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第61話

「取り敢えず、えっと…………これだ。これを読んでください。」

 アルナは【収納魔法(ストレージ)】から2通の手紙を取り出し、1つを国王に、1つを父親に渡す。


「なッ!? これは……」

「女王陛下からだと……」


 手渡された手紙の差出人を見て、貰った2人と、それを見たノワールの妻2人とエリカは驚きに身を固める。

 差出人はエルフの国、フォレスタ女王とその夫からだった。クレトリア王国の王都からフォレスタまでの距離は馬車でも3週間以上も掛かる。


「お前はどうやってフォレスタまで向かったんだ?」

「そうだね、それは気になる。」

「出発の前日、陛下にエルフの知り合いが出来たって言ったの覚えてますか?」


 アルナの言葉にノワールは過去の記憶を探るように困惑したような表情を浮かべている。だがすぐにハッとした表情に切り替わると、アルナに向かって言う。


「…………ああ、言っていたね。そのエルフがどうしたんだい?」

「その人はAランク冒険者“疾風のセリカ”、いやフォレスタの第二王女だったんです。」

「ええっ!?それは初耳だな……アスノは知っていたかい?」


 驚きの声を上げるのはノワールだけだったが、ここにいる全員が驚きに包まれている。


「いやいや、知っていたらとっくにお前に伝えているさ」

「確かにそれもそうだね、それで?」

「と、取り敢えず……手紙に全部書いてあると思いますよ」


 そんな様子を見かねたアルナは苦笑しながら2人に渡した手紙を見るように勧めた。

 分かったと言わんばかりに2人は手紙を封筒から取り出し、ノワールは2人の妻と、アスノはエリカと一緒に見始める。


 読み進めていくにつれて2人と3人は目を見開いたり、うーんと唸り声を上げたりしている。ノワールに関しては手紙が破けるのではないかと言うほどに手に力を入れる場面も見受けられ、その時は2人の妻に宥められていた。


「ふむ…………なるほどね」

「また、とんでもないことを……」

「アスノ~、そっちはなんて書いてあったんだい?」

「ああ、こっちは第二王女のセリカ様との婚姻を考えてほしいと」

「うわあ……僕の方はね、エルフの災厄の3度の回避、次期女王の保護等、活躍の数々が書かれていたよ」


 2人はほぼ同時に顔を上げると情報の共有をし出す。アルナは大体女王夫妻が書くような内容は分かっていたのだが、改めて言われると恥ずかしく、顔を俯かせる。


「だが、アルナには今まで、貴族社会に出てこなかったせいか婚約の“こ”の字が出てこなかったから私はいい機会だと思うが?」

「僕所属の部隊長だけど、そこは流石に自由にしたいよ。たったそれだけでアルナくんを縛り付けたくないし」

「だそうだ、アルナ。セリカ様は今どこにいる……というかどうやってここまで来たんだ?」

「僕もそれがとても気になっていたんだ。もちろん話してくれるよね,?」


 アルナは2人の重すぎる重圧にアルナは顔を顰めるが、喋らないと解放してくれなさそうなので仕方ないと割り切って口を開く。


「俺の創造魔法【空間転移(テレポート)】です。Sランクアイテムの『転移水晶』と同じ効果と言えば分かりますか?」

「…………聞いた僕がバカだったよ……はあ、頭痛いわ~」


 あまりの扱いの酷さに精神的ダメージを食らったアルナはその場で【空間転移(テレポート)】を使い、逃げるようにアウストラリスに戻る。いきなり居なくなったアルナ、魔法の効力を間近に見た2人は再び驚愕に包まれる。


 数秒後、濃密な魔力が部屋の中に広がり、アスノとエリカはすかさず腰に剣を差し、いつでも抜刀できるようにしておく。だが、そんな心配も束の間、元々アルナがいた位置に魔力の溜まり場が出来た途端にアルナがもう1人を連れて転移してきた。


「帰りました……って、どうしたんですか?」


 警戒の色を濃くした2人を見てアルナはセリカを庇う様に前に出る。

 戻ってきたのがアルナだと分かるとこの部屋の全員が警戒を解き、アスノとエリカに関しては武装を解除し、ソファーに座り込む。


「えっと? こちらのエルフの人が?」

「はい、陛下。俺の婚約者のセリカ=ディア=フォレスタです。」


「お初にお目に掛かります、クレトリア王国国王陛下、並びに筆頭公爵アルヴアート家のアスノ様。

 私の名前はセリカ=ディア=フォレスタ、フォレスタの第二王女でございます。」


 王女らしい優雅な礼を伴って、輝かしい笑みを浮かべる。明るい腰まである金髪が揺れると周囲にはほのかな香りが……。その立ち振る舞いに見惚れているアスノとノワールは自分の妻の肘が脇に入ったことで我に返る。しかし、まだまだ現役のアラフォー2人はその程度の攻撃は屁でもないようでぴんぴんしている。


「初めまして、セリカ嬢。僕はノワール=フォン=クレトリア。国王をしている。」

「私は会った事ありましたね、改めてアスノ=アルヴアートです」


「それで、セリカ嬢はアルナくんとの結婚はどう考えているんだい?」

「私としては彼以外の男性には興味がないですし、彼以外考えられません」


 セリカはノワールの質問に対して、間を空けずすぐに答える。そんな事は愚問であると言いたげな不満そうな顔をしているが、アルナは即答してくれた事にとても嬉しそうに頰を緩めている。


「おお……そこまで慕われているのか。……国として、いや僕としては君たち2人の婚姻は認める。」

「私も、フォレスタと友好を決定づける意味でも賛成だ。エリカはどうだ?」

「私は賛成ですが、オーディアはなんて言うでしょう……」


 エリカは2人に唯一の懸念事項を伝える。そう、オーディアは地球でいうブラコンなのである。アルナ大好き人間で、婚約なんかしたら怒り狂うのではないか……そう考えているようだ。


「オーディアは私が説得するから……うん。」

「ありがとう、父さん」


「じゃあ取り敢えず、アルナくんとセリカ嬢の婚約はクレトリア国王の僕が責任を持って公表しよう」

「「ありがとうございますっ!」」


 アルナとセリカはお互いの顔を見合わせ、ニコッと輝いている笑顔を見せた。


 一先ず、話したいことが終わったアルナは帰る準備を始める。その様子を見かねたノワールは、


「もうアウストラリスに戻るのかい?」

「はい、俺の用事は済みましたから」

「勇者の件は任せてほしい、君の友人を無下に扱う事はしない……それだけは約束する」


 決意に満ちた目を向けられる、アルナはその眼を見てこの人なら安心できると思った。


「はい、お願いします。」

「そうだなぁ……5日後にまあこっちに来てくれないか?それまでに結論を出しておくから」

「わざわざありがとうございます」

「気にしないでくれ、君にはダンジョン攻略が残っているじゃないか」


 そうだった……と憂鬱げな表情を浮かべるアルナ。


「じゃ、じゃあ俺は戻ります。陛下に王妃様、父さん、母さん。また今度」

「お義父様、お義母様、それに陛下、王妃様がたも失礼します」


「ああ、良い旅を送ってくれ」

「じゃあね、報告を楽しみにしてるよ〜」


 2人が代表して言う。窓の外を見ると既に王都も夕日が落ち暗闇に包まれている。魔道具による明かりが街を照らし、こちらはこちらで美しい光景が広がっている。


「じゃあ、セリカ……行こっか」

「えぇ、アウストラリスへ」


 ぎゅっとお互いの手を握り、アルナは唱えた。


「【空間転移(テレポート)】」


 2人は一瞬にして転移した。



 ――――――――――



「まったく……彼はとんでもないな……」

「本当だ、まさか女王公認とは思わなかった」


「それに加えてレイザルの条約破棄による勇者召喚……めんどくさいよ〜」

「同感だ、余計な事をしやがって、私の仕事がまた増えたじゃないか」


 呑気な雰囲気が出ているが、話している内容は国家機密である。この国のトップはプライベートだと本当に気が抜けるようだ。


 程なくして、執務室の扉をノックする音がする。

「私よ、開けるわ」

「お久しぶりです、リーナ宰相。」

「堅いのは嫌いって言ったでしょ?」


 うふふっと妖艶な笑みを浮かべるリーナと呼ばれた女性。

 胸元が大きく開き、紫色のドレスを着ている。艶やかな長い黒髪に端正な顔、それに妖艶さが相まって、年齢より若く見える。


「やあ、姉さん」

「やあじゃないよ、やっかいな事をするのね、あの国は」

「同感だよ、ほんと……」


 ノワールは無意識に眉間に皺を寄せる、リーナはイライラを発散させるようにポカポカとノワールを叩く。


「と、取り敢えずお腹減ったわ……アスノくん、お願いしていい?」

「分かりました……食堂に行きましょう」


 アスノが先導して食堂に皆を連れて行く。

 庶民的な食事はリーナ、それに王妃がたにはとても好評だった。アスノはノワールと一緒に冒険者をやっていたから好みは分かっていたが、他の人達に好評だったのは雇っている側としてもとても嬉しかったのか、頰が緩んでいる。



 国のトップ達は話し合う前にお腹を満たすのだった……。

次回の投稿は明後日になります。

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