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第63話

「俺達もお前についていってもいいか?」

「ついて行くって……どこに?」

「その、ダンジョンとか言う所に……ダメか?」


 少し恥ずかしがりながら言う悠馬は佳奈と沙織も連れてアルナに言い出した。


「構わないよ、戦力が増えるのは良い事だし」

 アルナは首を縦に振りながら言う。セリカはむぅ、と唇と突き出すように不満を表情に出すがアルナは気づかない。


「折角2人で行けると思ったのに……」

「ん?何か言った?」

「別にっ!なんでもないし」


 ふんっ、とセリカはそっぽ向いてしまう。アルナはどうしたのだろうと理由を探すが、分からないので取り敢えず侯爵に了解を取りに行く。



「――と言う事なんで、連れだしてもいいですかね?」

「いいと思いますよ、なんたって護衛にはあのアルナ様が就くのですから」

「あのってよくわかんないですけど、まあ安全第一で行ってきますよ」


 ギルドまで送りますと言われたが、執務室には机の上に積みあがった書類を目にしたアルナはそれは悪いからと言って断った。再び3人の部屋に戻ってきたアルナは既に準備が終わった4人を見て声を掛ける。


「一応、侯爵の許可が下りたんで行きますか」

「ありがとう、アルナ」

「いいや、気にしなくていいさ」


 アルナは侯爵の屋敷から出ると、門を護衛する兵士に冒険者ギルドまでの道を尋ねる。いきなり話しかけられた兵士は慌てずに丁寧に教えてくれた。大通り沿いにあるようでここから10分くらいの距離らしい。


 アルナは3人分のフード付きの外套を悠馬と佳奈、沙織に渡した。

「一応羽織っておいてくれ、レイザルの間者がいないとも限らないからな」

「ああ、悪いな」


 3人は渡された外套を羽織り、5人は歩いていく。朝8時をすぎていて、ちらほらと店が開店し始めている。ギルドまでの道ですれ違う人、全てが二度見をする。それはしょうがない。セリカはエルフで特徴的な耳を隠しておらず、顔も出している。冒険者らしく剣を装備している3人組の男どもがアルナ達に近づいてくる。

 アルナは警戒をするが、彼らの眼には尊敬の意しか映っておらず警戒を解く。セリカの前に来ると、


「あ、あの“疾風のセリカ”さんですよねっ!」

「俺、ファンなんですっ!」

「握手してもらってもいいですか?」


 矢継ぎ早に話していく。セリカはいつも通りの事なのか普通に応対をしていて彼らの要望通り握手までしている。満足したのか、感謝の意を述べると足早に城門の方へ走って行ってしまった。


「日常茶飯事なの?」

「そうなんですよ、エルフって事もありますしね」


 アルナはタイミングを見計らってセリカに言う。アルナも3人と同じように外套を羽織っているので顔はバレていないので話しかけられなかった。恐らく、セリカ以上の人気を博しているのをアルナはまだ知らない。


 そんな出来事も付かぬ間、5人は何事もなく冒険者ギルドに着いたのだが、外でも分かるくらい中がガヤガヤと騒いでいる。何が起こっているのだろうとアルナは4人を外で待機するように言うと、1人で中に入っていく。


 アウストラリスの冒険者ギルドは王都よりも小さいが冒険者の規模が大きく、賑やかだった。ギルドの中心では人だかりが出来ている。人だかりの中、1人だけ突飛して背が大きく、その巨体に合った大剣を背に差している。


「ああ、Sランクの《龍殺し(ドラゴンキラー)》か」


 前に『バハムート』の設立時に戦ったSランク冒険者の1人だった。別に警戒するほどの事ではなくてアルナは入り口に置いてきた4人に声を掛ける。


「なんかSランク冒険者がいて、騒いでたみたいだよ」

「Sランク冒険者? 誰だったんですか?」

「えっとね、《龍殺し(ドラゴンキラー)》だったよ」

「あ、あの人ですか……」


 嫌な思い出でもあるのか、苦虫を噛み潰したような顔をするセリカ。アルナはどうしたのだろうかと思うが敢えて聞かなかった。


「まず、悠馬たちの冒険者登録をしないとね」

「ああ、頼むわ」


 アルナを先頭にギルドの中に入っていく。5人の内4人も外套を羽織っており、怪しさが満載である。ギルド内の全員と言っても過言ではないほど視線が集まる。しかしそんな視線もセリカに向いて行ってしまった。


「と、取り敢えず私が相手しておくんで、3人の冒険者登録を済ませてください」

「悪い、ありがと」


 ボソッとアルナに耳打ちをするとセリカは人ごみの中へ入っていく。ギルド内に2人も有名な冒険者がいる事で興奮のボルテージが一気に上がっているが、アルナは3人を連れて受付嬢のいるカウンターへ向かう。


「おはようございます!本日はどうされましたか?」

「後ろの3人の冒険者登録を頼む」

「了解しました!ではこちらの用紙に記入をお願いします」


 受付嬢は16歳くらいだろうか、元気いっぱいの女性が対応してくれる。荒々しい者ばかりのギルドに不相応だが、この仕事に誇りを持っているような笑顔を見せている。

 3人が出された用紙に記入している中アルナは別件で話しかける。


「ちょっといいかな?」

「勿論ですよ!どうされましたか?」

「えっと、王都のギルドから依頼を受けたアルナだ」


 アルナの名を聞いた途端に顔を真っ青にして座っている椅子を蹴り上げるように勢いよく立ち上がる。


「……っ!ぎぎ、ギルドマスターを呼んで参ります!少々お待ちを!」

 ドタバタと2階へ続く階段を走り駆け上がって行ってしまった。何気なく周りを見渡すとこちらに視線が集まっているが、無視をする。少しすると受付嬢が2階から降りてくる。


「ギルドマスターがお会いになるそうです!ご足労をお掛けしますが、2階に上がってもらっても宜しいですか?」

「構わないよ、3人の登録は頼んだよ」

「お任せください」


 アルナは3人にギルドについてしっかり説明を聞くように言うと、1人で2階へ上がっていく。上がるとすぐにドアがあるので一応ノックをしておく。中からどうぞと声が掛かるのでアルナはドアを開け、部屋の中へ入っていく。

 侯爵の執務室と大きさは同じくらいで奥の机には1人の女性が立っている。金髪で肩までの長さ、冒険者らしからぬシャツを着ており、礼儀正しい、それが第一印象だった。


「ご足労、ありがとうございます」

「気にしなくていいよ」

「私はこのアウストラリスのギルドマスターのアリスと言います」

「アルナ=アルヴアートだ」


 自己紹介を終えるとすぐそばにあるソファーに座る様に促されたので、腰を掛ける。ティーカップを2つ持ってくるアリスはなんだか落ち着かない雰囲気を醸し出している。


「紅茶をどうぞ」

「ありがとう」

「…………」

「どうしたんですか? そんなにソワソワして」

「……ッ!」


 アルナが何気なく聞いてみると、ビクッと身体を風呂わせたかと思うと目尻に涙を浮かべ始めた。ポロポロと涙を溢しているアリスに慌てて駆け寄り、【収納魔法(ストレージ)】からタオルを取り出して渡す。

 小さな声でありがとうございますと言うとそのタオルで涙を拭く。十数秒が経ったと思うとアリスが話しかけてきた。


「……すいません、いきなり取り乱してしまって…………」

「構いませんよ、あまり溜め込まない方がよろしいかと」

「……ふふっ、口説いてるんですか? それ」

「……軽口が言えるならもう大丈夫でしょう?」


 アルナは女性の扱いには長けていないので、基準はよく分からないが相手に飲み込まれないように早めに話題を切り上げる。少しの間、静寂が部屋を包むがアリスがその静寂を破る。


「王都からの依頼をお受けになられたと思うんですが……」

「ええ、アウストラリスの地下迷宮(ダンジョン)の攻略だったかと」

「はい、私が王都のギルドにお願いをしました」

「その内容をお聞きしたいのですが……」

「はい、少し長くなりますが――――」


 アリスは依頼の背景を話し始めた。

 地下迷宮(ダンジョン)は冒険者にとっては金の宝庫らしく、一獲千金を狙う者が攻略をしていた。しかし1年ほど前から活動が活発になり始めた地下迷宮(ダンジョン)。最初はランクの低いモンスターが中心に大量発生していたのだが、最近はランクの高いモンスターが出始め、冒険者が軽い負傷から重傷まで怪我人が出るようになってしまった。それに加え、置き去りにされる冒険者まで出たという最悪の事態に。そこでギルドとしては冒険者の不足に陥っているようだ。

 私事なってしまうがギルドマスターの夫も攻略に出たまま行方不明になっているらしい。

 早々に解決したい問題が山積みなった為高ランク冒険者を集め、攻略をしてほしいとの事。


「――という訳なのです。依頼をお受け頂けないでしょうか?」

「受けますよ、俺はその為に来たんで」

「ありがとうございます」

「あの一つお願いがあるんですけど……いいですか?」

「出来る限り叶えます、なんでしょう?」

「俺の仲間を全員攻略に参加させたいのです」



 アルナは真剣な眼差しでギルドマスターに言った。

次回の投稿は2日後になります。

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