第75話
遅くなりました
第一階層の階層ボスに繋がる直線の道に湧いたモンスターを殲滅したアルナはテレーゼと共に魔石を拾いながら進んでいく。たまに時間経過による湧きがあるが、アルナはすぐさま魔法を使い、魔石へと変えてしまう。それを見たテレーゼはもう苦笑いを禁じ得ない。
そんなことをやっていると目の前には階層ボスの部屋へと繋がる扉が見えていた。
「はやい……」
テレーゼはあまりの攻略スピードに唖然としている。
基本的に地下迷宮の攻略はゆっくり進めるのが無難である。行き帰りは自分の足で移動するので体力などを温存するためだ。それに加え、地上と違う日光の無い環境は僅かながらも身体のパフォーマンスを落とすだろう。安全地帯は階層間を移動する階段のみ。それ以外では交代制で休憩を取らなければならない。
テレーゼは腰をかがめながらアルナが殲滅した魔石を拾っている最中にアルナから声が掛かるのでその方を向くと既に階層ボスへの部屋の扉を掛けている所だった。
「おーい、テレーゼさーんっ」
「ちょっとっ!? 扉開けるの早くないですかっ!?」
「ちょっくら倒してくるから休憩でもしてて」
「いやいや、流石にそれは……」
「いいからいいから」
それだけ言うとアルナは部屋へと入っていった。テレーゼは近くに落ちている魔石を拾い、【収納魔法】に放り込むと、アルナを追ってボス部屋に入っていこうとすると、金属通しが擦れ合うような甲高い音が地が揺れると共にやってきた。
テレーゼは慌てて走って行く。部屋に入るとそこにはボスモンスターの牛頭人身の両刃の斧を【魔法大剣 デュラルディア】で斬り伏せ、その勢いで地を蹴り飛び上がるとそのまま牛頭人身の首を刎ねるアルナの姿があった。
アルナはテレーゼの方を向くと手を振りながら駆け寄ってくる。
「テレーゼさーん、終わったよー!」
「もう何も言えないです……」
眉間に手を置くと、溜め息をつきながら言う。それを見たアルナはショックを受けた表情でテレーゼを見る。
「ちょっと、酷くない?」
「アルナ様は少し自重を覚えたらどうですか?」
「……これでも抑えてるんだよね〜」
「え……マジですか?」
「マジマジ」
前にも聞いたようなあほっぽい会話をしている。いきなりアルナが目線を上げる。ふと気配を感じた扉の入り口に向けて【全属性矢】を放った。ある程度警戒をするアルナ、しかしいくら待ってもあちらから攻撃などは何もしてこなかった。
「どうしたんですか?」
「……いや、何かあるような気がして」
「はぁ……取り敢えずいないようですし、急ぎましょう」
アルナの意味不明な行動に違和感を感じたテレーゼはギルドの冒険者という事で救出を第一に考えて行動をしているのでどんどん下って行こうと急かす。
アルナはテレーゼの言葉に頷き、第二階層へと続く階段へと足を運ぶが、未だにさっきの気配が気になって考え事をしている。
「次の階層は私がやりますから!」
「…………」
一体なんだったんだ?魔法が使われた形跡は無いが……もしかして古代魔法が発見されたとか?
「――さま?」
まさかこの状況は作り出されたもの?
「――ナさま!」
それは流石に考えすぎか?だが【探査】には反応が無いはずなのに視線を感じるのは何故?
「――ルナさま!」
取り敢えず今は目の前の事に集中するか、龍神化も使ってみたいし
「アルナさまっ!」
「は、はいぃ!?」
考え事をしながら階段を降りていたアルナの前にはいつの間にか頰を膨らませ腰に手を当てる怒った様子のテレーゼが進路を塞いでいた。
「私の話聞いてませんでしたね?」
「……」
「セリカさんに報告ですね」
「ごめんなさい! 聞いてませんでした!」
テレーゼの言葉を遮りながらアルナは土下座でもする勢いで頭を下げる。これではどちらが貴族かよく分からない。しかし〝セリカ〟という人名を引き合いに出されてしまったらアルナは引き下がるしか無い。
「まぁ、いいでしょう……それより」
「それより??」
「早く降りましょう?」
アルナはテレーゼに目で〝上を見てみろ〟と促されたので見てみるとまだ10段ほどしか降りていなかった。どうやら相当考え事に耽っていたようだ。
「はい……テレーゼさん、少し失礼しますね」
「え? ……きゃっ!?」
「一気に突破するんで舌噛まないで下さい」
「何を……ッ!?」
アルナはテレーゼをお姫様抱っこの形で抱えると急に階段を駆け下り始めた、テレーゼは最初にアルナの突破という言葉の意味がよく分からなかったが、今はよく分かるだろう。壁走りを駆使して階段をすっ飛ばしていく、螺旋階段のようになっている為テレーゼは降りれば降りるほど気分が悪くなっていくようで、顔色が優れない。だいたい100段ほど飛ばして行った、経過時間20秒程。
第二階層の階層ボスに続く直線の道の最初に着くとアルナはテレーゼを丁寧に下ろす。
「ふぅ、じゃあ第二階層の攻略は任せましたよ」
アルナは額に汗も何も浮かんでもいないのにも関わらず、右腕で汗を拭う動作をしながらテレーゼを下ろした方向を見ると、今にも吐きそうな顔をしたテレーゼが。
「ちょっと!? 大丈夫ですか!?」
「……これが大丈夫に見えま――うっぷっ」
皮肉を言おうとしたがテレーゼは吐き気に負け、最後まで言うことは出来なかった。アルナは急いで彼女に駆け寄る。咄嗟に思いついた構想を魔法に変換し創り出した魔法を彼女に掛ける。
「【気分回復】」
創造魔法【気分回復】
エルフの国、フォレスタで創った魔法だ。対象者の酔いや頭痛、吐き気を治す効果がある。
「――あれっ? なんか気分が良くなったかも……」
「それは良かった、じゃあ気を引き締めて進んでいこう」
「え? もしかしてアルナ様が……?」
「まあ、俺が創った魔法だけど」
「魔法を創ったぁぁっ!?」
「ま、まあ……取りあえずそこにいる骸骨戦士を倒してきますから」
アルナはテレーゼから逃げるように近くに湧きだしたCランクモンスター骸骨戦士に向けて走り出す。テレーゼから皮肉を言われる前に離脱し、即座に【魔法大剣 デュラルディア】を抜刀すると傍にいる一体目掛けて突進をかます。あまり加速していないが体勢を崩すには十分で、ガラ空きになった上半身部分に向かって思いっきり剣を突き刺す。しかしそれでは絶命に至らなかった。そこでアルナは思いついたことをやってみようと魔力を流し込む。
【魔法大剣 デュラルディア】は刀身が全て魔力で出来ているので形を変えることも、刀身を伸ばすことも
使用者の使い方次第。
アルナは突き刺した剣から四方八方に剣が出現するように魔力を錬成した。その行動、僅か1秒。体勢がまだ直っていない骸骨戦士。その体内から体外に向けて多数の剣先が飛び出してきた。骨を砕き割る振動が剣から伝わってくる。全身が黒い靄に包まれると次の瞬間には全身が消え去り、地には魔石が落ちている。どうやら絶命したようだ。
しかしそれを皮切りに次々と骸骨戦士やら食死鬼やらが湧き始めた。
テレーゼは流石に自分もやらなくては、と腰に差してある二振りの短剣を両手で逆手に握ると、アルナの隣までやってくる。アルナは少し頼もしく思いながら、背に【魔大剣 ニーズヘッグ】を召喚するとまたテレーゼは驚くと思いきや、目線はモンスターに釘付けだったようでこちらには気がついていない。アルナは左手で【魔大剣 ニーズヘッグ】を抜き、二刀流で構えると、隣にいるテレーゼに向かって言う。
「取りあえず、倒しますか」
2人は異常なほど湧くモンスター達に向かって突っ込んでいくのだった。
次回の投稿は2日後になります。




