第76話
「ふぅ、終わったけど……テレーゼさんはどうだろう」
アルナは既に階層ボスの部屋まで来てしまったので来た道を振り返る。そこには二振りの短剣を器用に振り回し、周囲にいるモンスターに斬りつけているテレーゼの姿があった。主とする右手には刀身に赤い線が入った短剣――魔剣を持ち、左手には鍛冶師が打ったとみられる業物の短剣を装備している。
時々右手の短剣の【固有魔法】だろうか、炎のような光が迸ったかと思うと斬りつけたモンスターが炎焼し、そのまま絶命している。
骸骨戦士が縦に剣を振るうのを器用に身体を右手側に反らすだけで避ける、その勢いを利用し回転しつつ左手の短剣で首筋に狙いをつけて横に薙いだ。骨を数本砕くだけに留まる。テレーゼはいち早く体勢を整えるためにバックステップをし、骸骨戦士に向かって右手を掲げる。
「【炎槍】」
火属性中級魔法【炎槍】。
その名の通り、炎を纏った槍を生成する魔法である、使用者は熱さを感じない。
右手から魔力が放出され、槍を形成する。そして発火したかと思うと槍全体に炎が広がり、周囲に熱気を放ち始める。それを見た骸骨戦士の頭蓋骨には焦ったような表情が浮かんだ、ような気がした。テレーゼは右手で持つと、槍投げの要領で投げ飛ばした。未だ体勢が崩れている骸骨戦士の脳天に寸分狂わず命中し、爆散していった。煙が晴れると魔石に姿を変えていた。
アルナは置いておき、普通の戦闘はこんなものである。
テレーゼは丁寧に一体ずつ倒していく、20分後ほどで40体の骸骨戦士、それに20体の食死鬼を倒した。
「はぁ、はぁ……」
「お疲れ様〜」
アルナは【収納魔法】からタオルをとってテレーゼに渡す。呼吸が落ち着くとテレーゼは口を開いた。
「アルナ様はいつぐらいに倒し終わったんですか?」
「ん~、5秒くらい?」
「マジで言ってるんですか?」
「マジマジ」
前にもこんなやりとりがあったかも、とテレーゼは頭で思い浮かべている。それもつかの間第二階層のボスはオーガキングだったのを思い出したアルナはこれはいい機会だ、と前にいろいろ武器を作ったのを使ってみようと【魔大剣 ニーズヘッグ】と【魔法大剣 デュラルディア】をしまい込むと【収納魔法】から魔力で作った短剣を取り出す。
オーガキングは背丈が高く、分厚い皮膚に覆われているので心許ないと思える。しかしアルナはそんなことも気にせず、自分がやりたい事をやるようだ。
取り出した2本の短剣は白銀の金属で打ったかの如き輝きを放っている。テレーゼは無意識にも両手で口元を隠し感嘆の声を上げている。
「あぁ、これ俺が作ったやつね」
「……は?」
「いや、だから……俺が魔力で作ったやつ」
「んー、私の耳が悪くなったのかな」
何にも聞こえない、と言わんばかりにテレーゼは両手で両耳を塞ぎ出す。その反応は薄々感じていたが、やはり目の前でやられると精神的に来るモノがある。別にいいし、とアルナは右手に持つ短剣に魔法を[付与]し始める。短剣に凄まじい数の魔法陣が浮かび始めたかと思うと、それら全てが短剣の刀身に吸い込まれていった。魔法陣が吸い込まれていった刀身は淡い青色に発光し、どうみても魔剣の類いのモノになってしまったのに気がついておらず、アルナはその光をうっとりとした表情で見つめている。
「い、今……何したんですか……」
「何って、魔法を付与したけど?」
「魔法を付与ぉっ!?」
「もうその反応はお腹いっぱいだから」
「……ですよねぇ~」
アルナとテレーゼは階層ボスの部屋へ入っていく。ここも前回と変わらず階層ボスはオーガキングだった。しかし前回と変わるのは取り巻きとしてオーガが4体ほど護衛か、斥候か、追加されていた。アルナもテレーゼの構えを真似しつつ、オーガキングへと突っ込んでいく。取り巻きのオーガはテレーゼに任せておいた。
「ちょっとっ!?」
「任せたよ、ランク不詳の方」
今までの報復の意を込めて、悪い笑みを浮かべて言うアルナ。完全に貴族がやっていいことではないが今は一介の冒険者にすぎない。それを考えているかは定かではないが。
閑話休題。
アルナの等身大はある棍棒を得物とするオーガキングは無防備で傍までやってきたか弱い少女に見えるアルナを見て馬鹿にした笑みを浮かべ、咆哮をあげると棍棒をアルナに向かって振り下ろす。
風を切る音を立てながら振り下ろされた棍棒はアルナの脳天目掛けて的確に向かっていった。〝確実に殺った〟と確信したオーガキングは恍惚とした表情をする、アルナにぶつかった瞬間に歪んだ表情をする。
部屋中に金属音が鳴り響く。
それは棍棒をアルナの2本の短剣でガードした音だったのだ。アルナはすぐにその棍棒を単純な力だけで押し返す、それを見ていたテレーゼも目を丸くしている。
オーガキングの腕力は単純に成人男性15人分ほどあるとされている。要するにアルナ自身はそれ以上の力があるとテレーゼは思っただろう。だがアルナが簡単に岩を砕き、山をも貫通させるほどの力があるのをまだ知らない。
いともたやすく自分の力が破られたことに腹を立てたオーガキングの顔は真っ赤になっている。今度は胴体ごと吹っ飛ばそうとしたのか棍棒を横に薙いできた。アルナはそれも簡単に2本の短剣で受け止める。アルナは踏みしめている地面から1歩も動いていない。
少しつまらなくなってきたアルナは膝を軽く沈めるとオーガキングの頭上よりも高く飛び上がる。重力に伴って落ちてくる勢いを利用してアルナは短剣を構えるとオーガキングの頭ごと斬り伏せた。
首を飛ばされたオーガキングは絶命し、身体を魔石に姿を変えた。
未だ戦っているテレーゼとオーガ4体。流石にキツかったかと反省しつつ、アルナは短剣に[付与]しておいた魔法を起動した。
「テレーゼさん、避けて」
アルナのいつも通りの声に反応したテレーゼはオーガの眼に突き刺していた探検を素早く回収すると敏捷力を全開にして戦線を離脱する。
いきなりの行動にオーガたちは何事だ、と咆哮をあげるがそれも束の間、その瞬間に炎の刃がオーガの眼を、首を胴体を、手足を無残にも焼き斬ったのだ。
火属性上級魔法【爆炎刃】
名の通り炎を纏った刃を放つ魔法。しかし威力は桁違いに高く、追加効果として炎焼がある。
周囲には焼け焦げた匂いが充満し、とても居づらい。アルナとテレーゼは眼を合わせて素早く魔石を回収すると第三階層へと続く階段へと足を運んでいった。
それを見つめる黒いカラスのような鳥がいた。
「奴らは第二階層を突破、目的は冒険者の回収かな?」
「多分そうだろう……俺たちの作戦に乗ってくれたなぁ」
「予想外はあの貴族の方だ」
「大丈夫だろう、貴族とは言っても金しかない。実力なんぞないさ」
地下深く、第十階層のボス部屋には黒い外套を着用し顔を隠した人間が鳥を通してアルナとテレーゼの事を観察していた。
オーガキングを倒したのも魔剣による補助だと思い込んでいたらしい。しかしオーガキングを魔剣で受け止めるなんぞ誰にでも出来る芸当ではない。
それを見誤ったのを気づいてはいない。
アルナたちは順調に進んでいく。そして彼らの存在を認識していないわけではなかった……
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