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第68話

本当に遅くなりました!

 敏捷を全開にしたアルナは螺旋状の階段を下っている。いや階段の壁を走る。いちいち一段ずつ下っている場合ではない。壁走り(ウォールラン)によってアルナは数秒で降り終わる。


 先程使った【探査(パルス)】には人間と思わしき反応が10つ、それに反し敵意や害意を抱くモノは50以上。人間の反応にはアウストラリスのギルドマスターと近しい魔力反応があり、その人が恐らく旦那さんだろう。


 第七階層の長い長い廊下には多量のモンスターで溢れかえっている。Bランク以上のモンスターがごたごたしていた。ブラッディクラブやウォーウルフなど様々な高ランクモンスターがいた。



 ☆ ☆ ☆



 ブラッディクラブ

 体長は約3メートル。4対ある歩脚のうち最も前端の1対が大型の男性がすっぽり入ってしまうほどの巨大なハサミ。全身は強固な甲殻に覆われている。肉食で、生き血を何よりも好むことから『血濡れ蟹』の異名が付いた。しかし弱点が明白で真っ赤な双眸の近くに長く生える触覚。切られたら方向感覚から全てが狂ってしまう。体格のせいで近づく事が出来ないのが難点。

 Bランクモンスター


 ウォーウルフ

 体長2メートル強の狼。長く鋭い牙に程よく引き締まった脚。黒く染まった双眸は狙った獲物を放さぬように常にギラギラしている。

 好戦的な性格から『戦争狼』の異名が付いた。5匹から20匹の群れで行動を共にする。多ければ多いほど脅威度は上がっていく。

 Bランクモンスター



 ☆ ☆ ☆



 アルナはフェニスとキルライトを武器ではない姿で召喚し、掃討を頼んでおく。


「潰せ」


「分かりました」

「おっけーだよ~」


 雷の落ちる音やナニカが燃焼する音、それが地下迷宮(ダンジョン)内を大きく揺らした。アルナはその様子など気にせずにどんどん奥へ行く。

 敏捷を全開にした走行は風を切り、音を超えている。人間の反応が近いので速度を緩め遠めから様子を窺う。

 翼爪種(ワイバーン)の突然変異種である準Aランクモンスター、再生竜(ワイアーム)や皇帝狼と呼ばれるAランクモンスター、インペリアルウルフ。それに生きている鎧の異名を持つAランクモンスター、リビングアーマーが10人の人間を大勢で囲んでいた。



 ☆ ☆ ☆



 再生竜(ワイアーム)

 四肢を持たず、蛇に翼が生えたような姿をしているワイバーンの突然変異種。眼の傍から生えた2本の角に捕食するための牙は禍々しく発達している。

 名からも分かる通り、ワイアームには再生能力がある。バラバラに斬り刻んでも直ぐに融合してしまう。しかしその能力は体内の心臓近くに存在する巨大な魔石を破壊することによって能力の効果を無くす事が出来る。

 準Aランクモンスター


 インペリアルウルフ

 強靭な四肢を持ち複数の狼を従える大型の狼。ウォーウルフの上位種、そして魔狼フェンリルの下位種。保有魔力が多く、頭脳明晰で、冒険者が嫌がる攻撃をする。魔法攻撃も行う。

 複数のウォーウルフなど同族を付き従える事から『皇帝狼』の異名が付いた。常に群れで行動するが、群れに危険がせまったら自らの命を投げ打っても守ろうとする。

 Aランクモンスター


 リビングアーマ―

 自らの意思を持ち、動き回る鎧。地下迷宮(ダンジョン)内で死んだ冒険者の霊が乗り移ったとされている。個々で持っている得物が異なる。常に単騎でいる。

 個体によって強さが変わるが基本的にBランク以上と見て良い。

 A~Bランクモンスター



 ☆ ☆ ☆


 モンスターに囲まれた10人は全員が満身創痍。魔法が使えないのは魔力が尽きたから、剣が振れないのは体力が尽きたからだろう。

 そして引導を渡そうとリビングアーマーの1体が近くにいた2人の男女に向けて剣を振り下ろそうとする。


「きゃああっ!」

「死にたくねえっ!」


「……任せな」



 ***


 俺の名はガムート。Aランク冒険者だ。俺はギルドマスターの旦那、アレクとパーティの仲間たちと地下迷宮(ダンジョン)を異変を調べに来たんだ。

 最初の方は順調だった。ランクの低いモンスターをことごとく殲滅し、少し調子に乗ってたみたいだな。第七階層に入った途端高ランクのモンスターに一瞬怯んだ隙に囲まれた。最初は全然普通に応戦できてたんだ。

 だがこの1週間地下迷宮(ダンジョン)で寝泊まりし無意識にもストレスやら疲労やらが溜まってたんだろう。戦闘を開始して僅か10分俺をはじめ、俺の仲間もどんどん動けなくなっていった。


 目の前には仲間の女目掛けてリビングアーマーが愉悦な表情を浮かべて剣を振り上げた。

 俺は無意識にも彼女の前に出て、両手を広げ守るように邪魔した。剣が振り下ろされる瞬間、今までの人生が走馬灯のように頭の中に浮かんだ。

 苦楽を共にした仲間、いつも不安にさせてしまうが笑顔を浮かべる最愛の妻、そして俺を、妻を笑顔にさせてくれる娘。

 俺は涙を流しながら叫んでいた。


「死にたくねぇ!」


「……任せな」


 何処からともなく声が聞こえた気がした。幻聴だろう、ここまできて他人に頼るなんて馬鹿な男だよなぁ……。


 〝キィィィイン〟


 俺は耳を、目を疑ったよ。それはみんなも同じで目を丸くしたさ。なんたって俺の前には高密度の魔力障壁が生成され、リビングアーマーの剣を防ぐだけでなく攻撃した剣を破壊したんだ。

 再び俺たちを安心させるような優しげな声が聞こえた。

「後は任せろ」


 次の瞬間、目の前にいたリビングアーマーが爆散した。言葉通り、爆散した。

 火属性最上級魔法【爆破(ブラスト)】だろうか、だがそれにしては威力が強すぎる。

 それを合図にモンスター達が攻撃された方向を見るとそこには黒い長髪をなびかせた少女が佇んでいた。


「危ないっ!」

 俺は咄嗟に叫んだ。間に合わないとしても叫ばずには居られなかった。次々とだがその少女は慈愛に満ちた笑顔を俺たちに見せると右手を攻撃しに突進してくるモンスターに向ける、その瞬間、少女は感情の無い淡々と抑揚のない声で詠唱した。


「【龍の息吹(ドラゴンブレス)】」


 刹那、少女の右手から莫大な魔力の波動を感じ、俺の体は無意識に震えていた。

 前に見たSランク冒険者、キャレックの【龍の息吹(ドラゴンブレス)】とは魔力波から威力、全てが違っていた。


 巨大な魔力の波動砲がモンスターとぶつかり合う。いや言葉が違うだろう、ぶつかった途端に波動砲がモンスターを飲み込んで行き、消し去っていった。

 波動砲が魔力を失い、効力が切れると付近には多量の魔石が落ちていた。


「た、助かったぁぁ!」


 俺は無意識にもダランと地面に仰向けに寝そべり、大の字に身体を伸ばしていた。そこに庇った女も同じようにしていた。

 スタスタと近づいてくる足音が……。俺は見上げるとさっきの少女が笑みを浮かべ俺の顔を覗き込んでいた。

 俺は慌てて起き上がると、頭を下げる。


「ありがとう、助かった!」

「いいや、礼には及ばない。俺の仕事だからな」


 その少女はキョロキョロ辺りを見回し、背後にいる仲間達まで見だしたので俺は不審に思った。


「どうかしたのか?」

「いや、アレクって人はいないか?」

「いるが……何の用だ?」

「そう警戒しないで欲しい。俺の名はアルナ、アルナ=アルヴアートだ」


「「「「「……えぇ!?」」」」」

 俺たちは本気で驚いた。貴族様が、それにあのアルヴアートの人が今、目の前にいるなんて……。


「アレクは俺だ」

「おお、良かった。ギルドマスターが貴方を心配してました。早く帰りましょう」

「そうか……でも調査を続けなければ……」


 アレクは立ち上がるとすぐによろけ、地面に腰をつくのをみて俺は笑ってしまう。


「おい、アレク。アルナ様のご厚意に甘えておけ、アルナ様が居なかったら俺らは死んでたんだ」

 俺はアレクを諭すようゆっくり言う。うーん、と悩んだ後、分かった、と言い荷物の整理を始めた。


 俺もアレクに見習い、荷物の整理を始める。まあ特に剣を腰に差し直したり衣服の乱れを整えたりしただけだが。


 俺は今回の一件は一生感謝の意を決して忘れないようにしなくては。そして俺は嫁や娘に話をするんだ。アルナ=アルヴアートが俺をパーティを助けてくれたってな。



 ***


 アルナは彼らの救出を終え、セリカ達の到着を待っていた。

 それも束の間、すぐに走って向かってくる。


「遅いぞぉ、もう終わった」


「私達も終わりました。」


「アルナくん、早すぎ……はぁ」



 アレク達は後から来た狼と不死鳥、有名冒険者の登場に驚きを隠せない。

 それをみたアルナは苦笑してしまう。


「取り敢えず、無事で良かった。」



 アルナは心の底から思うのだった。



 安堵したアルナは気づかなかった、今回の騒動に加担していた間者がすぐ傍で気配を完全に消し、こちらの様子を確認しているのを……

次回の更新は2〜3日後になります


他者視点というのをやってみました。

見づらかったらすいません!



次回以降もよろしくお願いします!

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