第66話
地下迷宮第一階層にて――――
アルナ達5人は悠馬たちの特訓を片手間に第二階層に通じる階層ボスがいるとされる部屋へと攻略を進めていた。
「せやぁぁあ!」
両手に篭手を装備した佳奈は、左手を正面に突き出し右腕を身体後方まで引き絞りDランクモンスターである食屍鬼の額に向かって思いきり振り抜く。頭蓋骨が割れる鈍い音が洞窟内に響き渡る。
「ガアアァ……」
生命の終焉を催す、悲しげな悲鳴を上げると、食屍鬼は黒い霧に包まれ、次の瞬間に紫色に染まった透明感溢れる宝石のような石がドロップした、所謂魔石だ。
佳奈はドロップした魔石を拾い上げ、腰に装備しているポーチにしまい込むと新しく湧いた食屍鬼に向かって走り出す。
その傍らでは沙織が鞘から刀を抜き放ち、右足を引き体を右斜めに向け刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げた構える。沙織から攻撃の意思がないとみた食屍鬼は器用にも口元を歪ませ、沙織に向かって剥き出しになった鋭利な牙で血肉を食らおうと直進する。
沙織は思い通りになった事に少し高揚を覚える。
「はあああ!」
直進してきた食屍鬼の無防備になった脇に向かって一文字に斬り裂く。食屍鬼の身体が綺麗に真っ二つになり、黒い霧に包まれ、魔石を落とす。
悠馬に関しては2人の戦闘の奥の方では2人が対峙し、命のやり取りを行っているモンスターよりも高位に位置するモンスターと戦闘をしている。名は骸骨騎士。名から分かる通り全身が骨で構成されている。何となく格下のように思えるがれっきとしたCランクモンスターだ。
悠馬はその骸骨戦士を剣を交えている。今剣を合わせているので10匹目だという。まだ攻略を開始して20分と経っていないにも関わらずだ。
「せいやあぁ!」
気合を込めた声と共に悠馬は骸骨戦士の剣を弾き、一刀両断する。流石に最前線で戦わされ続けてきたのが見て分かる。どうすれば極限まで体力を温存出来るか、一つ一つの動作から見て取れる。
そんな様子を見ているアルナ、セリカ、アイネルはというと……
「カナというのは中々力強い拳を打つのですね」
「サオリさんも洗練された剣技を使うみたいですよ?」
「あの3人は小さい頃から武道を仕込まれてたからね」
3人の動きから自分にも使えそうな技術を盗み取ろうと観察している。アルナはこの世界において上に位置する2人の褒めの言葉を聞いて自分の事のように自慢し、そして何よりも誇りに思えた。
どうやらこの辺に湧いていたモンスターが全滅し、3人はアルナ達の方に歩き寄ってきた。息苦しそうな感情は見えず、アルナは少しゆっくりしすぎたかと思ってしまう。チートになってしまうがアルナは探査によって地形を把握し、どこにモンスターが湧いたかを確認する。地下迷宮の地図は売っているのだがアルナはこの創造魔法によって余計な出費を抑えていた。
「じゃあ進もうか」
「ああ、頼む」
悠馬は右手に持つ黄金に輝く剣を腰に下げた鞘に納めると、ふう、と一息ついてからアルナに言う。地下迷宮の内部は薄暗く、全然見えないわけではないが見づらい。そんな思いが3人から伝わったアルナは光属性初級魔法【光の玉】を無詠唱で5つほど生成するとアルナ達の周りを照らし始める。
昼間のように明るくなった地下迷宮、不気味さも何もない。
そこから階層ボスの待つ部屋まではアルナが受け持った。
「いやいや、そこは俺達にやらせてくれよ」と悠馬に言われたのだがアルナは「悠馬達には階層ボスをお願いするから」と言ってやんわり断った。アイネルも戦いたそうにしていたが、この辺のモンスターだと収入源となる魔石まで一緒に粉々に粉砕してしまいそうだからとアルナは言った。アイネルも「それもそうか」と退いてくれた。
アルナが受け持つと言っても進路に湧くモンスターを片っ端から魔法で迎撃するだけである。そして風属性中級魔法【風撃】を改変する。攻撃力を無くし、アルナの方へ強風を起こすことでドロップした魔石を回収する。それをいともたやすく行うアルナを見てアイネルは絶句する。
「アルナ様……? 今何を…………」
「え? 何って中級魔法を改変しただけだけど」
「貴方に常識は通用しないようですね……」
頭を抱えだすアイネル。アルナは少し不愉快である、別に悪い事はしていない。
そんな事も束の間、目の前には第一階層の階層ボスの部屋に着いたようである。真っ黒な扉の先には一体何がいるのだろうかとアルナは好奇心に負け、誰にも何も言わずに扉を開けた。
円型の闘技場のようなスペースが広がっていた。壁には蝋燭のような明かりが多数設置してあり空間を照らしている。その中心には体長が3メートルはあると見られる両刃を持つ大きな斧を片手で装備して憤怒の表情を浮かべているBランクモンスター――牛頭人身が佇んでいた。
牛頭人身の赤く染まった双眸がアルナ達をロックオンするかのようにギョロっと動き、細くなる。明確な殺気を感じた6人はそれぞれが空間中に散らばる。
「モオオォォ!」
空間中がビリビリと震えるほどの咆哮を上げると突っ込んでくる。その先にはアルナ。容赦も隙も無い突進に悠馬たち3人はアルナに対して悲鳴を上げているが、アイネルはそんな3人を宥めている。
「ちょっと酷くない? アイネルさんもこの牛頭人身も」
はあ、と溜息をつくと、背負っている【魔大剣 ニーズヘッグ】を抜刀すると、下段に構える。
『お、お久しぶりです! アルナ様っ!』
「久しぶり、今回も手荒なことに使ってごめんね」
『もうばっちこいですよっ! 私としてはもっと激しく使っていただいてもいいんですよ?』
もうやだ、俺の周りには変人、もしくは冷たい人しか集まんないのか……
アルナはニーズヘッグとの[精神感応]を強制的に切る。ドM性癖があったのは知らなかったが。
そんな事を思っている内にアルナの目の前には既に斧を大きく振りかぶり、アルナ目掛けて斧を振り下ろそうとしている牛頭人身だった。アルナは腰を落とし、振り下ろしてきた斧に向けて【魔大剣 ニーズヘッグ】を思いっきり振り上げる。
“キィィィィン”
部屋中に甲高い金属音が鳴り響く。十分な力、それに姿勢で斧を斬りかかったはずなのに剣を振り上げただけで弾き返され、地に倒れる牛頭人身。挙句の果てに持っていた武器の斧は衝撃に耐えきれずに粉々になっている。自分の得物を粉砕され呆然としているその隙は悠馬にとっては都合の良いものだった。
「悠馬、やっちゃって」
「おうよ」
すぐ傍まで近づいていた悠馬に声を掛けると陽気な、でもどこか緊張した声音を含んだ言葉を言い返してきた。
「『四元を司る精霊よ、世界を司る神よ、我、勇者の名の下に神聖なる空間を創造す【聖域円環】』」
祈る様に両手を繋ぎ、丁寧な口調で詠唱する悠馬を中心に円型の光り輝く魔法陣が展開される。眩い光と共に魔法陣から牛頭人身を射殺すような光線が発射される。足元からの攻撃に成すすべもなく牛頭人身は光線の餌食になり【聖域円環】が魔力を失い効力が切れると今度は燃えているような灼熱の色をした魔石が葬り去られた位置にドロップしており、入ってきた入り口と正反対の位置にはまた地下への階段が生成されていた。
魔法名【聖域円環】。光・聖混合属性超級魔法でありこの世界では使える者は悠馬1人しかいない。まずこの魔法書が無く、聖職に就く者でも知らないだろう。
威力はアンデット族ならば跡形もなく消し飛ぶ。発動者から見て、敵意のある者には全身に灼けるような痛みが襲う。しかし味方には体力回復等の補助効果が入る。
アルナやセリカ達の身体は【聖域円環】の効果により淡く光っている。アルナは自分の手を握ったりしている。
「今ならなんでも拳で粉砕できそう……」
「「いやいやいや!」」
何故かアイネルとセリカには否定の言葉が飛んできたのだがあまり気にしないでおこう。それより悠馬の方を見ると膝に両手を置き、肩で息をしている。加えて顔色も悪い。魔力欠乏症の前振れである。アルナは【収納魔法】から魔力ポーションを取り出し、悠馬に渡す。
「これを飲んで、魔力の回復が早くなるから」
「はあ、はあ……サンキュー」
瓶のふたを開けると、一気に飲み干す。甘い味にビックリしているのだろうか、瓶を見つめたまま動かなくなる。アルナはそんな悠馬を見て苦笑するが、気を引き締めてから言う。
「じゃあ、第二階層へ行きますか」
アルナは先導して【光の玉】を創り出すと、階段を下りていった。第二階層へ進んでいくのであった。
――第一階層、攻略時間20分。
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