第65話
遅くなってすいません
「久しぶりですね、《龍殺し》」
「貴方に敬語を使われると嫌味にしか聞こえませんよ?それにその二つ名で呼ぶのは止めてください」
アルナは騒動の後、セリカ達を連れて地下迷宮へ向かう途中でアイネルに出会ったので声を掛けた。アルナは裏の無い笑顔を浮かべているのだが、アイネルから見れば何か不吉な事を考えていると思うのだろう、少し体を引いて答えている。
「ねえ、アルナくん。Sランク冒険者と知り合いだったの?」
「前に少し色々あってね、ねえ? アイネルさん」
「少しも何も戦っただけですよ、“疾風のセリカ”さん」
アルナもセリカもぽかんと口を開けて呆けている。我に返ったセリカはアイネルに尋ねる。
「あれ? どうして私の事知ってるんですか?」
「Sランク冒険者に最も近い存在として認知されてますよ? 無駄と隙の無い剣技に加え、魔法は宮廷魔導士を圧倒し、エルフでありながら冒険者をやっている。知らない者はいないですよ」
紳士的な口調で、セリカに語るアイネル。頬が紅潮しているのはやはりセリカが美人だからだろうか。何となく好意をセリカに寄せているようなのでアルナは話に割って入り話題を転換させた。
「……それより、アイネルさんも指定依頼ですか?」
「……え?あ、ああ、俺は西の都のカナトルのギルドマスターからだな」
「へぇ~、カナトルってどんな場所なんですか?」
「カナトルは別名龍の里って言われててしょっちゅうワイバーンやらが出現するんだ。大森林に囲まれて、温泉街もあったかな」
「「「温泉!」」」
アイネルの温泉という言葉に過剰に反応する日本人3人。アルナはこの世界に来てから数ヶ月、ある程度慣れたが悠馬たちはまだ一月経ってないようで、体を拭くだけというのがやはり生理的に嫌なようだ。
3人はアルナの方を向いて懇願するような眼を向ける。セリカも私も行きたいという目を向けてくる。
アルナは、はぁ、と溜め息をついてから言う。
「分かった分かった、色々片付いたら次はカナトルへ行こう」
「「「「やったぁ!」」」」
アルナとアイネルを除いた4人は喜びのあまりお互いにハイタッチをしている。
女性陣のわだかまりは溶けたのだろうか? とアルナは思う。アイネルを見ると少し羨ましそうな目を彼らに向けていたのを目撃してしまう。
「アイネルさん、何かあった?」
「…………いいえ、何でもないですよ」
さっきの哀愁漂う表情は何処へやら、輝くような笑顔を見せる。アルナは深く追求するのは止めておく。
街中にある時計を見ると既に9時を回っている。アルナは歩くスピードを上げて早めに着くようにする、何せ悠馬たち3人の訓練もやらなくてはいけない。加えてアルナ自身も地下迷宮について無知に近い、それはアイネルに聞けばいいのだが。
地下迷宮までの道で、会う人会う人皆に見られ、少し嫌悪感を抱くが顔には出さない。
Sランク冒険者に加え、『バハムート』隊長、それに有名なAランク冒険者でエルフ。そんな集団を目にしたら注視以外のなにがあろうか。
そんなのも束の間、ようやく地下迷宮の入り口に着いた。露店の商人や冒険者でゴタゴタしている。中には鍛治師もいるようで、剣を打つ甲高い音が聞こえる。
アルナたちがその広場に入り込むと全員の視線がアルナたちに集まる。羨望やら嫉妬やら様々な感情が籠っている。
しかしアルナはそんな事知らない。彼の目にはケモ耳に釘付けだった、悠馬たち3人も同様である。冒険者の中には獣人もいるようで、鎧の隙間から尻尾がゆらゆら揺れていたり、フサフサな耳がぴょこんと出ていたり。
アルナは目を輝かせて、近くにいる猫の獣人らしき女性に話し掛ける。
「どうも、アルナっていいます」
「ひゃっ、ひゃい! わ、私が何か? アルナ様」
どうやらアルナの身分を知っているようで仲間の冒険者と話していたのにも関わらず、直立不動の姿勢になり、畏まってしまう。アルナはその様子を見て苦笑してしまう。
「畏まらなくていいから、ふつうに話してくれ」
「は、はぁ……アルナさんは私に何か用ですか?」
「いやぁ、年甲斐もなく獣人を見たら興奮してしまって……ははっ」
頭を掻きながら照れたような笑顔を見せながらアルナは彼女に言う。獣人の冒険者は何か思い出したかのように急に話しかけてきた。
「そういえば、アルナさんは病弱であまり外に出た事ないって聞いたことありますけど……それのせいですか? 獣人について知らないのは」
何故か卑下した寂しそうな笑みを浮かべる獣人を見てアルナは怒気を少し孕んだ声で言い返す。
「どういう事?」
「獣人は忌み嫌われる対象なんです、今の時代はそこまで重くはないのですが、高貴な身分の方は嫌いだそうですよ?」
「そうなの、アイネルさん?」
「そうですよ、俺は嫌いじゃないですけど。俺の元いたパーティには普通に獣人は居ましたし」
アイネルはどっちかと言うと好意的らしい。
アルナはふと疑問に思った事を口にした。
「君の種族は?」
「私は猫人族です」
言われてみれば、耳は猫のように小さく、なんだか守って上げたいと直感的に思う。
しかし、そんな思いが顔に出ていたのだろうか、アルナの後ろで淡々と立っていたセリカがずかずかとアルナとその猫人族の人の間に割り込んでくる。
「アルナくん、早く地下迷宮に行きましょう」
お互いの鼻が触れそうなほど顔を近づけて言ってくる。アルナはセリカの綺麗な顔が間近にあり、喉を鳴らしてしまう。
「ち、近いって! ねぇ!?」
「アルナくんが悪いんですよ? 私以外の女とイチャイチャして」
「べべ、別にそんな事してないよ!?」
どうしてそうなるんだとアルナは心の中で思う。しかし冷静になってみるとセリカのこの行動は前にもあった気がする。それに散々埋め合わせをすると言って未だにしていない。不満が溜まるのも当然だ。
アルナはセリカの特徴的な長い耳に口元を近づけ囁く。
「取り敢えず、地下迷宮の帰りに少し買い物に行かない?」
「ひゃっ……い、良いですよっ! 絶対ですからねっ!」
急に機嫌がよくなり、鼻歌まで歌っている。そんなセリカの豹変ぶりに驚く猫人族の人にアルナは声を掛ける。
「猫人族の方、さっきはすいませんでした。俺らは地下迷宮に向かうので失礼しますね」
「え、ええ……あ、私はシーニャと言いますので」
「わざわざ名乗ってもらってありがとう、じゃあシーニャさんまた今度」
「こちらこそ、また」
何の変哲もない挨拶をするとアルナはセリカ達に声を掛けて、地下迷宮の入口へ向かう。約20人くらいの冒険者たちが列を成しているのを見ると、どうやら中に入るのは順に従うようだ。その列にアルナ達が並ぼうとすると、並んでいた冒険者が先に行って下さいと列を開けてくれるが、アルナはやんわりと断る。
「いくら貴族でもルールに逆らうなんて許されない。君たちの方が先輩なんだから」なんて優等生ぶった言葉を彼らに掛けると、何やら神でも見るような眼で見られた。
少し待つと、ギルド職員だろうか、ギルドにいる受付嬢と同じ格好をした女性が地下迷宮の前で立っている。
「ようこそいらっしゃいました、アルナ様、それにアイネル様」
「あなたは?」
「私は地下迷宮担当、ルミナと言います。御二方の指名依頼はこちらでも受理されておりますのですぐに出発できます。どうなさいますか?」
アルナはこの赤い長髪のルミアという受付嬢の先読みに驚いていた。名を聞いてから、聞こうと思っていたことまで把握していたのだろうか。しかしその配慮は恐らく期待の冒険者だからであろう。
「ええ、行きます。えっと彼ら、そこの3人は今日登録したばかりの新人ですけど俺が責任を持つとギルドマスターには伝えてあるので」
「りょ、了解致しました。それではご健闘をお祈りします。」
そう言うと、ルミナは進路から横にずれアルナ達へ向かう様に促す。アルナはそれを見るとセリカ達に目配せをする。セリカにアイネル、それに3人も頷くのを確認してから歩き出す。
入り口に着くとそこには4人の冒険者が入り口をガードしている。モンスターの脱走を危惧しての事だろうか。アルナ達一行に気が付くと特に何も言わずに中に通してくれた。
塔にあるような螺旋階段が地下深くへと続いている。何段下りただろうか、そんな事を思っていると階段が終わる。そして地下迷宮が姿を露わになる。
まるで黒曜石で全てが構成されているような洞窟――第一印象はそんな感じだった。
アルナ達は初となる地下迷宮攻略を開始するのだった。
次回の投稿は2日後になります。
https://ncode.syosetu.com/n0002ep/
『魔物使いの冒険譚~最弱ジョブの成り上がり~』も投稿し始めました。
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