第56話
遅くなりました
「はっ、はっ、はっ、……ふざけやがってッ!」
「大丈夫?……っていうか、あいつらしつこいっ!」
「はあ、なんでこんな事に……」
深い森の中を颯爽と走る人影が3つ、いやその後を追いかけるように走る影が5つ。
「逃げんじゃねえっ!」
「ちっ、逃げ足だけ早い奴めっ!」
怒声を上げる騎士の格好をした2人、騎士には似合わない嫌悪感を抱かせる剣を持っている。他の3人も同様である。直剣ではなく曲刀と言われるもので持っている5本とも湾曲した刀身に赤い血液のような線が入っている。
「お前ら、殺さない程度にやれ。陛下からも許可が下りている。」
リーダー格と思われる騎士が仲間の4人に告げるとその4人は口角を歪め、醜悪な笑みを浮かべる。
「イヒヒッ!了解だぜえええ!」
「半殺しだなあぁっ!」
「これの【固有魔法】、使ってみたかったんだよぉ、イヒヒヒヒっ!」
「せいぜい殺されない事を祈るんだな。こいつらはいつもやり過ぎるから。」
4人それぞれが言いたいことを吐き捨てるように言うと、ふざけた表情から殺意が滲み出る。背後からでも分かる、濃密な殺気に背筋を凍らせる2人。
仕方なく走るのを止め、5人に向けて振り向く。その眼は決意に満ち溢れていた。
「やるしかねえか」
「そうだね、もうめんどくさい……」
「ほんとだよ~」
「しょうがないな、行くぞッ!」
1人の男は右手に光り輝く剣を、1人の女は両手に篭手を、もう1人の女は東洋に伝わるという刀を構える。
2対5の闘いの火蓋が切って落とされた。
――――――――――
海の都、アウストラリスに向かう道中にて。
「ちょっとぉ~、アルナくーん。まだ歩くのぉ~」
アルナの創造魔法【空間転移】により、再びクレトリア王国に戻ってきたアルナとセリカ。セリカの転移水晶で移動する前にいた森に着いたのだ。そして森から出てアウストラリスへの道を歩いている最中なのである
歩く歩幅がだんだん短くなり、終いにはだらけた声を上げるセリカをアルナは冷ややかな目で見る。
「何言ってんの、まだ30分も歩いてないんだけど」
「ええー、バハムートにお願いしようよ~」
「ダメです、旅は楽しちゃいけません。それともフォレスタに帰る??」
セリカはだらんと猫背のように背筋を曲げていたのをすっと直しキビキビ歩き始めた。
「それはダメですっ!」
「お、おう……」
これからについて2人は話し合ったり、途中で休憩を挟んだりして、夕刻にようやくアウストラリスの城門が見えてくる。
海の都アウストラリス、別名防衛要塞都市。
この世界で一番と言っても過言ではないほどの軍事力を持ちクレトリア王国と大海を挟んだ東側に位置するレイザル魔法帝国に対する防衛網としてクレトリア王国の王都よりも城壁が厚い。
街を囲み、ミスリルのような光に反射し白銀の輝きを放つ城壁は自国からすればとても頼もしいが敵国からすれば仰々しく、そして厄介極まりないモノである。
アウストラリスの関所では夕刻にもかかわらず、多数の冒険者や商人の出入りが絶えない。周辺の森では定期的に王都の騎士団によってモンスターの駆逐が行われており、盗賊以外の脅威は極めて低い。アルナ達と4人の新米冒険者を襲ったオークの群れは例外であるが……。
「ほら、着いたよセリカ。……セリカ??」
「……ん?何ですか??」
関所を通る為には並ばなくてはいけない、それで2人は列に並んでいた。約10分後には城壁が目の前に来るほど近くまで来た。
セリカはボケっとしていたのか目の焦点が合っておらず、アルナは慌てて声を掛ける。ボケっとしていたのは本当のようで反応がゆっくりだった。
「次の者、早く来い。」
関所で人の出入りを管理する兵士がやや高圧的に声を掛けてきた。アルナとセリカは冒険者ギルドで発行してもらうギルドカードを【収納魔法】から取り出して、その兵士に見せる。
「ええ!貴方はAランクの“疾風のセリカ”様ではないですか。ようこそ、アウストラリスへ」
「ありがとうございます」
兵士は感激したような高揚とした声で話すが、セリカは淡々とあしらう。
あれえ?結構有名人だったんだね……セリカ。
「えっと君は……」
Aランク冒険者に付き添うように来た少女のように話しかけてきた兵士に、イラっときたアルナは騒ぎになるのは嫌だが2枚目のカードを取り出して見せた。
「これは?……ええっ!?」
「どうしたんだ、早くしろよ」
門を守護する槍を持った2人の兵士が慌て始めた兵士を咎めるように声を掛けてきたが、同じように驚き固まった。
「おーい、早くしてくんないかな?」
「「「し、失礼しましたっ」」」
「うん、気にしてないから。あの、侯爵に取り次いでもらっていいかな?」
「りょ、了解ですっ!お、おい、誰か侯爵様に連絡しろっ!」
「わ、分かったっ!」
さっきまでの静けさが嘘のように騒がしくなる。
「どうしたんだろうね?」
「確かに……あの人、侯爵様に由縁がある人なのかな?」
「さあ、でも“疾風”と一緒にいるってことは凄い人なんじゃない?」
2人の後ろに並んでいた冒険者たちもボソボソと呟くように話している。
アルナはセリカに付けられた二つ名に興味津々でセリカに尋ねた。
「ねえ、“疾風”ってなに?」
「……黙秘します。」
自分でも嫌なのか、黙秘を主張し口を閉じてしまう。どうやら彼女の黒歴史なようでどうしても情報が欲しいアルナは2人の後ろに並ぶ1人の女性冒険者に話しかけた。腰に二振りの短剣を装備し、頭の高い位置で赤い髪を束ねておりどこか妖艶さを醸し出す美しい女性だった。
「ねえねえ、そこの綺麗なお姉さん。」
「あら、お上手ね。何かしら??」
「“疾風”の二つ名ってどういう意味なの??」
「セリカさんの事ね、えっと……」
お姉さんの話によると、“疾風”とは颯爽と現れたエルフの冒険者が他者を圧倒するスピードと剣技を見せ、歴代に名を残せるほどの速さでランクアップを果たした事からつけられた二つ名だそうだ。
「へえ~、ありがとね。これあげるよ」
「いーのよ、でも貰っとくわね。」
アルナは【収納魔法】からオークキングの肉を包んだモノを渡す。アルナはレベルアップによる筋力増加から重さを感じないが渡された女性は持った瞬間に態勢が崩れるほどの重さがあった。
「きゃっ、こ、これは??」
「オークキングの肉だよ、よかったら食べてね」
「オーガキン――ん~っ!」
周りに聞こえないように伝えたのにも関わらず、驚きに我を忘れたのか大きな声で周りに聞こえそうな音量で言おうとするので慌てて口を抑える。
「内緒だから、ね?」
「分かったわ。わざわざありがとね。私はテレーゼよ、Bランクなの。もし会う事があったら今度は私がお礼をするわ。」
「ほんと?それは嬉しいな。」
「貴方の名前は?」
テレーゼさんがアルナに名前を聞くと同時に侯爵の連絡役を担っていた兵士が戻ってきた。
「アルナ様~!エルリンデ侯爵様の許可が下りましたのでこちらにお越しください。」
「え?」
ここにいる皆がテレーゼと同じくポカンと口を開けたまま呆ける。それは当然である。この国にアルナの名前を知らない者はいない。なんせ国王直属部隊『バハムート』の隊長なのだから。
大きな声で言われたらもう弁明の余地はないとみたのか、被っていたフードを外し、素顔を見せる。
「俺の名前はアルナ=アルヴアート。よろしくね」
「「「「ええええええええっ!?」」」」
ここにいる冒険者や商人が全員驚きの声を上げた。
「ねえ、セリカってば。何怒ってるの?」
「別にっ、怒ってないですけどっ!」
「それのどこが怒ってないって言うのさ」
どうやらさっきの女性と話に夢中になり過ぎて、セリカを置きっぱなしにしていたことに怒っているのは流石のアルナでも分かっている。
2人を侯爵の屋敷まで主導する兵士はセリカとアルナの様子に苦笑を浮かべる事しか出来ない。相手は一国の王女、そしてこの国の公爵の息子、権力が強すぎる。
アウストラリスで御馳走を奢る事と早めに両親に婚約の話をすることでセリカは怒りを収めてくれた。
話が切れたのを見計らって兵士は2人に言う。
「到着いたしました、ここがエルリンデ侯爵様の屋敷にございます。」
2人の目の前にはアルヴアート家の屋敷の面積を優に超える大きさを誇る庭園が、そして屋敷が広がっていた。
次回の投稿は2日後になります。




