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第71話

 既に日は傾き、海に反射する夕焼けが綺麗に映える刻限にて――

 アルナ達は紹介状に書いてある鍛冶師のいる武器屋に向けて歩いていた。アルナはあまり自分の顔を晒したくないのと、鬱陶しい長い髪を隠すために黒い外套のフードを被っている。しかしエルフのセリカがいるので、嫌でも視線を浴びる。


「あれってセリカさんでしょ?」

「そうそう、じゃああのフードを被ってるのって……」

「アルナ様だよね?」


「もっと地味な人になりたかった……」


 アルナは何気なく誰にも聞こえない声でボソッと呟いた。しかしその呟きをしっかりと聞いていたセリカはアルナの両肩に後ろから手を置いて言う。


「アルナくんが地味だったら今頃私の前にはいなかったんですよ?」

「……そうだね、嫌な事もあるけどそれ以上に嬉しい事でいっぱいだったね」

「そうですよ? それにアルナくんがいなかったらエルフは全滅してたかもしれないですし」

「そうかな?」


 なんとも甘い空気を作り出す2人。その空気に当てられた悠馬は苦笑を浮かべ、佳奈と沙織はなんともいえないような苦い顔をしながら悠馬を見ていたが、見られた本人は気づいていない。


「きゃー!あの2人ってもしかして!」

「えぇー!冒険者と貴族の婚約ってホントだったのー!?」


 周りは大勢が噂話で持ちきりだった。



「ようやく着いた……」

「遠すぎでしょ……」


 アルナ達はギルドから出て20分ほど歩いた、アウストラリスの中心にギルドが存在するが、紹介してくれた鍛冶屋は城壁に近い場所で海が見える高台にあった。

 ギルドに紹介されるほどの鍛冶師なので大きい店を構えていると思っていたが、普通の一軒家に鍛冶場が隣接しているような家だった。アルナは4人を家の前で待機するように言い、鍛冶場の扉を叩いた。


「すいませーん、誰かいませんか~」


 応答がない。その後3回くらい扉を叩き、声を掛けたのだが一向に声が返ってこないのでアルナは今日は諦めるかと4人の居る方へ歩き始めると、急に鍛冶場から異様な甲高い何かが落ちる音が鳴り響く。


「はいはーい、どちら様でしょーか?」


 高く、明瞭で中性的な声が聞こえてきたかと思うと、扉が、バタンと大きな音を立てて開いた。そして出てきたのは兎のような長い耳にクリクリっとした丸い赤い目をした兎人族の人だった。年齢は20歳程だろうか、胸も年相応に育っていて、女性だ。


「えっと、ギルドから紹介してもらって来たんですけど……」

「そう言えば、アレクさんが来てましたね……お名前を伺っても?」

「アルナ=アルヴアートです」


 アルナは被っていたフードを外し、端正な顔を晒す。名前まで聞いていなかったのか驚きに身を硬くし、笑みもどことなく引き攣っている。


「……え?」

「まあ、俺が客ではないんですけど……後ろにいるエルフ以外の3人の装備を作って貰えないかと……」

「えっと……その、聞いてきまーー」


 その女性が『す』を言う前に野太いがよく通る声が彼女の後ろから聞こえた。


「ーー貴族様が俺の店に何の用だ?」


 出てきたのはこれまた兎人族の男性の方だった。身長は180と悠馬と同じくらいだが、仕事服だろうか、長袖を腕まくりした所から見える隆起した筋肉がより一層力強さを感じさせる。


「初めまして、アルナ=アルヴアートです。今日は装備を作って頂こうと思い、来ました」

「おぉ!?」

「どうしたんですか?」

「い、いやぁ……貴族にしては腰が低いんだなぁと」

「いやいや、仕事をお願いしてもらうんだから礼儀はちゃんとしないと」


 アルナは心外だなぁと頰を膨らませて言う。しかし兎人族の男性は未だに信じられないといった顔をしてアルナを見ている。するとアルナの後ろから4人が側までやって来る。

 セリカがアルナの隣まで来たかと思うと女性に話しかけた。


「お久しぶり、ニーナさん」

「セリカさん!お久しぶりです!」

「おぉ、セリカちゃんじゃねぇか」

「店主さんもお久しぶりです」


 どうやらセリカはこの鍛冶屋の知り合いらしい、腰に下げた細剣(レイピア)はこの鍛冶屋で打ってもらったようだ、無意識に彼女の右手は細剣(レイピア)の鞘を優しく撫でている。


「今日は何の用だい?」

「えっと後ろにいる3人の装備を作って欲しいんです」

「勿論、魔石はこちらで用意してます」


 アルナは【収納魔法(ストレージ)】から直径約1メートル大の魔石を取り出した。それを見た兎人族の2人は驚き、長い耳を立たせていて眼を見開いている。


「でか過ぎるだろ……」

「初めて見たかも…………」


 セリカも悠馬たちも大きさに驚きを隠せていない。アルナは第七階層を単独で走っていた時に、黒龍 ニーズヘッグに近しい存在の龍、ブラッドネス・ドラゴンというSランクモンスターと対峙していた。かなり低確率で階層外から解き放たれる場合があるのだが丁度遭ったのた。


 ☆ ☆ ☆


 ブラッドネス・ドラゴン


 体長10メートルを超す巨体に、がっしりとした筋肉の付いた四肢。頭には2本の禍々しい黒角が2本生えている。全身は強固な鱗に包まれていて、金属を通さない。基本的に雑食で何でも食べる、しかし血を好む性格から名がついた。口から放たれる息吹は大地を焼き、鋭敏な爪からの攻撃は大地を抉る。

 Sランクモンスター


 ☆ ☆ ☆


 アルナは【魔法大槍 ブリューアロウ】を投げては超級魔法を無詠唱でぶっ放したり、【魔大剣ニーズヘッグ】を召喚し、切り刻んだりしたらいつの間にか倒れ、今持っている大きさの魔石を落としたのだ。


 閑話休題(それはさておき)


「この魔石で足りなければまだありますが?」

「い、いえ、それで充分です」


 ブンブンと大げさに首を横に振る店主。女性の方も店主と同じ意見なのか一緒になって首を振る。アルナは既に彼らに似合いそうな鎧の形状や性能を考えていた。しかしアルナは非常識な存在、確実に余計な事をしているのを彼はまだ気づいていない。


「俺はガイルと言います、先ほどの無礼をお許しください」

「私はニーナです。アルナ様、よろしくお願いします」


 2人そろって頭を下げる。


「客が店を選ぶように、店も客を選ぶ権利がある。だから気にしなくていいよ」


 アルナは2人に向かってにこっとした笑顔で言う。そうすると彼らも頭を下げるのを止め、どうぞと店の中に入る様に促してきたのでアルナ達は店の中に入っていく。


 店の中には依頼を請け負う簡単なカウンターがまず目に入った。奥の方には、炉や(ふいご)、それに金床があった。いたってシンプルな仕事場にアルナは好感を持った。それに見た事も無い人の人物画のようなものが壁に飾ってある。


「あの方は?」

「俺に師匠で、名前はカイ。種族はドワーフで地上の鍛冶神(ヘパイストス)の異名を持つ鍛冶師なら誰でも憧れを持つ言ってしまえば英雄ですね」

「こう言っちゃあれだけど、まだ生きてるのかい?」

「はい、今はだいたい200歳ぐらいじゃないですかね、ドワーフもエルフと一緒で長寿ですから」


 アルナはふとセリカの方を見ると、肯定するように頷いていた。近くにある椅子を手繰り寄せ、5人が座れるようにガイルは椅子を用意し、ニーナにお茶を持ってくるように言った。


「では貴方の話を聞きましょう」

「いいのかい? 君の性格上貴族は嫌いそうだったが?」

「アルナ様が言ったじゃないですか。『店にも客を選ぶ権利がある』って」


 ガイルは口角を上げ、笑みを浮かべて言う、そんなガイルを見てアルナは悠馬たち3人に彼に話をするように言うのだった。


 ――――――――――


 またしても密談が行われていた。

 1人は王族を示す、首飾りを付け、煌びやかな装飾のついた服を着ている男、もう1人は腰に2本の曲刀を差した、白銀に輝く鎧を装備する屈強そうな男の2人が暗い部屋で話をしている。この会話が世に出回ったら戦争になるかもしれない。


「皇子、勇者の抹殺は不可能でした……申し訳ありません」

「うむ。何があったのだ? 貴様ら龍王騎士団の精鋭が失敗するとは」

「はい、クレトリア王国のアルナ=アルヴアートの存在により近づくことも出来なかった次第であります」


 この場で聞くとは思ってもみなかった名前を聞き、王族の男は目を見開き驚いて言う。


「何ッ!? まさか勇者召喚がバレたのか?」

「いえ、それは分かりませんが……アルヴアート強襲は止めておくべきと進言いたします。」

「むぅ…………仕方ない、騎士団長に言われては無理なのだろう」

「今の我々では不可能ですが“例のモノ”が出来次第可能かと」

「そうか、ではそれまでの辛抱だな」


 こんな会話が現在行われているとはこの場にいた2人しか知らない……


次回の更新は2~3日後になります。

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