第73話
エルリンデ侯爵の屋敷への帰路、まだ大通りに入らず人通りが少ない道にて――
「あ、冒険者ギルドの酒場でご飯食べてく?」
「ああ、そういえばあの3人がアルナ君の事を誘ってましたし、君もお金渡してましたよね」
「行ってみようぜ、面白そうだし」
「私も行きたーい! ね、さおりん」
「そうね、仮にもあそこの人は私たちの先輩だし」
悠馬達の意見を尊重するアルナは古代魔法[分身]を使用し、自身の分身を作る。いきなり増えたアルナを見た4人は驚きに目を見開く。
「一応護衛として俺を遣わせる、俺は侯爵に夕飯の有無を伝えてくるから。先に行ってて」
アルナはそういうと、古代魔法[偽装]を使い、背景に準じ姿を消した。それを見た4人は再び驚くが、[分身]のアルナが言う。
「では行きましょう。主人に変わり私が護衛させていただきます」
「「「「敬語っ!?」」」」
「だったらこっちの言葉遣いの方がいいか?」
「「「「そうしてくださいっ!」」」」
セリカ達は[分身]のアルナについて行く。
所々でセリカ目的の冒険者が度々絡んできた。
「ねえねえそこのお嬢さん、俺たちとイイ事しない?」
「まずは食事なんかどうだい?」
セリカの装備は胸元が大きく開いており、細く長い綺麗な足はスカートの為、露わになっている。道行く冒険者はセリカの事を2度見している。今話しかけられた冒険者の目線は胸元に注がれており、セリカは嫌な視線に耐えかね、【収納魔法】から全身がすっぽり覆われる外套を取り出し、羽織る。
ブーイングのような声がそこら中から上がるのでセリカは取りあえず今目の前にいる冒険者を睨む。
「おお、いいねぇその目線。ゾクゾク来るよぉ」
「気持ち悪い、どっかいってください」
「まあまあ、そんなこと言わずにさぁ。そこのお嬢さん達も一緒に……そこの男はどっか行け」
悠馬だけを睨み付け、5人くらいの男が外套を羽織るアルナの存在を知らずにセリカ、佳奈、沙織を囲んでいく。悠馬は佳奈達を助けようと男達の中に入っていこうとするが[分身]アルナがいきなり羽織っていた外套を脱ぎ、顔を露わにする。どうやら絡んできた冒険者達は朝の騒動の時にいなかったようでアルナの存在を知らなかったようだ。
「女性の嫌がる行為をするのが冒険者か?」
「なんだと……は?」
「あんたは……いや貴方様は?」
「アルナ=アルヴアートだ。君たちが手を出そうとしているのは俺の婚約者だがいいのかな?」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
道行く全員が同じ声を上げた。セリカに関しては頬を赤く染め、足をもじもじしている。それを見た絡んできた冒険者は我に返る。そのタイミングで[分身]アルナは怒気を孕んだ声で彼らに
吐き捨てた。
「俺の女に何か用か? ああ?」
「「「「「す、すいませんでしたぁぁっ!」」」」」
細めた目で5人を睨むと、土下座するほど頭を下げると冒険者ギルドの方まで走って行ってしまった。一連の出来事を見ていた悠馬達は呆然としていたがセリカは[分身]アルナの腕を抱き、幸せそうな笑みを浮かべる。
「さっきのってアルナ君の本心?」
「そうですよ、主人は貴方以外には興味ないし、妾を貰うつもりも無いって言ってましたね」
「うふふふふっ」
セリカとアルナの幸せそうな雰囲気を受けた人たちは話しかけることも出来なくなった。これ以降絡んでくる人はいなくなった。
――――――――――
建物の屋根伝いに走り抜けてゆくアルナは、怪しい気配を感じ、【探査】を使ってみる。3つほど怪しげなモノが反応し、アルナは古代魔法[身体強化]を使い、いつでも捕縛できるように創造魔法【拘束】を待機させておき、【空間転移】によりまずは一人目の背後約5メートルの場所に転移した。
「こんばんわ、こんな所でどうしたんですか?」
「――――ッ!?」
辺りも夕日が沈み暗くなった中、相手は黒い外套を着てフードも羽織っている。大抵の人ならばすぐに見失ってしまうだろう、しかし相手はアルナ。既に彼か、彼女か、目の前にいる人は逃げるすべを無くしたのだ。それを感じたアルナの目の前にいる人は撒けないと肌で感じ取ったのか、素直に両手をフードに掛け。フードを外した。
露わになった頭は獣人の証であるフサフサの毛に覆われた耳があった。それに腰まである長い桃色の髪。柔らかい微笑を浮かべており、誰がどう見ても女性だ。
「……こんばんわ。初めまして、アルナ様」
「俺の名前はどうでもいいが、君はレイザルの間者か?」
「いやぁ、私が務まるとお思いで?」
「わかんないじゃん? バカっぽく振る舞ってるかもしれないしさ」
言葉はとてつもなく軽いようだがいつでも魔法を放てる状態にいるアルナをみて、その女性は観念したかのように両手を挙げ、話し出した。
「…………私はレイザルの先にある亜人の集う国アールドから来ました」
「用件は?」
「クレトリア王国との同盟の依頼です」
アルナはわずかながら眉を顰める、それをみた獣人はここが攻め時だと言わんばかりに口を開く。
「我がアールドは資源が豊富ですがそれを加工する技術がありません。しかし貴国にはそれがあります。」
「隣国、レイザル魔法帝国は?」
「あの国は人類至上主義を掲げていますので、同盟と言うよりも合併という形になってしまうでしょう」
アルナはそれを認めるように首を縦に振り、「確かにそうかもしれない」と呟く。そして思い出すかのように話し出す。
「資源が豊富と言ったが?」
「なんでもありますよ、鉄やミスリル、アダマンタイトまで」
「亜人と言うことはドワーフもいるのだろう? 彼の者達が加工できないはずが無い」
「お恥ずかしい話、我が王が追い出してしまったのです」
アルナは心底冷たい目で彼女を見る。しかし彼女は動じず、少しつまらないといった表情で話を聞く。
「なぜ?」
「王に対する物言いや態度が不遜だと言うことらしいですが――」
そこまでいった瞬間にアルナは、被せるように言う。
「では同盟の件は無しだな」
「はい?」
「愚王と組むほど我が国の王ノワール様はバカではない」
「ですが――――」
「しかし鉱物資源は少し気になるな。ドワーフがどこへ追放されたか知っているか?」
「知っています」
「では交換条件と行こう」
「なんでしょう」
「ドワーフの居場所の情報を教える代わりにその密書を国王に渡す状況を作ろうと思うが……どうだろう」
「…………返答は明日でも良いでしょうか」
「もちろん、明日もこの時間この場所で」
「はい。ありがとうございます」
アルナは彼女が頷くのを見ると[偽装]を使って離脱する。そのまますぐに侯爵の屋敷に向かう。屋敷の門につく頃には既に[偽装]を解除しておく。門を守護する兵士に一言断って屋敷に入ろうとすると、玄関から侯爵が出てきた。どうやら街にでもでるのか、屋敷にいる時とは別の服装で胸元が大きく開いて、深いスリットの入った紫色をしたドレスを着ている。長い髪を高い位置で束ねているのでうなじが綺麗に見え、とても美しく妖艶さを醸し出しており、アルナは一瞬だが見惚れてしまう。
「どうしたんですの? アルナ様」
「……ああ、夕飯はいらないって事を伝えに来たんですけど」
「そうなんですのね、料理人達にいっておきなさい」
「分かりました、お気をつけて」
付き従っていた執事は屋敷の方に戻っていった。
「侯爵もお出かけですか?」
「ええ、少し商人達との会合がありましてね」
「ああ、お気をつけて。俺に何も無いなら俺が護衛しても良いんですけどね」
「あら、それなら私の安全は保障されますわね」
「そうかもしれませんね、じゃあ俺も行きますから」
「はい、明日は私の食事に付き合っていただけると嬉しいですわ」
「ええ、それくらいなら」
侯爵と別れるとアルナは冒険者ギルドに向かって歩いて行くのだった。
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