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第58話

「君達は知っているだろう?小野裕哉を……」


 アルナは彼に対する爆弾を投下してしまった。

 何を言っているのか分からないというきょとんと表情をしたかと思うと、だんだん顔を真っ赤にしながら悠馬は激昂する寸前で我に返ったのか拳を握り締めたまま立ち尽くしている。


「ど、どうして……その名前を……」

「…………んん……え?」

「……ん?……ここは?」


 悠馬がアルナに向かって話した途端に眠っていた2人が起きたらしい。慌てて2人に駆け寄る悠馬の姿を見て、全然変わらない奴だなとしみじみ思うアルナ。


「だ、大丈夫か!?沙織に佳奈……」

「え、えぇ……それより!悠馬!って腕が!」

「本当だ!悠馬くん、良かったぁぁあ……ぐすっ」

「……ったく、泣き虫は変わんねぇな、佳奈」

「私だって泣いてるんだけどぉ!?」


 2人に駆け寄った悠馬は2人の頭をポンポンと撫でる。その光景を見たアルナは懐かしさに胸が締め付けられるが、自分の頰を両手で叩き気合を入れ直す。


「どうも、沙織さんに佳奈さん。」

「ど、どうも……」

「……貴方は?」


 自分たちの名をいきなり口にしてきた可憐な少女を不躾にガン見している佳奈とは反対に完全に警戒ムード全開の沙織をみてアルナは苦笑を禁じ得ない。


「俺の名前はアルナ、アルナ=アルヴアートという。」

「俺って、君男なの!?その容姿で!?」

「そうだけど……ダメ?」

「い、いや、ダメじゃないけどさ……」


 容姿と性別の対照さに驚きを隠せない佳奈をみてアルナは懐かしさを覚える。


「……アルナさんね、貴方が悠馬の腕を?」

「そんな他人行儀な……まあ俺が治したよ」


 沙織のどこまでも誰に対しても慎重な姿勢が変わってないところを見て笑ってしまう。


 そんな何気ない会話をしているとドンっとベッドを叩く音が聞こえてきた。叩いた張本人は悠馬、さっきの話の続きをしろと言わんばかりの鋭い視線を浴びせてくる。2人も悠馬の雰囲気が変わったので、慌ただしくもアルナの方を向き、若干ではあるが敵意を剥き出しにしている。悠馬の切羽詰まった顔を見てアルナは両手を挙げ、やれやれと首を横に振る。


「小野裕哉についてだったかな?」

「「ッ!?」」


 まさかこの世界で聞くとは思わない人名を聞き、思い切り動揺してしまう2人は敵意――いや殺気を全開にしてきた。


「……ちょっとちょっと、穏やかじゃないなぁ。」

「何故お前が裕哉の事を知っている!」

「え?だって俺が裕哉だもん」


「「「……?」」」

 こいつ何を言ってるんだ?という馬鹿にしたような表情をしてアルナを見つめてくる。

 少しイラっときたアルナは矢継ぎに話し始める。


「篠崎悠馬、誕生日は4月8日。剣道部所属、最高成績はインターハイベスト4。祖父は篠崎一刀流の師範。父は有名企業の社長。君は暇さえあれば素振りをする程の剣道馬鹿。」

「なッ!?」


 身長は180を超え整った顔に少し長めの黒髪に鍛え上げられた筋肉質な体をもつ。


「大島佳奈、誕生日は8月29日。趣味はランニングとカフェ巡り。得意科目は数学と物理の完全理系。悠馬の幼馴染。3歳離れた双子の兄姉(きょうだい)がいる。」

「え!?どうして!?」


 身長は160とアルナとほぼ同じで、誰もが守りたくなるような優しい笑顔に茶髪が混じった肩まで伸びた長い黒髪、胸はあまり大きくはない。


「渡辺沙織、誕生日は12月24日。生徒会副会長。得意科目は古文と日本史の完全文系。佳奈とぶつかり合うこともしばしば。一人っ子だが年の離れた甥と仲が良い。」

「うそ……」


 身長は170と女子では大きめで気難しそうだが優しい一面もあり、知的な雰囲気を出している、完全に長い黒髪。胸は大きい、マジ大きい。



「これでは足りないかな?」

 アルナは3人の顔を見回してから、首をかしげながら言う。しかしそれでは気が済まないのか悠馬は口を開いた。


「……裕也の誕生日は?」

「7月9日」

「事故の原因は?」

「車との正面衝突事故」

「沙織と佳奈からの呼び名は?」

「ゆーちゃんだったかな?で、悠馬がまーくんだったね」

「裕哉の父親と母親の名は?」

「父さんが蓮哉、母さんが裕華」


 矢継ぎ早に質問をしてくるので、どんどん答える。

 アルナが裕哉本人なのでそんな普通の質問を答えられない筈がない。昔の友人との会話が楽しかったのかアルナは無意識に笑みを浮かべてしまう。


「本当に裕哉なのか?」

「さっきからそう言ってるじゃないか」

「「ゆーくんっ!」」

「それは止めてくれよ……ってちょっと!?」


 佳奈と沙織は悠馬との会話でアルナを裕哉として判断したのか、昔からの呼び名を言いながらアルナの両腕に抱き着く。

 背中から射殺さんばかりの視線が送られ、アルナはビクビクしながら背中越しに視線を向けてきた人を見る。誰でもわかる通り、非公式婚約者のセリカが抱き着いてきた2人を睨んでいた。


「ゆーくん、あの亜人は?」

「……その呼び方はいくら佳奈でも許さないよ、人種差別だ」

「うっ…………ごめんなさい。」


 セリカを見て佳奈は嘘つけない性格なので恐らく他意はないとは思うのだが、エルフなど人族以外を亜人と一塊で呼ぶ事にはそれぞれの文化を無碍にする意味で看過できないものがある。鋭い視線を佳奈に向けると佳奈は素直にセリカに頭を下げながら謝る。2人はアルナの腕から離れるようにアルナから視線で促されたのに気づき、名残惜しくも渋々離れた。


「別に平気ですよ、言われ慣れてますから。」

「それはダメだろ、セリカはセリカ。それに君は伝統あるエルフ族の一員なんだから……ね?」

「うふふっ、そうですね」

「ちょっと、セリカまで抱き着いてこないでよ」


 否定の言葉を口にしながらも顔は嬉しさで笑みを浮かべているので嫌と言う訳ではないようだ。甘い雰囲気を醸し出し始めた2人を見て、佳奈と沙織は2人の関係に気づく。

 2人は付き合ってるの?と聞く前に部屋の扉が音を立てながら開く。その音に敏感に反応したのは悠馬。佳奈と沙織を守るように2人の前に出る。

 しかし入ってきたのは武装した兵士ではなく、美しい女性だった。


「やあ、侯爵。3人は起きたようだ。」

「ええ、その様ですわね。初めまして、お三方。私はクレトリア王国侯爵家、ディアノール=アウリス=エルリンデと言います」


 悠馬はディアノールという女性に対し、自分が疑問に思った事を率直に聞いてみた。

「……侯爵とは貴族の位の事か……ですか?」

「ええ、私は上から2番目の方の侯爵ですわ。非公式の場では敬語は不要です、ですよね?アルヴアート公爵様?」


「「ゆーくんが公爵様っ!?」」「裕哉が公爵っ!?」


 まあ、こういう反応になるよね。侯爵が様付けにするのは仕える王か自身より身分の高い者に限られるし……


「ほらあ、こうなるじゃないですか。」

「うふふっ、失礼しましたわ。アルナ様、お耳をお貸しいただけますか?」

「う、うん。なんだい?」


 侯爵の悪ふざけにアルナは頬を膨らますが、侯爵は妖艶さを感じさせる笑みを浮かべる。それにいつの間にかアルナは公爵に対して砕けた口調になっている。

 そしてアルナは公爵に言われた通りに耳を近づける。


「情報統制は必要ですか?」

「……お願いしてもいいかな、君が悪い人じゃなくて良かったよ」

「勿論、相応の対価を払ってもらいますけど……ふふふっ」


 侯爵の言う通り、この国の中枢に位置するアルヴアート家、そして最強部隊『バハムート』の隊長がレイザルと密接な関係にあるとデマを流されただけでも大変な事である。アルナ自身に反逆の意思があると取られてもおかしくはない。

 対価を求める侯爵の眼は宝石並みに輝いている。言いたいことがだんだん掴めてきた。


「統制が必要なのは君の部下だけじゃないか。」

「払っていただければいくらでも紅茶でもなんでも融通いたしますが??」

「……分かったよ、今回は君の策略に乗ってあげるとしよう」

「聡明な男性は私の好みですわ、ありがとうございます。」


 アルナは侯爵が出した条件を呑み、口約束だとしても公爵の息子と多少なりとも繋がる事が出来て侯爵は笑みを崩す。しかしすぐさま笑みを消し、2人の護衛を呼び出し命令を下す。


「この部屋に出入りしていた者やこの3人について多少でも構わないわ、少しでも知っている者には今回についての事を喋らないように厳命させなさい。全域に出すのではなく、個人単位で出すように。喋った場合は侯爵と領主権限で処刑も辞さないと伝えなさい。」

「「はっ!」」


 1人の護衛は命を伝えるべくすぐに部屋から出たのだがもう1人はアルナの目の前まできて跪く。


「アルナ様、侯爵様をお願い致します」

「了解だよ~」


 この国の最大戦力に護衛の任を任せる護衛。正直に言うとアルナの傍ほど安全な所はないと思う。言いたいことを伝えた護衛はもう1人についていくように部屋を出て行った。

 しかし侯爵は少しきまり悪そうな顔をしている事に気づいたアルナは声を掛ける。


「こんな事で帳消しにしたりしませんよ」

「ほ、ほんとですかっ!?」

「う、うん……」


 思ったより熱の入った返事に少し引きながら返事をする。


「アルナくぅん?少しお話があるのですけれども?」

 ビキビキという効果音が相応しいほどに笑顔を引き攣らせている。


「あ、あとで埋め合わせするから!ねっ?」

「むぅ、しょうがないですね。」

「ありがと」


 機嫌を損ねたセリカを宥めるアルナはセリカの両手を優しく握りながら優しい笑みを浮かべながら言うと、渋々ながらも許してくれた。

 それよりも少しの間、完全に視界から消えていた3人はと言うと……アルナ達の会話を理解しきれなかったのか、コソコソと3人で話していた。


「ねえ、悠馬。少しいいかい?」

「なんだ、裕哉」

「……うんとね、ここではアルナって呼んでくれないかな」

「…………分かった、アルナ」


 呼び名を改善させた後にアルナは一拍置いた後に言う。


「君たちについて俺たち、侯爵も含め……知りたいのだが………」

「もちろんだ、さっきも佳奈と沙織とそれについて話していたんだ」


 そう言うと悠馬はこれまでも出来事を話していった。

次回の更新は2日後になります。

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