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第72話

遅くなりました

「じゃあ、まずそこの兄ちゃんから話を聞こう」

「俺?」

「あんたしかいないだろう」

「分かった、俺が作って欲しいのは両手剣という武器とそれに合う防具です」


 アルナから人前で見せるなと言われたがこの際仕方ないと、悠馬は勇者の証【宝具 カラドボルグ】を具現化した。空に向けた両手の上に聖なる光を纏った大剣が何処からとなく現れたのを見たガイルと丁度戻ってきたニーナは目を見開き、【宝具 カラドボルグ】と悠馬、それにアルナの順に視線を向ける。


「この輝き……もしかして!」

「うそ……」

「ガイルさん、ニーナさん、ここからはクレトリアの国家機密だ……絶対口外しないで欲しい」

「……わ、分かりました」

「……はいぃ」



 ニーナの持ってきたお茶を飲んで、口を潤したガイルはわざとらしい咳払いとしてから悠馬に言う。


「ちょっと持ってもいいか?」

「はい、いいですよ」


 悠馬はガイルの差し出した両手に乗るように【宝具 カラドボルグ】をゆっくり下ろす。ガイルの手に収まった【宝具 カラドボルグ】は多少、輝きが減ったような気がした。手に取ったガイルは椅子から立ち上がり、鍛冶場の剣の振れる広いスペースに行くと両手で持ち、上段から2、3度剣を振ってみた。ヒュン、ヒュンと風を切る音が聞こえる。意外にも様になっていてアルナと悠馬は目を見開く。


「重いな……これを振っているのか?」

「片手で振ってます」

「うーん……ニーナ、裏手にあるあの大剣を持ってきてくれ」

「分かった〜」


 ニーナは正面の反対側にある鍛冶場の外に出る扉から出て行ってしまった。それをみたガイルは佳奈の方を向く。


「短い髪のお嬢ちゃんは?」

「私は剣じゃなくて籠手なんですけど……」


 そう言って佳奈も悠馬同様、【宝具 ツェンデュアル】を具現化させる。具現化させた灼熱の炎を纏う籠手をガイルに手渡す。ガイルは恐る恐るといった様子で籠手を持った。しかし意外にも熱を感じない事に驚き、籠手をまじまじと見つめている。籠手の軽さや形状を確認すると佳奈に返して言う。


「お嬢ちゃん、3発くらいあの壁に向かって打ち出してみてくれ」

「いいんですか?」

「ああ、絶対に壊れない自信があるからな」


 鍛冶場にある鋼鉄のような壁を指差して、佳奈に向けて片方の口角だけを上げ、ニヤっと笑みを浮かべるガイル。それを見た佳奈は……かなり怖い鬼の形相をしていた。目が笑っておらず、握った拳がミシミシ音を立てているのが聞こえてくる。


「良いですよ、やってやろうじゃないですか」


【宝具 ツェンデュアル】を両手に装備し、装備した両手を打ち付ける。周囲には“ガチャン”と金属同士が擦れ合う硬い音が鳴り響く。

 佳奈は半身になり左腕を獲物に向け、右腕を体の裏まで引き絞る。


「破ッ!」


 佳奈は高い声にも関わらず、ドスの効いた低い声で気合いを入れながら引き絞った右腕を壁に向かって打ち付ける。


 “ガキンッ!”


 佳奈の【宝具 ツェンデュアル】の攻撃を受けた壁は少しへこんだだけで特に異常は見当たらなかった。それを見た佳奈は唖然とするが、それも一瞬、左腕を引き絞り、思いっきり打ち出す。次は右腕を引き絞って打ち出した。

 しかし、結果はどれも同じ。粉砕破出来ず、表面がへこんだだけだったのだ。


「ふむ、中々の力だな。それに硬度も申し分ない」

「ぐすっ……壊せなかったよぉ…………」


 挑発に乗った佳奈は相手の自信を壊す事も出来ず、むしろ自分の自信を崩され、少し泣きそうになっている。

 ガイルはそんな彼女の状態も知らずに、奥の方にある倉庫の中に入っていってしまった。


「佳奈、あまり気にしない方がいい。あの壁は特殊な金属で出来ているからな」

「そうよ、佳奈。気にしない方が良いわ」


「アルナくん……それにさおりんも…………ありがと」


 アルナと沙織に慰められた佳奈は目尻に浮かんだ涙を払うと笑顔を浮かべる。丁度そこに2種の籠手を持ったガイルが戻ってきた。


「ほれ、お嬢ちゃん」

「え?……ちょっと!? 投げないでよ!」


 2対の籠手を放ってきたガイルに非難の声を上げる佳奈。しかし、しっかり全てを受け止める。それに少し嬉しそうに笑みを浮かべているのは気のせいだろうか。


「その紅い方が【ツェンドフレイム】で、蒼いのが【シーベリアル】。気に入らなかったら新しいの作るからな」

「とんでもない! 私はこの2つで十分よ」


「お父さーん! 持ってきたよー!」


 裏口から1本の大剣を両手で持ってきたニーナ。そのニーナの姿を見たアルナは眉を顰める。


([身体強化(ブースト)]に似た魔法を使ってるのか?にしても鍛冶屋が使う魔法とは思えない効力だ)


 それは置いておき、アルナはニーナが持ってきた大剣を見つめる。

 無骨なデザインだが、それを上回る力を秘めている、アルナは直感的にそう思った。


「龍の骨を軸に使い、魔石の使用によって攻撃力を高める。切るというより叩きつけると言った方が近いか?」

「全く、貴方の知識には脱帽ですよ。まさに貴方のいう通りです。」


 手早くニーナから大剣を受け取ると、ガイルはそれを悠馬に渡す。


「これを使ってくれ、最近の力作だ。お嬢ちゃんと同じく文句があれば作るからな」

「いや、それは貴方に失礼に値する、使わせて貰うよ」


 悠馬の言葉に満足げな表情を浮かべるガイルは最後に沙織に話しかける。


「最後はそこの髪の短いお嬢ちゃんだな」

「はい、私は刀を作って欲しいです」

「刀というと……東洋のトウダイという国の武器だな」


 トウダイって……もしかして東大?


 という疑問がアルナと悠馬、佳奈、沙織の頭の中で渦巻いていた。それは置いておいて沙織は【宝具 妖刀・村雨】を具現化させる。鞘付きで具現化したためガイルが見たいであろう刀身の部分は隠れている。沙織はガイルに【宝具 妖刀・村雨】を渡した。ガイル自身は一日で3つもの勇者の宝具を見て、触れるとは思わず、少し感動している。

 左手の親指で鍔を押し上げ、右手で柄を握り一気に引き抜く。しゃりん、と涼やかな音が響き、透き通る刀身が露わになる。ガイルは見たこともないような顔でじっと見つめている。

 時間にして約3分程、ガイルは刀身を見つめたまま言葉を発することや動くことをしなかった、アルナは動かなくなったガイルに少し不気味な感覚を覚えたので、ガイルの肩を揺さぶる。


「……あれっ? どうしたんですか?」

「どうしたも何も、君が動かなくなったから。心配したよ」

「すいません、俺は少し集中すると動かなくなっちゃうんですよね」

「そういうことならしょうがないが……気をつけてくれよ」


 ガイルは一通り見終わったのか、【宝具 妖刀・村雨】を丁寧に鞘にしまうと沙織に返す。


「今ここに刀は無いから、明日中に打っておくよ」

「わざわざすいません」

「いいって事よ、いつぶりか、ここまで高揚しているのは」


 過去を振り返るようにガイルは哀愁漂う顔をする。それに気づいたのはアルナだけだったが深く追求しないようにした。


「まあ、とりあえず……明後日だ、また来てくれよ。あ、防具の要望はあるか? 軽いとか重いとか」

「俺は少し重めで」

「私は軽めで」

「私も軽めでお願いします」

「おっけい。じゃあ明後日にまた来てくれ」


 そう言うとガイルは鍛冶場の方に向かっていく。それはきっと話は終わりだという合図なのだろう。アルナは4人に声を掛けて帰ろうと言う。


「今日はもう帰ろう、侯爵にも迷惑がかかってしまうからね」

「アルナ様、本日はありがとうございました」

「こちらこそ、遅くにすまなかったね」


 アルナ達はガイルの鍛冶場から出ると、侯爵の屋敷への帰路につくのだった。








次回の更新は2~3日後になります。

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