第77話
第二階層の攻略を終え、第三階層への攻略を進めるアルナとテレーゼ。少し急ごうとアルナは攻略スピードを上げている。【探査】に反応した魔力で出来た鳥を発見したときに、恐らく捕まっているのではないかと判断したためである。
第三階層のボス部屋までの道中、アルナはテレーゼを自分の後ろに待機させ、短剣に[付与]した火属性上級魔法【爆炎刃】を使い、湧いたゴブリンや食死鬼を焼き斬る。そのせいで第三階層は焦げた臭いで充満している。
「ひょっと、こりぇはひどくないでしゅか……」
「うん、ごめんなしゃい」
あまりの臭いに鼻をつまんで会話をする羽目になる。
「【浄化】」
アルナは我慢の限界に来たので、前に創った創造魔法【浄化】を使用し、2人がいる空気を綺麗に浄化する。おかげで焦げる臭いが充満する前よりも居心地が良いと感じるほど空気が綺麗になった。
「なんですか? その魔法は……」
「ああ、俺が創った水・風属性魔法【浄化】だよ」
「マジですか、今度教えてもらっても?」
「いいよ~、っていうかもうボス部屋に着くんだけどね」
テレーゼはアルナの非常識さに負けたのか、受け入れて会話をしている。“魔法を創った”に反応しないのがいい例である。落ちている魔石を回収して、なんとなく数えてみる。
「いち、にい、さん……」
「何してるの?」
「魔石の数を数えようと思って……えっと、よん、ご、ろく……」
地面にどさっと座り込むテレーゼ。女の子らしからぬいきなりの行動にアルナは苦笑いをしてしまう。いつになく真剣になって魔石の数を数えている。時間経過による湧きが起こったのにも気がつかない。アルナは仕方なく重い腰を上げると、運動しようと短剣を右手に装備すると、ゴブリンの横を通り抜けざまに首を一閃する。ゴトっと頭が落ちる嫌な響きが空間中に何回も鳴る。
湧いたゴブリンを殲滅し終えたときにはテレーゼも数えるのを終えていた。
「お疲れ様です」
「ああ、それで何個くらいあったの?」
「えっとですね……250個弱です」
前回が約600個弱だったからまあまあかな
アルナはそんな事を思いつつも、ボス部屋のことを考える。第三階層のボス部屋の前までやってきた2人。アルナは【魔大剣 ニーズヘッグ】と【魔法大剣 デュラルディア】を召喚し、背に装備する。
「どうしたんですか?」
「い、いやぁ……短剣どうしようかと思ってさ」
「…………不躾なのは分かっているのですが、もしよかったら――」
「いいよ、じゃあテレーゼさんにあげますね」
短剣をどうしようかと悩んでいるときにちゃんとした使い手がもらってくれた。まだ何も言っていないのに魔剣と同等の性能を持つ短剣を貰ったテレーゼは少し青い顔をしている。
「おいくらですか?」
「いらないよ」
「いやいや、タダより怖い物はありませんっ!」
「うーん、魔剣っていくらくらいなの?」
アルナは魔剣の相場を聞く。どうやら自分が鉄から作り、魔法を[付与]した短剣が魔剣と同等の力を持っているのは理解しているようだ。テレーゼは自分が持つ短剣の値段を言う。
「金貨2000枚くらいでしょうか」
「たかっ!」
「いやいや。普通はそのくらいしますから。それに魔法の付与だって一発で出来る訳じゃないんです」
血走ったような目で睨まれながら言うテレーゼは少し鬼のような気迫があった。アルナは一言、はい、としか言えなかった。それはおいておき、アルナは背から【魔大剣 ニーズヘッグ】を抜き右手に装備する。
「取り敢えず、ボス倒してからにしようか」
「そうですね、あと鞘を作ってもらっていいですか?」
「おっけー、じゃあ行こうか」
アルナは扉を開ける。その瞬間アルナの身長の2倍はある巨大な岩が投擲された。
「きゃっ!?」
間髪入れずアルナはこうなるのを予見していたかのように【魔大剣ニーズヘッグ】を横に薙ぎ、岩を破壊する。破壊した岩の破片を避けると、部屋には3体の石人形が2本の足で地を踏みしめているのが見えた。
アルナとテレーゼは意識を切り替えるとすぐさま攻勢に出る。アルナがテレーゼの前に出て、テレーゼはアルナを援護する形になる。
「【爆炎刃】」
テレーゼは一番近隣にいる、自分たちに鉄拳を落とすと拳を地に振り下ろそうとしているゴーレムに向けて【固有魔法】似の魔法を使用する。アルナの[付与]なので、消費魔力は最小限に抑えられているのを知らないテレーゼは自分がいつも使う最上級魔法と同じ魔力を消費してしまう。
テレーゼの目の前には巨大な炎の刃が3つ浮かんでいる。
「……は?」
「それごと打っちゃえ」
「は、はいぃぃ」
テレーゼはアルナに攻撃するように言われたので、後のことは知らないっ、と内心思いながら【爆炎刃】を放った。空気を燃やす轟音を立てながら、3本の炎の刃が一体ずつ狙いを済ましたかのように腹から上と下を両断した。ゴトっ、と岩が落ちる鈍い音を立てる。
しかし両断された岩はモゾモゾと音を立て、両断されたはずの胴体がぴったりくっついたのだ。テレーゼは内心、殺しそこねたと舌打ちをする。石人形の再生能力、厄介極まりない。だが非常識の塊であるアルナには関係ない。
「よっこいしょ」
そんな気合いの入らない声を上げつつ、アルナは【魔大剣 ニーズヘッグ】をゴーレムの胸、魔石の埋まっている部分を的確に貫いた。完璧に魔石を壊されたゴーレムは動力源を失い、岩がぼろぼろと地に戻っていった。それを見た2体のゴーレムもこれはいけないと、急いで魔力障壁を貼ろうとするがその判断が遅すぎた。
「――遅い」
アルナは2体まとめて無造作に横に薙ぐ。これまた的確に魔石を斬った、それにより2体のゴーレムは断末魔も上げられずに地に伏したのだ。
――――第三階層クリア。
ボス部屋に出現した階段を下りながらテレーゼはアルナに抗議している。
「何なんですかっ! あの威力は……」
「……もぐもぐ」
「ちょっとっ!? 何食べてるんですか?」
「ん、えっとね、サンドイッチだよ……食べる?」
「いただきますっ!」
アルナはテレーゼの血走った目を見て、慌てて【収納魔法】からほどよく野菜と肉が挟まれた一つのサンドイッチを取り出し、テレーゼに渡した。よほどお腹がすいていたのだろうか、渡した途端に女性とは思えない大きな口で頬張り、なんと二口で食べ終わしてしまった。
「――もぐ……美味しかった――じゃなくてっ!」
「どうしたのさ」
「どうしたじゃないですよっ! 何なんですか、あの短剣は……」
後半につれて声が萎んでいった。どうやら圧倒的な威力を目にしたテレーゼは危険だと言いたかったのだろうと予測できる。
「俺は【爆炎刃】を簡易改変しただけ」
「最上級魔法を改変したんですかっ!?」
「うん、それで改変内容は魔力消費軽減。ただそれだけ」
「それだけって……少し常識を……」
「じゃあ、もうサンドイッチあげないか――」
「それだけは勘弁してください、私が悪かったです。ごめんなさい」
アルナの言葉に被せるように自分の言った言葉を訂正した。
まったく、と肩をすくめながらアルナは追加のサンドイッチを【収納魔法】から取り出した。テレーゼは目の前に出されたサンドイッチを見て目を輝かせていた。
その後――――
2人は第四階層をあっけなく攻略すると、あっという間に第七階層までクリアしてしまった。
あと2階層、なにもなければいいが……
この思いが実現してしまう。そんな予感がして止まないアルナだった。
次回の更新は2日後になります。
実は2日前に4万pv超えてました。
見てくださる皆様、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




