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第60話

「侯爵、今回の件を陛下に伝えてきます。4人を頼んでいいですか?」

「いいですが、ここから王都まで5日半かかる距離ですよ?」

「そこは古代魔法(スキル)がありますから」


 アルナはウィンクで返すと侯爵の返事も聞かず、すぐに部屋から出て、【空間転移(テレポート)】を使ってアルヴアート邸に飛んだ。

 時差があるせいか王都は夕日に照らされており明るかった。


 門の手前を転移先として設定したので、いきなり現れたフードを被った黒衣の男を見た護衛の騎士2人は問答無しに剣の柄を握り、抜刀する。

 その様子を見たアルナは慌てて、被っていたフードを外し顔を露わにした。艶やかな黒髪が風に揺らされ、その美しい姿に騎士達は見惚れているようで微動だにしない。


「アルナだ、父さんに用がある。今居るかな?」

「……え?アルナ様!?」

「は、はい!アスノ様なら執務室にいるはずです!」

「そうか、ありがとう」


 とっととアウストラリスに戻りたいのですぐに用件を騎士に伝える。返事をもらうとズカズカと敷地の中に入っていく。


 うーん、なんか俺の家なのに悪い事してる気分なのはどうしてだろう……


 そんな事を考えていると屋敷の玄関から2人の貴婦人が出てくる。いや連れはもう1人いるようで、右眼に痛々しい傷が入っている隻眼の男がいる。


 ……なんてこった、めんどくせぇえええ。なんでいるんだよ……


「あれ? アルナくんじゃないか、もう帰りかい?」

「お久しぶりです、陛下。少しお話ししたい事がありまして……宜しいでしょうか?」


 挨拶はめんどくさそうな表情を出さず、輝いた笑顔を見せるのだが、用件に入った途端ピリピリと緊迫した雰囲気がアルナを包んだ。


「……分かった。エミリア、アクア、帰るの遅くなるがいいかな?」

「勿論よ、あなた」

「私も大丈夫ですわ」


 緊迫した雰囲気を敏感に肌で感じ取ったノワールは両脇に控える2人の妻に確認をとり、また屋敷の中に入っていく。アルナはその3人の後を追うように屋敷に入っていった。



 まるで自分の屋敷のようにズカズカと歩いて行くノワール。アスノの執務室に行くのだろうか、歩きながら話しかけてきた。


「……アルナくんや、君はまだ旅を続けるんだろう?」


 いきなりおじさんのような口調で話してくるノワールに、鳥肌を立てるアルナは両手で自分を抱くように交差させる。


「……ちょっと、いくら僕でもそれは傷つくぞ〜」

「い、いや……今のは少し鳥肌を禁じ得ませんでした」

「酷いなぁ〜、それで? まだ全然だろう?」

「はい、勿論ですよ」


 2人の妻はアルナとノワールの会話に入らず2人は2人で会話に花を咲かせているようで、アルナは気兼ねなくノワールと話している。

 そんなこんなで会話をしているうちにアスノの執務室着いた。


「失礼します、アルナです。お話があって来ました。」

「アスノ〜、僕もいるよー」

「……あれっ? 居ないのかな…………」


 アルナは執務室のドアをノックして用件を話す。しかし返事が返ってこない。少し待ってみたのだが、一向に返事が返ってこないので我慢の限界がきたアルナはバタンを盛大な音を立ててドアを開ける。


「うわぁぁぁ!?」

「きゃぁぁあ!!」


 ドタン!バサバサ!と椅子が倒れると2人も揃って床に倒れこむ。その衝撃で机の上に綺麗に整えられていた書類がバラバラに散ってしまう。


「ふふふ、女に興味のないアスノは妻のエリカとは上手くいっているようで嬉しい限りだよ〜」

「まさか、執務室でイチャイチャする親を見るとは思いませんでした。」


 ノワールとアルナは2人のいちゃつきぶりをしかと見せられてしまい、苦笑を浮かべながら2人をいじる。

 2人はアルナがこれまで見たことのないくらい顔を真っ赤に染め、俯いている。


「まったく、ちゃんとノックくらいしてくれよ」

「本当よ、酷いわ……あなたとの時間を割かれた気分よ……」


 40を過ぎたというのに年甲斐もなくイチャイチャする親はまさかのノックのせいにする。


「っていうか、なんでノワール、戻って来てんの?」

「騎士団の育成と王都の警備についてはもう終わったのでは?」

「いやぁ、この屋敷から出たらね……アルナくんに出会って〜、話があるっていうから戻って来たのさ」


 素の口調が出ている2人。ノワールはアルナの方に目を向けると、それに倣うように2人も目を向ける。そこでようやく自分の息子の存在に気づいたようで、再び顔を真っ赤にする。


 先程まで見せつけられていた光景に苦笑を浮かべているのだが、用件を思い出すとアルナは笑顔から一変、険しい表情をし出す。アルナの纏う雰囲気の変化に対応するようにアスノとエリカ、ノワールは真面目な真剣な顔をする。


「良い事と悪い事の2つがあるんですけど、どっちからがいい?」

「い、いや……先ずは座ろう。王妃様達を立ったまま居させるのは心苦しいですから……」


 アスノはアルナの言葉を聞き、長くなるのだろうと予想したのか、執務室にあるソファーに座ってもらうように勧める。王妃たちはありがとう、と一言言うとノワールの両脇に座る。その対面にアルナとアスノ、エリカが座る。


「えっと〜、じゃあ〜悪い方で!」

 開口一番にノワールは言う、悪い方を選んだのにも関わらずに終始笑顔でいる。

 ノワールの軽い態度を見てアルナは肩の荷が下りるのを感じた。恐らく、それが狙いだったのだろうと内心ありがたく思った。

 周りに視線を向けるとそれでいい、と皆が首を縦に振っているのを見て、話し始める。


「レイザル魔法帝国が勇者召喚魔術を使用し、異世界より勇者の召喚に成功。今、その勇者をアウストラリス、エルリンデ侯爵の屋敷で保護をしています。」

「「「なッ!?」」」


 いくら悪い話だとしても、流石に魔獣の大量発生程度だと考えていたノワールは驚きのあまり椅子から滑り落ちる。2人の王妃も事態を重く見ているのか、身を固くしているし、アスノはすぐに立ち上がり、近くにある本棚から一冊の本を取り出す。エリカは部屋の外に待機している王宮の騎士に宰相を連れてくるように伝える。


「……それは本当かい??」

「ええ、勿論。それに……勇者として召喚されたのは俺の異世界の友人だったんです。」

「運命でもあるのかね……それにしてもレイザルが勇者召喚と強行するとは…………」


 ノワールは顎に手を添え、考え込む。


「レイザル・クレトリア友好条約では、他方の許可なく勇者召喚をしてはいけない。と明記してあるが……どうするんだ、ノワール」

「ふむ……アスノならどうする?」

「私なら速やかにレイザルがどうして勇者召喚を使用したのか、聞いてから考えるな」


 2人の話に少し違和感を覚えたアルナは、話の区切りが良い時に割り込んで聞いてみた。


「勇者召喚魔術があるなら、帰還魔術はないんですか?」

「今の所は見つかっていないんだ。だから我がクレトリア王国は勇者召喚を行わないよう人材育成を勧めているんだ」


 アルナはノワールの言う事に物凄く感銘を受けた。


 深読みになってしまうけど、国王陛下は異世界からの勇者にも生活があり、こちらの都合に巻き込むのは国王として看過できないと言いたいのだろう。とアルナは思った。


「一先ず、悪い話は宰相が来てからまたするとしよう。多分彼女はまだ来れないだろうし」

「え?宰相って女性なんですか??」

「ああ、まだ君は会った事なかったね。僕の姉が宰相なんだ」


 アルナはこういう貴族社会では男性優先が基本だと思っていたので、驚いてしまう。

 ノワールは話を戻そうと口を開く。


「それで……いい話ってのは??」

「えっと、2つ程ありますね」

「1つずつでいいよ、心なしかアルナくんの頬が緩んでいるから本当にいい事なんだね。」

「へ? そ、そんな事ないんですけどね?」


 アルナはノワールに言われた頬を両手で押さえるように添える。確かにいい事なので緩んでいたのかもしれない。流石に指摘されると恥ずかしく、頬が熱を持ってしまう。恐らく今アルナの頬は赤くなっているだろう。


  「取り敢えず、えっと…………これだ。これを読んでください。」


 アルナはそう言うと、【収納魔法(ストレージ)】から2通の手紙を取り出したのだった。



60話達成です。

次回は明後日を予定してます。

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