第55話
遅くなってすいませんっ!
「いらっしゃい、英雄。君の席はあそこだよ。」
オルターが指差したのは、常に王が座ってるべきである上座であった。
「え?あそこなの??ちょっと……」
「早く早く~、行きますよ。」
抵抗も出来ずにずかずかとエルフの座っている所を抜けてセリカに連れていかれる。連れていかれる際にもエルフ達から「英雄」コールが止まない。
流石に勘弁してほしいよ。
上座の席に強制的に座らされると、隣にセリカが座る。上座に座っているのはアルナと、エルフの王族のみ。
「さあ、今日の主役がやってきたわ。私の方から紹介しましょう。」
こほん、とわざとらしい咳払いをしてから続ける。
「彼はアルナ=アルヴアート、エルフの英雄であるアスノの息子よ。彼は私達に治療を施し、復元不可能に近い欠陥を治したり、災厄から私達を救ってくれた。要するに私たちの新しい英雄よ。じゃあ新しい英雄に音頭を取ってもらうわ。アルナくん、よろしく。」
「ご紹介に預かったアルナ=アルヴアートだ。英雄と呼ばれるほど何かをしたわけではないのだが……」
「何言ってんだ~!」
「謙遜しすぎだ~!」
当たり障りのない事を言ったのだがそれに被せるように皆が騒ぎ出した。
しょうがないので特に反応せずに、進める。
「ま、まあ……じゃあ、エルフの無事と新しい英雄に乾杯っ」
「「「乾杯っ!」」」
自分で英雄と言うのはあまりに恥ずかしかったが座った時にセリカにこそっと耳打ちされたので本当に仕方なく言ったのだ。
乾杯と同時に城の使用人たちが料理を運んでくる。
目の前に置かれた料理を見てみるとどこかで見たことがある食材が……。
「もしかして、これって俺の倒したモンスター??」
「そうですよ、オークキングもいますし、オークジェネラルも使われていると思います。」
「ジェネラルも食えるんだ……」
そのまま宴のようなものは夜遅くまで続いた。
成人していないエルフがいる家族は既にもう帰った、それにもう遅いという理由で帰った者もいた。
というか今ここにいるのはアルナとセリカのみ。
「飲み過ぎた……うっぷ……」
「だ、大丈夫れふかあ??あるなくぅん、だーいしゅきい」
「セリカが一番やばいじゃん……ほら、城に戻ろ?」
アルナは初めて酒を飲んだのだが、あまりのおいしさに勧められる限りどんどん飲んでいった。でも初めてなのですぐに飲むのはやめた。しかしセリカに関しては酒に弱いようで飲んですぐに寝てしまった、その後起きたが、また飲みまくって泥酔状態にある。
宴の会場も気が付いたら片づいており、アルナはもう帰ろうとセリカに肩を貸して城への道を歩き始める。
「アルナくぅん、えへへぇ~」
アルナが夢にでも出ているのだろうか、寝言を言い始めるセリカ。歩いている途中で完全に寝てしまったので仕方なくアルナはセリカの膝の裏に手を回し、抱きあげる。いわゆるお姫様抱っこである。
「……ふわああ……うーん、頭痛い……」
「調子乗って飲み過ぎたからでしょ?」
「え?……きゃあああああああああっ!」
城が見えてきたところでセリカが起きる、誰もいない部屋で寝ていると勘違いしていたのか、いきなり話しかけられて驚いている。
「うわっ!?な、なんだよ~」
「ひゃああああああっ!やめてええええ、おろしてえええええっ!」
アルナが悪い事しているように見えるほど大声で叫んでいる。恥ずかしさなのか、真っ赤になった顔を両手で隠しているが、真っ赤になった耳は隠せていない。
「しょうがないな、よいしょっと。」
これ以上叫ばれて近隣の人達に迷惑が掛かってしまうので、仕方なく降ろす。
「うわっ!……いたた…………」
だが、まだ酔いが醒めていないのか足元が疎かになっていて、ふらついてアルナに激突してしまう。セリカは頭からアルナに突っ込んでしまい、アルナは背中を地面にぶつけ、仰向けに倒れる。その上にセリカが倒れ、傍から見れば、あたかもセリカがアルナを襲っているように見えてしまう
「いてて、セリカ?ちょっと大丈夫?」
「うわああああっ!ごめんなさい、ごめんなさいいいっ!」
慌てて飛びのくようにアルナから離れる。その様子を見ている者が4人ほどいたようで、アルナは視線を感じる方に目を、顔を向ける。
「……ちょっと、何見てんのさ~。助けにきてくれればいいのに……」
「いやいや、こんな状況で助けになんていけないでしょ、それにアルナくんも嬉しかったでしょ??」
「まあ、そうですけど……」
護衛も付いておらず、夜中に4人で歩いてきたのはオルターにエレン、アメリアにイツキだった。そして話しかけてきたオルターはアルナの反応を面白がるように悪い笑みを浮かべている。
「あわわわっ、姉さんがあんな大胆になってるなんて……」
「ついにどこでも構わずにいちゃつくようになったんだな……」
「お義父さんとしては複雑な気分だよ、アルナくん」
それぞれの思いを言葉にして言ってくる。イツキは初めて見る姉さんのいちゃつきように顔を真っ赤にしているし、アメリアはいつも通り胸やけをしたような顔をしているし、エレンは少し引いたような笑顔で話しかけてくる。
「それより早く帰って寝たいんだけど……」
「私も眠いです……」
アルナとセリカは欠伸をしながら目を擦っており、双子のように同じ動作をしている。寝ろと命令されれば一瞬で寝付けるくらい眠い。
「じゃあ戻りますか。」
「そうね、私も眠たくなっちゃった……」
エレンとオルターはそれだけ言うと城の方へ歩き始める。それを見て、アメリアとイツキも倣うようにあくびをしながら帰ろうとする。
「「はあああ!?」」
そんな光景だけを見てアルナとセリカは心の奥底から叫ぶ。
「どうしたのよ??」
「どうしたのって俺らをいじるだけの為にここまで来たの?」
「そうよ?ねぇーみんな」
「「「うん」」」
エルフの国の女王がこれでは未来は危ういのでは?と心の中で思うアルナは呆れたように首を横に振っている。セリカは大きな溜息をついていた。
「じゃあ、いこっか」
「ええ、そうしましょー」
アルナとセリカは4人のペースに巻き込まれながらも手を繋いで城へ帰って行き、そのまま同じベットで寝てしまった。
もう動く気力さえなかったらしい……。
翌朝、アルナはいつも通りの時間ーー大体6時頃に目が覚めた。寝たのが1時過ぎだったが日頃の習慣とは怖いものだ。
隣ではセリカが緩やかな寝息を立てている。
まったく美しい顔だよな〜……
アルナはセリカの方を向いて寝顔を見ている、こうしてゆっくり見てみるとセリカはきめ細かい肌にとても美しい艶のある金髪を持っていて美しい顔により映えている。
たまらずにつんつんとセリカの頰を人差し指でつついてみる。
「……むにゅ」
「……」
つついた瞬間にセリカの口から潰れたような声が聞こえてくる、アルナは起こしてしまったかと体を震わすがただの寝言のようだ。
そのまま横になっていたらアルナも再び寝てしまったようだ。心地よく寝ていたのだが頰付近に指で突かれるような感覚を覚え、渋々眼を開ける。
「うふふ、おはようございます。お返しですからね?」
「……おはよ、セリカ。お返しって……起きてたの?」
「起きてましたよ……それよりほんとアルナくんって眼を瞑っていたら女の子みたいですよね」
きましたこの展開……前もあった気がするんだけど。
「うっさいなぁ、俺は男だからね?」
「知ってますよ〜」
「うっわ、絶対思ってないだろー!」
「思ってますとも〜」
この子、しれっと俺のこと流してるし……お仕置きが必要だな。
「そういう反応するセリカにはこうだ!」
「え?……ひゃっ!あは、あははっ!ちょっ、ちょっとやめて……あはははっ!」
セリカの脇腹をくすぐりまくるアルナ。緩急をつけて慣れないように力も加減しながらくすぐる。笑い泣きまでするくらいくすぐりまくった。
「はぁ、はぁ、はぁ……アルナくんのバカ!」
「えぇ!?なんでさ!」
「私のお腹に触るなんて!えっち!」
「いいじゃん!セリカは俺のーー」
そこまで言いかけるとドアをノックする音が聞こえる。どうやら使用人の人が起こしに来たようだ、一応ノックするのはやはり礼儀としてだろう。
「失礼します……あら、お楽しみでしたか?私は退散しますねぇ〜」
「あ!ちがっ、違うんだけどー!」
「な、何言ってるの!ねぇってば!」
口元に手を置きニヤニヤした笑顔を浮かべていた使用人さんはそそくさと退散していってしまった。アルナたちの静止の声も聞かずに……。
「起きますかぁ、ふわぁぁあ……」
「眠そうだね、セリカは……頭痛は大丈夫?」
「アルナくんの寝顔見てたら吹っ飛びました……えへへ」
嬉しいけど複雑だなぁ、それ……
「よっこいしょっと……朝ごはん食べに行きましょ?」
「なんか今の、ご老人みたいだったよ」
「なっ!私はまだぴちぴちの若い女の子ですから!」
「……い、いや……冗談だったんだけどね?」
アルナはセリカが自分の方からぴちぴちとか言ってくるとは思わず、少し引いてしまう。セリカは自分の言ったことに気がついたのか顔をほんのり赤く染めて俯く。
これは中々機嫌が直らないと思ったのだろうか、アルナはセリカの手をひいて城の食堂に向けて歩き出す。
「ちょっ、早いですって!」
「今日のお昼前にはエルフの国を出るからね」
「……あ!そうでしたね、すっかり忘れてました……」
「しっかりしてよね、もう」
アルナは少し怒ったような表情をしてぷうっと頰を膨らませる。そんな仕草がツボに入ったのかセリカはお腹を抱えて笑いだす。
「ふっ、ふふっ……あははっ!アルナくん女の子みたいで可愛いよ!あははっ!」
「え!?ねぇ!笑いすぎだから!」
「だってぇ、あはははっ!」
寝起きとは思えないテンションのセリカの笑い声を聞いて、何事だと使用人やらが集まってくる。
「なんでもないからぁ!何も起こってないからぁ!」
アルナは使用人たちに大声で散るように叫ぶが、使用人たちは甥っ子を見るような微笑ましい笑みを浮かべていた。
それが癇に障ったのかアルナはちょっとだけ怒る。
「こらぁ!何笑ってんのー!」
「アルナ様が微笑ましく……ふふ……」
「女の子だ絶対……ふっ、ふふっ」
「女の子なんでしょ!本当は!」
エルフの人はどうやら他人をいじる事に快感を覚えるようだ。
……むかつくぅぅうう!
「もう、知らないっ!」
「「ツンデレっ!?」」
「デレてねぇだろうがぁぁあ!」
もうやだよ、この国の人……
「ふぅ……食った食ったぁ」
「なんかおじさんみたいですよ、アルナくん」
「えぇ……朝からあんないじられて疲れたんだもん」
「それは、アルナくんが可愛いからですよ〜」
さっきからこの会話の繰り返しである。あの後も散々いじられ……いやいじり倒されてアルナがいじけ始めて、流石にやり過ぎたかと、みんなが謝ったのだ。
それで一件落着かと思えばオルターまでやって来た、もうそこからループだった。
アルナの精神は崩壊寸前である。
30分も口撃をくらい続け、やっと解放されて朝ごはんを食べて今に至る訳だ。
他の3人もいるので、丁度いい。
「じゃあ俺はまた旅に出るとするよ」
「私もアルナくんについて行きますから」
「「「どうぞ!」」」
「「え?」」
「どうしたの?セリカはアルナくんについてくんでしょ?」
「え、えぇ。そうですけど……」
オルターはこいつら何言ってんの、という眼を向けて苦笑している。
「い、いや。娘を連れて行くなら俺に勝ってからだ!とかなると思ってたんで……」
「いやいや、そこまで親バカではないつもりだよ。もう君達はお互いを理解しているんだろう?ここで引き裂くなら僕は頭のネジが抜けてる人だと思う」
エレンは凄く真面目な顔をしてアルナとセリカを交互に見ながら話す。エレンが言う事に肯定するようにオルターも頷く。
「取り敢えず、アルナくん……セリカを頼んだよ」
「任せてください。」
お互いに握手をして、その後城の中庭に出るとそこには城の使用人全員が集まっていた。その光景を見てセリカは感極まったのかアルナの手を握り、残った手で口元を抑える。
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
大きな声にもかかわらず、誰一人ずらさずに合唱する光景は壮観だった。
「……いって、きます……」
「ああ、アルナくん。この手紙をノワール君に、こっちをアスノ君に、でこれをアルナくんに……渡しておいてくれないかな。」
「分かりました……ん?他にも何か??」
3通の手紙を渡しながらオルターはアルナの耳に口を近づける。
「渡す際にはアルヴアートと王族のみの空間で渡して、他の人に見られないように……ね?」
「なんで……」
どうしてか聞き返そうとしたのだが、既にオルターは離れており、口元に人差し指を添えていて内緒とばかりにウィンクまでしていた。ジト目で見てやったがオルターはその目を避けるようにそっぽを向いてしまった。
「まったく、じゃあ行きますか。セリカ~」
「はい、皆また今度っ!」
アルナとセリカは皆が見ているにも関わらずに手を繋ぎ、そしてアルナは叫んだ。
「【空間転移】!」
2人を淡い光が包んだ瞬間に眩い閃光がこの場を照らした、閃光が収まるとそこに2人はいなかった。
いや新たな旅に出たのであった。
次回の更新は明後日頃になります。




