第64話
少し短めです。
「お待たせ」
アルナはギルドマスターであるアリスとの会話を終えてカウンターで待たせている仲間の下へ戻った。悠馬と佳奈、それに沙織の3人の手にはEランクのギルドカードがある。どうやら登録は終わったようだ。
「おそーい」
「とっくの前に終わったんだけど」
佳奈と沙織は不満をぶつけるがアルナは涼しい顔をして聞こえなかったフリをする。それよりアルナは話題の種になるといって冒険者の塊に突っ込んでいったセリカを探す。周りを見渡すが他の冒険者の身体が大きいため全然見えない。ふと横から4人組の冒険者が近づいてくるのに気が付いたアルナはその方向を見る。そこにはどうやらDランクに昇格したばかりに見える少年少女がいた。それに見知った顔である。
「次の依頼はこれにしない?」「いやいや、それは少し危険すぎないか?」と会話しているのが聞こえてくる。
「ちょっと待ってて」
「ああ、俺たちはここで待ってるから、早めに帰ってきてくれよ?」
「分かった」
アルナは彼らの背後からそっと近づいて、1人だけ名を聞いた子に声を掛けた。あ
「久しぶり、ダリア、それに皆」
「だ、誰ですか?」
「あの、勧誘とか間に合ってるんで……」
警戒心むき出しにした4人を見てアルナは嘆息する。どうやらこの1ヶ月近くで成長したらしい。アルナは苦笑しつつ周りに見えないよう彼らに向けてフードを上げ、顔を見せる。
アルナの顔を見た4人は大声を上げようとするが前の約束を覚えていたようですぐに口を噤む。
「お、お久しぶりです。アルナ様」
「その節はありがとうございました」
「あれ以来、急がずに依頼を受ける事にしたんです」
「それに俺たちDランクに昇格出来たんですよ」
「おめでとう、元気そうで何よりだ」
そんな気兼ねない会話に花を咲かせる。どんな依頼を受けてきたのかと、アルナは気になって矢継ぎ早に質問していく。この国のトップに位置する人物に自分たちの事に興味を持ってもらうのが嬉しいのか、自慢げに質問に答えていく。
アルナは登録した日に既にAランクまで昇格してしまったので昇格までの苦労さが分からない。それを言うのは失礼なので黙っておくが。
一通り質問を終えたアルナに今度は4人組のダリルじゃない女性が話しかけてくる。
「アルナ様もこの街の地下迷宮目当てですか?」
「俺はギルドマスター指名依頼を受けに来たんだ」
「マジっすか!」
「指名依頼ってカッコいいっ!」
興奮した男というのは無意識にも大声を出してしまうものだ。ざわざわしたギルド内でもその声が響き渡ってしまい、全員がこっちを見る。知らない厳つい男3人が寄ってきた、4人はその3人を見てビクビクしている。昔何かあったんだろうか、と思っていると何故か分からないがいきなり胸倉をつかまれた。身長差があるせいかアルナは宙に浮く。
「おい、お嬢ちゃんよぉ……指名依頼だって?」
「この街で指名依頼なんてあの地下迷宮でしかでないんだぜ?」
「お調子者には俺たちが教えてあげないとなぁ」
卑しい笑みを浮かべ、3人は舌なめずりをする。近くにいる女性冒険者は顔を青くしている。
「おい、止めておけ」
声を掛けてきたのは《龍殺し》、アイネル=マインフォードだった。威厳を纏った体格に押され気味になる3人の冒険者。最初はその3人を睨んでいたが、アルナの方を向くと、とっとと正体を現せ、と言わんばかりの視線を浴びせる。それにも関わらず、アイネルは口を開く。
「そいつが誰だか、分かっての行動だろうな?」
「……ちっ、あんたには関係ないだろ」
「誰って新米に決まってんだろっ!」
「ギルド内での喧嘩は止めなさい、規定に書いてあるのだけれど?」
暑苦しい雰囲気の中に、よく通る凛とした声がギルド内に反響する。聞こえた方向を見るとそこにはギルドマスターであるアリスが腕を組み、怒りを張り付けた表情で佇んでいた。
「ねえ、そこの貴方。貴方が掴んでいるその方を放しなさい」
「別にいいだろ、俺たちは命令に拘束される謂れはねえんだからよっ!」
「不敬罪になっても知らないわ、ねえ? アルナ=アルヴアート様」
ガヤガヤとしていたギルドが一気に静寂に包まれる。集団からセリカや悠馬たちもアルナの近くまで出てきて、胸倉を掴む男たちを射殺さんばかりの殺気を乗せて睨み付ける。
ふと胸倉を掴む手が緩まり、アルナは地に足を付ける。ギシギシと音が鳴りそうな勢いでギルドマスターからフードを被る少女に目線を向ける。アイネルに関しては「俺は止めろって言ったからな」と言いながらギルドから出て行く。
男たちが女性を虐めるのを見ていたギャラリーも冷や汗を禁じ得ない。
まあ、いつも通りの展開ですね……うん。
「ギルドマスターが言う通り、俺はアルナ=アルヴアートだ。」
フードを外し素顔を晒す。一応ギルドだから武器も出した方がいいかと召喚魔法で【魔大剣 ニーズヘッグ】の姿で召喚し、背に装備する。剣先が地に付きそうなのはご愛嬌と言う事で。
これで疑いようがない。3人の男は地に頭を、額を付けて土下座をする。
「「「し、失礼しましたぁぁぁ!」」」
「許すわけないじゃん?」
少しの間も置かずにアルナは吐き捨てるように言う。自分でもびっくりするほど冷たい声が出た。
「高位ランクの奴は何してもいいのか? おい。あんたらみたいのがいる所為で冒険者の質が疑われるんだ、てめえらの行動自体が冒険者全体に迷惑を掛けているんだよ。ええ? 失礼しましただ? 自分より高位の奴だって分かるとへこへこしやがって……」
「「「…………」」」
他の冒険者はこの状況を、そしてアルナの判決を固唾を飲んで見守っている。
「まあ、だから何なんだって話なんだけどね?」
「「「はっ?」」」
この場の全員が呆ける。再び全員が固まったように動かない。アルナはそんな事も気にせずに話を続ける。
「貴族は強権を利用して成り上がる者もいるし、俺からはお咎めなしにするよ。」
「「「ありがとうございます」」」
アルナは近くに来たセリカと悠馬たちと合流する、そのまま何も言わずにギルドから出て行った。アリスはやれやれといった感じで呆れるように首を振っている。仕事の顔に戻ると3人の前まで移動して言う。
「アルナ様の言う通り、ギルドからもお咎めは無しにします。しかし貴方達は冒険者に泥を塗る行為をしでかしました。それを努々お忘れなく」
冷たい視線を彼らに向けると彼女は2階に上がっていった。
他の冒険者も我に返ると、依頼探しを再開したようだ、ギルドが騒ぎ出す。地に座る3人はお互いを見合わすと近くにあるテーブルに座る。さっきの事を思い出すと震えが止まらない。
「あ、あの人はヤバいな……」
「ああ、半端なかった」
「これからはちゃんと依頼を受けよう」
「「そうだな」」
半年後、彼らはアウストラリス一のAランク冒険者として街中に名を馳せるのをまだ知らない。
次回の更新は2日後になります。




