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第78話

 初めて足を踏み入れた第八階層はどことなく異様な雰囲気が漂い、呼吸がいつもより苦しい気がした。アルナは常に使用している【探査(パルス)】を確認すると、この第八階層は迷路のような構造をしているのが確認できた。

 一応〝百聞は一見に如かず〟と光属性初級魔法【光の玉(ライトボール)】を5つほど生成し、進路方向に飛ばしてみると、二つの分かれ道が確認できた。


「第八階層は迷路になってるんですよ」

「そうみたいだね」

「それに道は30分毎に変化するので地図も意味ないんですよ」

「面倒な構造なんだね……」

「本当ですよ……この階層から全てが迷路の構造になってるんですよ?」


 テレーゼの目の前の分かれ道を見て、心底ウンザリといった表情をして言う。正直アルナはそんな迷路の構造は関係がない。【探査(パルス)】は土地の形まで全てが分かる、故に地下迷宮(ダンジョン)で一番と言っても過言ではないほどのチートなのだ。


「えっとね、その分かれ道は右……その次の十字路はまっすぐ……次のT字路を右……で最後の十字路を左かな」

「……え? 何ですって?」

「取りあえず、俺に付いてきて」

「わ、分かりました」


 アルナはぽかんと口を開けて惚けているテレーゼについてくるよう言うと、さっき言った道通りに進んでいく。最初はまぐれだと思ったテレーゼの表情はどんどん驚きに満ちた表情へと変わっていく。

 迷路の途中には魔物の溜まり場(モンスターハウス)と呼ばれるトラップや簡易な落とし穴などがあるがそれに一個もぶつかっていない。


 そしてもう第八階層のボス部屋が見える。


「はあっ!?」


 驚きのあまり、テレーゼは素っ頓狂な声を上げる。アルナは次の階層ボスは何だろうとずっと考えている。そして救出対象の事も。

 アルナはテレーゼを一瞥すると、すぐにボス部屋の扉を開ける、瘴気にも似た空気があふれ出てきた。

 部屋の中央には首のない騎士が骨の馬に跨がり、佇んでいた。


「なッ!? どうしてデュラハンが八階層にっ!?」



 ☆ ☆ ☆



 デュラハン

 アンデットの上位種に位置づけられている、死を予言しその死を執行する存在。別名、首無し騎士。死んだ魂がこの世に徘徊し、リビングアーマーが進化した姿。非常に好戦的で近づくだけで攻撃してくる。漆黒の鎧を装備し、魔剣を腰に下げている。

 S~Aランクモンスター


 デュラハンの騎乗する骨の馬(スケルトンホース)はAランクに指定されており単体でも翼爪種(ワイバーン)に匹敵する攻撃力を持つとされている。



 ☆ ☆ ☆



「面倒だなぁ」


 アルナはそう呟くが、少し好戦的な笑みを浮かべているのはテレーゼに見えない。テレーゼがどこから攻めようか考えているときには既にデュラハンの目の前に【魔大剣 ニーズヘッグ】を上段に構え振り下ろそうとしているアルナの姿が目に入った。


「早すぎでしょ……しょうがない、援護に回りますか」


 テレーゼは【爆炎刃(フレイムセイバー)】を待機させつつ、アルナの引くタイミングを見計る。


 アルナはデュラハンの脳天目掛けて剣を振ったが、目にも留まらぬ速さで腰の魔剣を引き抜くと、アルナの剣を()()()()()のだ。

 恐らく魔剣に入るだけたくさんの魔力を注ぎ込んだのだろう、だがそれで受け止めたのは賞賛されるべき事だ。アルナは、ふむ、と形の良い眉を寄せて驚く。


「中々やるねぇ、だけどアレは防げるかな?」


 鍔迫り合いになっていた剣を弾くと、戦線を離脱する。顔のないデュラハンでも動揺の動きが見て取れる。


「【爆炎刃(フレイムセイバー)】ッ!」


 前回同様、3本の巨大な炎の刃が出来上がるとデュラハン目掛けて飛んで行く。デュラハンは魔剣を後方に引き絞ると、一気に剣を振った。

 なんと一本の刃を掻き消したのだ、たったの風圧のみで。二本の刃はしっかりデュラハンを斬りつけたが。


「鎧には魔法耐性が付いてるのか……それにあの魔剣は凄まじいな」

「っていうかアルナ様の剣を受け止めるとかヤバイですよ!」

「いやぁ、3割を受け止めるとは思わなかった」


 少し調子に乗ってたな……7割くらいなら大丈夫かな?


 アルナは7割まで力を戻した。体から溢れる魔力がアルナの体を淡い光が包み込む。いきなりの出来事にテレーゼは驚くが、それも束の間すぐに目の前の敵に視線を戻す。


「テレーゼさんはさっきと同じく魔法を待機させておいてくれ」

「了解です」


 アルナは一歩を踏み出す、その瞬間轟音とともに姿が掻き消えた。デュラハンも捉えていた魔力反応が消え失せ、焦りが行動に現れ、落ち着きがない。


「殺った」


 そんな声がデュラハンの後ろから聞こえたかと思うと骨の馬(スケルトンホース)とともにデュラハンが一刀両断されたのだ。

 デュラハンも何が起こったのか、と硬直していたが黒い靄に包まれると魔石へと姿を変えたのだ。


 第八階層クリア。


 アルナはデュラハンの魔石を拾うと、テレーゼを一瞥し第九階層への階段へ足を運んでいく。

 テレーゼも慌ててアルナの背中を追っていくが、どこか焦ったような雰囲気が出ている。


「ど、どうしたんですか?」

「どうやら彼らは第九階層にいるらしいが……どうやら魔物の溜まり場(モンスターハウス)にぶつかったっぽい」

「それはヤバイです! 先行してもらって構いません!」

「分かった! 俺の魔力の痕跡残しとくからそれを頼りに来てくれ!」


 アルナはそういうと階段の壁に飛ぶと、そのまま壁を走って階段を下っていく。

 100段の階段を下り終えるとすぐさま経路を確認し、迷路を突破して行く。彼らの魔力消費が多いのかだんだん魔力反応が薄くなっていっている。それに対して新たに湧いたモンスターの魔力反応が大きすぎる。それにアルナはそのモンスターを以前倒している。


「ヤバイ……か?」


「きゃぁぁ!」

「うわぁぁぁあ!」


 男女の悲鳴が第九階層に響き渡る。

 迷路のハズレ、魔物の溜まり場(モンスターハウス)に着く、そして見えたのは杖を持つ魔法使いの全力の魔力障壁が黒炎のブレスによって破壊される場面だった。

 ブレスの勢いは凄まじく破壊された魔力障壁と同じように中にいた冒険者たちは吹っ飛んでいった。その周りにはゴブリンやらグールやらが囲んでいる。絶体絶命というやつだ。

 そんな中でもアルナは相手を[鑑定(オピニオン)]で見定めていた。


「あれは……ブラッドネスドラゴンの変異種!?」



 ☆ ☆ ☆


 カオスブラッディドラゴン


 ブラッドネスドラゴンの変異種。血走った眼は見た者を石のように硬直させ、鮮血に塗れたように見える翼は大地を抉るほどの暴風を生み出す。四肢で大地を踏みしめる姿はまさに災厄の名が相応しいだろう。

 Sランクモンスター


 ☆ ☆ ☆



「[魔法障壁(マジックバリア)]、[魔力回復活性化(マジックヒーリング)]」


 アルナは吹っ飛んでいった冒険者たちに古代魔法(スキル)を使用する。さっきの魔法使いは魔力欠乏になっていたので一応使っておいた。

 いきなり自分たちの周りに生成されたとんでもない魔力の込められた障壁を目の当たりにして眼が落ちるほ見開いている。


「な……なにこれ……」

「まさかトラップ!?」

「おい! あそこを見ろっ!」


 2人の男性冒険者と5人の女性冒険者が一斉に黒い外套を着た不審な人物(アルナ)を見る。


「話が違うじゃないか、多いじゃん……」


 はぁ〜、と長い溜め息を吐くと、意識を切り替える。この空間が火山の火口にいるのではないかと勘違いするほど灼熱に包まれる。

 アルナの手を見るといつのまにか【魔法大剣デュラルディア】が召喚されており、刀身からは封印されていた炎が溢れ出ている。


「あっつい!」

「ふぅ、ふぅ……ほんとね……」

「だれか水!」


「あの人……一体何者なんだ……」


 パーティのリーダーらしき男勝りな性格の女性の呟きはこの場にいる全員の総意だった。アルナはその呟きがこの轟音鳴り響く空間でも聞き取れたので仕方なく正体を晒す、どうせこの後テレーゼが来るのでバレるのは時間の問題なのだ。


 黒い外套を外し、【収納魔法(ストレージ)】にしまい込む。

 艶やかな長い黒髪が翻り、美しい顔が晒される。そんな美しい女性にみえる人が黒い世界に5つしかない黒い高性能の鎧を身に纏っている。


「……ッ!?」

「うそよ……どうして……!」

「マジかよ……本当にアウストラリスに……」


 全員が安堵した表情をするが、流石Aランク冒険者。今がどういう状況か理解しているようだ。すぐに剣を抜き、援護をしようと[魔法障壁(マジックバリア)]から出ようとする。


「そこに入ってて。バハムート隊長の戦闘を魅せてあげるよ」


 アルナは封印していた魔力を全開にした。


 アルナ自身もどうなるか分からない戦闘が始まった。



次回の投稿は2~3日後になります。

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