だ。今日の午後から王城へ行くぞ、国王陛下がお前に会いたいらしい。」


 だから憂鬱そうだったのか、

「ベ、別にいいんだけど……国王に対する礼儀とか全然分からないよ?」


「別に大丈夫だと思うぞ、ここの国王は変わっているからな。しかも非公式の謁見だ、《神の使徒》がそんなことで狼狽えてはダメだろう?」

 親父は挑戦的で獰猛な笑みを浮かべていう。


 たしかにその通りだなぁ……

「まあ父さんが言うなら……」


「言い忘れていたが、陛下以外にも王族が全員くるからな」


 いやいやいや、言い忘れてたじゃ済まないでしょ!


「はっ!? 非公式なのに!?」


 親父も不思議そうな顔をして

「私もよく分からんのだが、まあシスティーン様が神託でも下したんじゃないか? 《神の使徒》に会いなさいとかな、ふっ…ふふっ……」


 他人事だからって笑うなし……ティーナめ、あとで覚えとけ……


「でも、とりあえず行かないといけないんでしょ?」

「ああ、勅命だからな」


 ここの王よ、こんな事に勅命出していいのかよ…


「わかった、ご馳走様、美味しかったよ。アイカ、着替えるから手伝ってもらえる?」


 料理場が歓声に包まれる。


 そんなに俺に褒められるのがいいのかな?


「畏まりました、アルナ様」

 アイカが恭しく頭を下げる。なんかムズムズするなぁ


 アイカはほかのメイドにドヤ顔して一緒に出て行く。ほかのメイドさん達は悔しそうにまた羨ましそうに見ていた。


 俺の手伝いのそんなにしたいのか?当番制とかにしてみようかな


 野暮な事を考えていると、

「じゃあアルナ、30分後に出発しよう。」

 親父は壁に掛かっている時計を見ていう。


 あれ!? この世界にも時計あるのか!


 今頃気づくアルナ。


「わ、わかった。」



 直ぐアイカとともに部屋に戻り、クローゼットを開ける。

「うわぁぁあ……なんでこんなにあんの…」


 前は上着を取るだけの用で少ししか開けなかったから分からなかった。


「貴族の方はこれの倍は持っていますよ?アルナ様は少ない方です。」


 なんて事だ、そんなに服要らないだろぉお!


 前のアルナも洋服には興味がなかったようだった。


「も、もう、アイカに任せるよ。よろしく……」

「分かりました、ではこれとこれとこれで。」


 は、はやっ!?


「えぇ!? もう決まったの?!」


 当然とばかりにアイカはやや寂しい胸を張って、

「勿論でございます、では早速着替えなさってください。」

「お、おう、わかったよ。」


 渡されたのは中世ヨーロッパのジュストコールにジレ、キュロットの様な服だった。

 全て白を基調にしていて所々に綺麗な模様が入っている。アイカに手伝ってもらい、着替える。


「ど、どうかな、似合ってる?」

「正直どの言葉を使っても表せないくらいに似合っております。クローゼットの鏡をご覧ください。」


 言い過ぎだと思うけど……おお、そんなとこにあったのか


「うっわ、もう女性が男装したみたいじゃん……」


 豊かで艶がある髪のせいで、妖艶さが醸し出る。しかも服と相俟ってモノトーンが強調され異様な美しさがある。


 俺、ほんとは女なんじゃないかな……


「髪切ろうかな……」

 そんな風に呟くと

「何を仰いますか!髪は女の宝です!」


 血相を変えて言ってくるので、

「俺は女じゃねぇよっ!」

 俺も血相を変えて突っ込みを入れてしまう。


「取り敢えず、邪魔だから結ぶものない??」

「このゴムをお使い下さい、あ、私が結びましょう。」


 おお、マジそれは助かる。

「よ、よろしく。お風呂も大変なんだよなぁ…」


 なんて昨日の夜のお風呂を思い出す。


 慣れてないとはいえ、洗うのだけで30分、乾かすのだけで1時間以上掛かってしまったのだ。



 やっぱり切るのが1番だけどなぁ……

 なんて思っていると、いつの間にか結び終わっていた。


「お、ありがとね、これからも頼んでいいかな?」


「お任せください、私も髪をいじるのはとても楽しいので。」


 なんと有難いことだ。あ、時間がやばいな。


「じゃあ、アイカ行ってくるね。」

「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」


 あれ、俺、男だよな?


「お嬢様じゃねぇよ!」


 反射で突っ込みをまた入れてしまった……おっとりしているのでボケが上手いのだろうか。

 ま、まあ気を取り直して王城に行きますか。



 俺は親父の待つ食堂に向かうのだった。


余計に女っぽくなるアルナくんでした。

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