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第74話

遅くなりました

 侯爵の屋敷を出て、冒険者ギルドへ向かう道では特にこれといった出来事は特になかった。冒険者の中では既に『アルナ=アルヴアートの来訪』が知らされているし、アウストラリス中では噂にもなっている。

 程なくしてアルナは冒険者ギルドに着く。中の酒場からは冒険者達の騒ぐ声が多々漏れており、道行く人はとても迷惑そうに道を歩いている。

 アルナはすまなそうにある魔法を頭の中で構築する。


「【沈黙(サイレンス)】」


 創造魔法 【沈黙(サイレンス)

 対象者から発生する音を完全封殺する所謂魔道士殺しの魔法。


 アルナは【沈黙(サイレンス)】を冒険者ギルド全体に掛ける。要するに冒険者ギルドから漏れ出る音を完全封殺した。いきなり静まり返った冒険者ギルド、道行く人は驚いた顔をするがどこか嬉しそうな笑みが漏れているのをアルナは見逃さなかった。


 相当五月蠅かったんだな。後でギルドマスターに相談しなければ……




 アルナはギルドの扉を開ける。カランカランっと鐘が鳴り、全員がこちらを向く。全員が酒に酔っているのか、外套を羽織り、フードを被っている怪しい奴が来たと言いたげな表情をしている。しかし、唯一アルナの存在に気づいたセリカが駆け寄ってくる。


「アルナく〜ん」


 その一言でギルド全体が震えるような大声が響いた。


「主役がきたぜぇ!」

「宴だぁ!」

「今日はアルナ様の奢りだぁ!」


 どうやら声の主は絡んできた3人。そいつらの声に合わせて飲めや食えやと冒険者達が騒いでいる。アルナはエールと呼ばれる酒をグラスに注いで持ってきた女性ウェイターに声をかける。


「騒がしくなってごめんなさい」

「いえいえ〜! 私たちが感謝したいくらいですよ〜!」


 女性ウェイターはそれだけ言うと愛想の良い笑みを浮かべて、仕事に戻っていった。


「……浮気ですか?」

「ひょわああっ! 何言ってんのさっ!」


 気の緩んだ隙に背後に回られ、低い声で言うセリカ。周りは酒を飲みまくっていて、こちらの様子には気づいていない。いつの間にかアルナの座るテーブルには様々な料理が並べてあり、お腹がすいていたのでウェイターに声を掛け、おすすめを頼んだ。


「アルナ様」

 声を掛けてきたのはアレクだった。どことなく落ち着きが無い。


「なんですか?」

「5人パーティのAランク冒険者達が地下迷宮(ダンジョン)に取り残されているらしいのです」

「……どの辺ですか?」

「第十階層を攻略すると言ってました」


 アルナは再びウェイターを呼ぶと5人分の弁当を用意して貰うように頼む。そういうのは承っていないと酒場のマスター自らが説明してきたので、何か容器に料理をつめるように頼むとそれくらいならいいということで、つめてもらったモノを【収納魔法(ストレージ)】にしまい込むと外套を羽織る。そこでまたアレクが頭を下げてくる。


「本当にすいません」

「なぁに気にすること無いさ。セリカ、留守番を頼んでもいいかい?」


「[分身(イリュージョン)]は置いていくんでしょ?」

「もちろん。……じゃあ行ってくる」


「どうかご無事で……」

「行ってらっしゃい」


 [偽装(カムフラージュ)]を使うタイミングで[分身(イリュージョン)]を発動させる。今までアルナがいた場所に[分身(イリュージョン)]のアルナが現れる。そして外套を被った本当のアルナは既に冒険者ギルドを出発している。

 夜道、既に20時を回っており飲食店や居酒屋から話し声やら笑い声やらが聞こえてくる。しかし道にはほとんど人が歩いておらず、アルナは少し走って地下迷宮(ダンジョン)まで行く。


 月明かりに照らされている地下迷宮(ダンジョン)は昼間とは違った印象を見せる。月明かりに照らされた黒い洞窟は不気味さが増し、見たことは無いが魔王でもいるのではないかと錯覚してしまうほどだ。


「めちゃめちゃ怖いじゃん」


 ふと人の気配がした地下迷宮(ダンジョン)の入り口を見るとそこには冒険者だろうか、腰に2本の短剣を差した見覚えのある顔が。


「アルナ様~っ!」

「テレーゼさんだっけ?」

「正解っ! 2日ぶりですね」


 アルナとテレーゼは地下迷宮(ダンジョン)の入り口で他愛の無い話に花を咲かせる。しかしすぐに切り上げるとアルナはテレーゼに中に入ろうと声を掛け、地下迷宮(ダンジョン)へと入っていく。



「どうしてテレーゼさんがいるんですか?」

「他言無用でお願いしたいんですけど……」


 貴族に引けをとらないテレーゼの鋭い眼光を受けてアルナは眼光に負けた訳ではないが首を縦に振る。それを見たテレーゼは愛想のいい笑みを浮かべ口を開いた。


「ギルドお抱えの冒険者です」

「ああ、じゃあランクも偽ってるんだね」

「はい、それはすいません」

「それはいいさ」


 長い階段を下り第一階層へと扉を開ける。地下迷宮(ダンジョン)は基本的にいつでも暗いので松明を使用する場合が多い。魔導士に光属性の魔法を使わせるのもいいが、それだといざという時に魔力欠乏になってしまう可能性があるからだ。テレーゼも【収納魔法(ストレージ)】から松明を取り出そうとしているのでアルナはそれを止める。どうしてだ、と怪訝な目で見てくるので手っ取り早く魔法を唱える。


「【光の玉(ライトボール)】」


 アルナとテレーゼの周りに合計10個ほどの光の玉が生成され、辺りを照らす。アルナは【探査(パルス)】を常時発動させる。

 いきなり上層から魔法を使い始めたアルナを見たテレーゼは顔を真っ青にして黒い外套を掴んでくる。


「なんで魔法使ってるんですか!?」

「なんでって……暗いから?」

「いやいや、いくら保有魔力が多くてもキツくないですか?」

「うーん、前回はこれの倍は使って第七階層まで降りたから大丈夫っしょ」


 あまりの多さに絶句するテレーゼ。それを置いておきアルナはずかずかと進んでいく。【探査(パルス)】で隅々まで人の反応を探すが上層にはいないようなのでアルナは少し早く行かなくてはと歩くスピードを上げる。


「ちょっと待ってくださいよぉ」


 我に返ったテレーゼはアルナとの間隔が広がってしまったので急いで駆け寄る。ちょうどテレーゼが来た瞬間にアルナは進路上に存在するモンスターを倒すべく【魔法大剣 デュラルディア】を召喚する。アルナの足下に魔方陣が形成されたかと思うと、一本の刀身が全て魔力で出来た剣が這い出てきたのを見たテレーゼは何事だと身構えたが、何の躊躇も無く剣を抜いたアルナを見て一応、罠では無いと判断した。

 その瞬間、地下迷宮(ダンジョン)を大きく揺らす爆音が目の前で鳴り響いた。テレーゼは慌ててアルナの方を向く。


 そして目の前の状況に絶句した。


 地下迷宮(ダンジョン)の壁には無数の斬撃の痕跡が、床には第一階層に湧いていたとされるモンスターの亡骸である魔石が多数落ちていた。どうやら遠距離から魔力を多々込めた神器で斬撃を飛ばし殲滅したのだろう。

 アルナは鞘を出すと背に回し、そこに長剣を納める。テレーゼの方を向くと屈託のない笑みで言う。


「さぁ、行こうか」


 テレーゼはこの瞬間、この笑みにゾッとしたのをアルナは気づいていない。

 アルナとテレーゼは落ちている魔石を拾いながら階層ボスの部屋へと歩いていくのだった。






次の投稿は2日後になります。

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