第69話
遅くなりました
「改めて、アルナ様。この度は助けに来てくださりありがとうございます」
「それが俺の依頼だったから気にしなくていいよ。それに俺の単独依頼じゃないし」
アルナはアレクから視線を外すと、どうぞと言わんばかりにアイネルに視線を向ける。
「お久しぶりです、アレク先輩」
「あ、アイネルじゃないか……もしかしてお前もアルナ様と一緒に?」
「はい、ギルドマスターの指名依頼を受注しましたから」
会話を聞いている限り、アイネルとアレクは先輩と後輩という関係らしい。その後は他愛のない話をしている。
言われてみれば、使っている武器とか体つきがにてる気がする。
アルナは2人をみてそんな事を思う。フェニスとキルライトを武器の姿にさせてから還し、アルナは怪我人の治療を始めた。悠馬たちには周りの警戒を頼んでおいた。
アルナから見て一番近くいた地面に座っている女性に向かって声を掛ける。所々装備が剥がれたり破けたりしていて目のやり場に困るが、これは治療だ、と割り切っているのでセリカは特に何も言わない。
「痛い所はある?」
「…………」
無言でいるのを見たセリカは呆れてアルナに言う。
「アルナくん、一介の冒険者が貴族に話し掛けるなんて無理があるでしょ?」
「それもそうだよね……えっとお姉さん」
「……な、なんでしょうか…………」
「気軽に話してくれていいよ、俺は不敬とか気にしないから」
「わ、分かり……分かりました」
「それで?痛みがひどいとか、魔力を補給したいとかある?」
「私は魔力の補給をしたいです」
アルナは【収納魔法】から3本ほど魔力ポーションを取り出し、彼女に渡す。
「じゃあ、これ飲んで。普通にしてるより良いと思うよ」
「ありがとうございます」
一通り怪我人を【回復魔法】によって治した。一応、この場にいる全員に口止めを頼んでおいた。
「取り敢えず、帰ろう……俺の近くに来てくれ」
何故?と思うのと、貴族には近寄りがたいようで恐る恐るといった形でそろそろ近づいていく。
アルナはフェイク用に水晶に似た魔石を取り出す。それを見た冒険者たちは目を丸くして、何か言おうとしているがアルナは無視して言う。
「転移、アウストラリス」
(【空間転移】)
心の中で詠唱し、あたかも『転移水晶』を使ったように見せかける。アルナたちは青い光に包まれて地下迷宮から脱出した。
光が収まるとそこは地下迷宮の入り口、それも賑やかな露店が並ぶ広い場所に転移していた。
急な事に助けた冒険者もその場にいた冒険者も驚きに身を固くしている。そんな中、パタパタと靴を鳴らしながら走ってくる女性が1人。
「あなたぁぁ!」
「あ、アリス……!」
息を荒げながらアレクに抱き着いた。顔は涙でくしゃくしゃになっている。アレクも妻のアリスの涙を見て感極まり、力の限り彼女を抱き締め涙を流している。
「ガムートぉ!」
「おとーさーん!」
今度はガムートの妻と娘がガムート目掛けて突っ込んでいった。奥さんは涙で顔がくしゃくしゃになっているが娘さんはニコニコした輝かしい笑顔を見せている。そんな2人を見てガムートも男泣きを始めた。
他の冒険者もそれぞれ友人や家族と話をしたり涙ぐんでいたり、抱き締め合っていたりしている。
アイネルは既にギルドの方へ向かって歩いて行ってしまった。去り際に目尻に涙を浮かべていたのを見てアルナは少し微笑ましい笑顔で彼を見送った。
どうやら皆、落ち着き始めたようで助けた冒険者がぞろぞろアルナを囲むように集まって来た。冒険者の後ろにはその家族や友人、恋人が付き添っている。
「え?なに?どうしたの?」
「アルナ様、ありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
アレクの言葉に続けてみんなが一斉にお礼をしてきた。セリカはアルナの肩に手を置き、ほら、と視線で促してくるので口を開いた。
「君たちは俺の守るべき国民であり、同職についた言わば同僚だ。わざわざお礼を言われるような事はしてない」
アルナは毅然とした態度で堂々と言う。アルナ自身も名誉や名声が欲しくて人助けをしている訳では無い。貴族としての責任といったところだろう。
その後は冒険者たちに絡まれた。アルナが貴族の公爵でありながら、思ったよりもからみやすかったのだろう、酒を振舞われたり、食事に誘われたりした。だが、全部断った。今はセリカという婚約者がいるし、悠馬たちがいる。それにまだ地下迷宮の活動自体は止まっていない。
アルナも取り敢えずギルドへ戻り、報告を済ませようと歩き出す。
「アルナ、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「俺と少し模擬戦でもしてくれないか?」
「それは、いいけど……」
アルナはいきなりの事に驚き、悠馬の顔を見るとニセモノの笑顔を貼り付けていたのに気づいた。どうやら自分の力不足を感じているようだった。
ユウマくんも十分強いんですけどね、比較対象がおかしいです……
セリカは内心そう思うのだが、顔には出さない。その代わりアルナの左腕を抱いた。
「ちょっとぉ!? セリカ!?」
「スキンシップですよ、スキンシップ」
大人の余裕というやつだろうか、公爵の次男と腕を組むだけで相当な噂が立つというのに突き刺さる視線には全然反応せず涼しい顔をしている。
「あれって疾風とアルナ様でしょ?」
「そうそう、腕なんか組んじゃって……」
「もしかして恋人とか?」
「いやいや、冒険者と貴族の恋愛なんて……物語じゃあるまいし」
道行く人がアルナとセリカの絡みを見ると、ある事ない事適当な事を2人に聞こえないように呟いているが丸聞こえである。
奇異や嫉妬、羨望の眼で見られながらもギルドまで歩いていく。ギルドのドアを開けると拍手で迎えられる。そしてなんと荒れていた3人の冒険者がアルナ達の前に出てきた。セリカは警戒して腰に下げた細剣の柄に手を添えるが、その警戒は無用だった。裏の無い眩しい笑顔で3人はアルナに声を掛けた。
「約3時間ぶりですね、アルナ様」
「おかえりなさいアルナ様」
「俺達と一杯どうですか? 勿論俺たちが奢りますよ」
媚びを売る為ではないようでアルナは好感が湧いた。
「分かった、報告が終わったら酒場で」
「「「はいっ!」」」
アルナはそれだけ言うと、受付嬢の所まで行き、声を掛ける。
「ギルドマスターは帰ってきてるかい?」
「お帰りなさい、アルナ様。ギルドマスターは部屋にいらっしゃいますよ」
「ありがと、アイネルは?」
「アイネル様ならもうアウストラリスから出発しましたよ。伝言を預かっています、『俺は先にカナトルに向かうので攻略頑張ってください』だそうです」
「あいつ、後で覚えてろよ」
アルナは額に青筋を浮かべながら、低い声で言う。勿論冗談だが、受付嬢は可愛らしい悲鳴を上げる。そんな事は置いておいて階段を上がり、ギルドマスターの部屋に行く。ノックをすると、どうぞ、と男女2人の声が室内から聞こえたのでドアを開け入る。
そこにはアレクとアリスがいた。
「「アルナ様、ありがとうございました」」
2人は揃って頭を下げた。
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