第79話
封印していた魔力を解放させる。刹那、アルナの周りには魔力の暴風が巻き起こる。この空間がピシピシとひび割れるような音が聞こえるのは気のせいではない。
暴れに暴れまわった魔力は最終的にアルナの体内に入って落ち着く、しかしアルナの体は白く発光している。
7割解放の時とおんなじで解放させると体が発光するのか……そういえば【龍人化】試してみようかな
アルナは目の前には〝災厄〟の二つ名を持つカオスブラッディドラゴンがいるというのにあたかも何もいないかのように考え事をしている。
「クルァァァァァ!」
自らの攻撃を防ぎ、未だに攻撃を仕掛けてこないアルナに怒りを覚えたのか怒りの咆哮を上げると龍の息吹を放つ。
流石〝災厄〟といったところか、アルナが貼った魔力障壁5枚のうち4枚をいともたやすく破壊したのだ。
「おぉ!? マジ? やっと本気が出せる――」
「グルァァア!」
アルナは悪い笑みを浮かべる、それを見たカオスブラッディドラゴンは嫌な予感を察知したのかすぐさま威嚇の咆哮を上げると前足の鉤爪でアルナを斬り裂こうと翼を羽ばたかせ、宙に浮くとアルナ目掛けて突進して来る。
いつのまにか【魔法大剣 デュラルディア】を納めたアルナは[身体強化]を使い、両手を広げ、その突進を受け止めようとする。
「いやいやいや! 何してんのあの人!?」
「無謀にも程があるよ!」
Aランク冒険者はアルナの突然の行動に否定の念を込めて罵倒気味の言葉を言う。そんな罵倒はアルナにとって日常茶飯事なので全然気にしないが……。
「ギャァァァァア!」
自分の攻撃を馬鹿にされたと思ったカオスブラッディドラゴンはもう一段階速さを上げた。風を切り、音を置き去りにする速さは人の目には見えないだろうが、アルナはドラゴンの瞳を見つめる。
「さぁ……こいやぁぁ!」
「ギャアアアアァァッ!」
アルナの小さい身体目掛けて、アルナの身体の大きさはある鉤爪を突き立てる。地下迷宮の地が抉れ、砂が多量に舞い上がり、辺り一面を覆い隠してしまう。カオスブラッディドラゴンは勝ち誇り、舐め腐ったアルナにしっかりトドメを刺そうと体重を掛けようとする。
しかしだんだん鉤爪が地から離れる感触が……
カオスブラッディドラゴンも冒険者も驚きに目を丸くする。なんとアルナは巨大な鉤爪の攻撃を受け流し、アルナの体重の10倍以上もあるはずのドラゴンの足を重々しくも持ち上げているのだ。
「おっもい……なぁぁっ!」
なんとも緊張感のない言葉を吐き捨てながら、言葉通りドラゴンを持ち上げた。
先ほどの驚きが嘘のように、今の状況に目を背ける冒険者まで出てきた、ドラゴンなんかはこんな少女みたいな子に持ち上げられてしまい、目が点になっている。
「……ギャアアアアッ!」
これが悲鳴に聞こえるのは幻聴ではないはず。アルナはカオスブラッディドラゴンを突進してくる前の位置まで放り投げると【龍人化】を試す。
『イメージは[変身]と同じ要領です』
「……なるほど」
ニーズヘッグからの突然の念話にはアルナは驚かず、寧ろありがたかった。ニーズヘッグに言われた通りに[変身]をイメージしつつ【龍人化】を使う。
〝黒龍の加護【龍人化】を使用しますか?〟
アルナの脳内にティーナに似た無機質な声が反響する。アルナは迷わずに〝はい〟と答える。
次の瞬間、アルナの魔力が爆発するようにアルナの体内から放出される。その量、並みの人間10人分。
「……ぐっ、がぁぁ!」
どうやら体の再構成を無理矢理行なっているために痛みが伴うようだ。アルナは痛みに耐えるため自分の体を両腕で抱く。
突然悲鳴を上げ始めたアルナを見た冒険者たちはアルナが展開した[魔法障壁]から飛び出ようとする。
「待ちなさい」
いきなり声を掛けられ、腰に差してある剣を抜こうとする。しかし声の主が同じ職につく冒険者だと分かると警戒を少しだけ解いた。
「テレーゼさん?」
「あそこにいるのはアルナ様でしょ?」
「あぁ、だけどなんでテレーゼさんがここに?」
「ギルドからの指名依頼よ……貴方達の行方の調査と救出」
呆れたような表情をしつつ7人の冒険者に視線を送る。しかしその目線もすぐにアルナの方へ向くことになる。
「ああぁぁ!」
咆哮に近い叫び声を上げると同時にこの世のものとは思えない莫大な魔力が放出される。カオスブラッディドラゴンの方も、アルナの魔力に呼応し、魔力を高めている。
この場は既に戦場になっているのだ。
ピシピシと地下迷宮の壁が魔力の暴風によって割れ始めている。
一瞬、閃光のように眩い閃光がこの場を包んだ。
冒険者もドラゴンも耐えきれぬほどの閃光に目を瞑る。目を開けるとそこにはアルナには到底似つかない何者かが佇んでいた。
腰まである黒の長髪から短髪に、頭の頂点には2本の禍々しい角が生えている。体型は華奢な感じから、引き締まった筋肉に包まれた力強い印象に。背には1対の漆黒の翼、臀部付近からは尻尾のようなモノが生えている。
「あれって龍人っ!?」
「嘘よっ!」
「――俺は龍人ではない。れっきとした人間だ、それに俺はアルナだぞ」
女性のような高い声ではなく、低いがよく通る声でアルナ? は言う。未だに信じられないといった表情をしている皆を見回すとアルナは面倒だと言わんばかりの溜め息を吐き、【龍人化】が終わるまで攻撃をしてこなかったドラゴンに向き直る。いや言葉が違った、終わるまで攻撃しなかったのではなく攻撃できなかったのだ。アルナが纏う雰囲気は神獣・黒龍ニーズヘッグに劣らない。
「さあ、戦闘を開始しようじゃないか」
アルナはその言葉を皮切りにカオスブラッディドラゴンに向かって音速で移動する。地を蹴った場所はあまりの力と速度で抉れ、砂埃が嵐のように舞っているが、アルナの魔力に呼応したカオスブラッディドラゴンも負けず劣らず、翼をはためかせアルナ目掛けて突進をかます。轟音が空間中に鳴り響き、あまりの衝撃に空気が震え、地が揺れる。
1人と1体のぶつかり合いはアルナに軍配が上がった。カオスブラッディドラゴンは大きく仰け反るが、大きな支障はなく再びアルナに攻撃を仕掛ける。
「ギャアアアアッ!」
咆哮と共にカオスブラッディドラゴンは龍の息吹を放つ。漆黒の闇を思わせる龍の息吹はアルナを飲み込んでいった。
「アルナ様っ!?」
「嘘よ……」
アルナの死を予感した冒険者達は悲壮感を漂わせるがテレーゼは呆れた様子で彼らを見ていた。
(この程度で死ぬわけないですよね……ないですよね?)
背中に冷や汗をかきながら様子を見つめるテレーゼ。砂埃舞う龍の息吹が着弾し、周囲を蹴散らした場所が晴れる。
そこには多量の魔力を保持しているのを見せつけるかのように[魔法障壁]を100枚も展開した完全無傷な龍人と化したアルナが悪い笑みを浮かべて佇んでいたのだ。
「次は俺の番だね」
アルナはそう呟くと自分の周りに多数の【全属性矢】を展開させた。
悲惨な現場が出来るのは決定事項らしい……
次回の更新は2~3日後になります。




