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第54話

 あれからどれだけ経ったのだろうか。

「……んん…………ふわぁあ」


 寝起きが悪い割には寝不足を感じさせない顔をしている。目を擦り、近くに用意してくれていたのだろう水の入ったコップを手に取り、そのまま口元に当て飲み干す。

 だんだん意識が覚醒していき、周りを見渡す。窓の外を見ると既に夕焼けが落ちる寸前であった。


「……寝過ぎた?」


 不躾だが、創造魔法【探査(パルス)】を使い、周りの状況を確認する。効力は城の中だけに留めておく。


「……ん?セリカかな……」


 自分のいる位置から最も近くにいて、かつ部屋に歩いてくる反応が2つあった。他の反応は食堂付近に多数あるようで、何かをしているようだ。

 魔法の結果を確認していると既にドアの前に反応がある。


 魔力波から大体想像つくけど……もう1人は誰だ?魔力波はセリカに似ているけど……


 そんな事を考えていると、コンコンと部屋のドアをノックする音がする。


「ど、どうぞ」

「ん?失礼します、あれ?起きてたんですか?」

「……し、失礼しましゅ!」


 声の主は2人、セリカと……もう1人は会った事のないエルフの女性だった。緊張しているのか噛んでしまい恥ずかしさのあまりに顔を赤くし、俯いてしまう。


 肩まで伸びる艶のある金髪に目尻の下がった翡翠色の眼、身長はセリカとアルナの間くらいで、セリカによく似ている。


「……えっと、この方は?」

「私の妹です……ちょっと事情があって外に出ていなかったたんです。」

「は、初めましてっ、アルナ様っ!わ、私は、イツキといいます!」


 緊張しているせいか語調も荒いが、丁寧にお辞儀をしてくれた。第一印象は少し慌ただしいエルフだと思ったが礼儀正しくて好感の持てる女性だった。


「初めまして、イツキさん。私はアルナ=アルヴアートです、よろしくお願いします。」

「え、あの……姉さんと同じ口調でお願いします、仲間外れみたいで嫌です。」


 ぷうと頬を膨らませて拗ねる。美しい容姿に少し不相応だがそこのギャップがとても可愛い。


「……分かり、分かったよ、イツキ。よろしくね」

「はいっ!」


 アルナのイツキへの感情を敏感に感じ取ったのか、イツキの隣にいたはずのセリカが真横に立っており、自分の肘でアルナを小突く。


「もしかしてイツキも狙ってるんですか?」

「ふわああっ!?」

「君って異常事態以外の時って抜けてるよね、その反応は肯定と見ていいのかな??」


 温かさも何も籠っていない冷たい眼を向けられ、アルナは背中に冷や汗が流れる。独占欲があるのだろうか。


「ち、違うよ……それよりイツキが外に出れなかったってどういう事??」

「なんか話題を逸らされた気がしますけど……まあいいです。イツキ、話してあげたら??」

「は、はい」


 何か隠し事でもあったのだろうかと頭を回転させて考えていたが、イツキが話をしたそうにうずうずしていたのでどうぞと頷いて、促すと笑顔になって、はいと言って話し出した。


「エルフの習慣で成人するまでは家の外に出てはいけない事になっています。レイザルの民族浄化からそれがより顕著になりまして……。でも私は今日が丁度100歳になり成人を迎えられたので今感謝の意をお伝えしようと……」


 はあっ!?っと思いっきり叫ぶほどの衝撃だった。確かに転生する前に読んだネット小説でエルフは長寿種と書いてあった気がするけどここまで長いとは思ってもみなかった。


「100歳ぃ!?ま、マジかよ……それより感謝って??」

「はい、エルフの皆様を治療、そして災厄から守ってくださりありがとうございました。」


 なんか改まって言われるとむず痒い気もするけどあくまで自分のやりたいようにやっただけなんだよね、そういえば……


 アルナはふともう1人お礼を言われるべき人がいるのを思い出した。

「ああ、お礼なんて大丈夫。俺が好きでやっただけだからさ、じゃあこいつにも挨拶してやってくれ。」

「……へ?…………ひっ!」


 アルナの雰囲気が一変したのを目の前で見て、そして魔力の質までも変化してので驚くが、今まで知らなかった殺気を浴び、怯えている。だが流石王族といったところか、意識を手放すことはなかった。


「む……すまんな、脅かしたみたいだ」


 少しだけ試しに殺気を飛ばしてみたのだが予想とは違う事になり、慌てているディスヘイト。視線の先には怒りで頬が引きつっているセリカがいた。

「ディスヘイトさん、流石に殺気は無いとおもうのだけど。」

「す、すまん。セリカの妹君は中々見どころがあるね……」

「話題を逸らさないで下さいね?」


 魔王がエルフに怒られている光景なんて誰も信じないだろうが、現に今それが行われてる。

 ディスヘイトに身体の主導権を渡したアルナは心の中で、ご愁傷さまと悪い笑みを浮かべているのは誰も知らない。


 だが、セリカの怒りを抑えたのは妹のイツキだった。


「えっと、貴方は?アルナ様じゃないですよね?」

「ああ、よく分かったな。我はディスヘイト、魔王だった者だ。今は人族やエルフ族に危害を加えるつもりはないから……怯えないでくれ」


 頭を下げ、さっきの行為について謝った。いくら100歳で成人したとはいえ世間をまだ知らない者に殺気を浴びせるのは少々危険極まりない行為である。


「ま、魔王?お話の通りお優しい方なのですね、初めまして、イツキと言います。」

「お、おう……よろしく」

「はいっ、よろしくお願いします」


 恐かったですっ!と怒鳴られたり、泣かれたりするものだと思っていたのだが、予想に当てはまらないまさかの普通に対応に驚き、簡単な返答しか出来なかった。


「じゃあ、私は先に行ってますから。姉さんたちは少ししてから来てくださいね。」

「うん、ありがと。」


 何かやる事があるのだろうか、それだけ言うと、1人で先に部屋を出て行ってしまった。


「も、物怖じしない子なんだな……」

「いいえ、父さんから話を聞いていたからだと思いますよ。」

「確かに、エレンに言われれば余程の事がない限り信用できるからな、そろそろアルナに代わるとしよう」


 再びアルナへと体の主導権を返すディスヘイト、前と同じように魔力の質が変化していくのが肌で感じ取れる。

 アルナは体の調子を診るように腕や首を回したりしている。


「よいしょっと、いい子なんだね。それより100歳で成人って……皆は何歳なんだよ……」

 チラッとセリカを見るが、背中越しに般若のような恐ろしい雰囲気を肌で感じ、これ以上踏み込むのは辞めようと思った。


「何か言いましたか?」

「いいえっ!なんでもございませんっ!」


 少しでも痛い視線から避けようと話題の転換を図る。

「そ、それで……俺を起こしに来たんでしょ?」

「そうです、妹の紹介も勿論ですけど……もう行けます?」


 どうやらアルナの意図した通りに事は進んだ。話題を変えた事にも特に問題はないらしい。すぐに行けるかと聞かれて、少しだけ考えるがすぐに返答する。


「ど、どこに行くかは知らないけど遠くなければ大丈夫だよ」

「良かったです、城下なので遠くないですよ」



 城の中は抜け殻のように静まり返っていた。アルナ達2人だけの足音が誰もいない城内に鳴り響く。


「……皆、どこ行ったんだ?」

「さぁ?」


 城下に出た後、王都内をセリカと2人で歩いているが、一向に人に出会わない。いや人の気配がない。

 何かあったのだろうかと思ってセリカに聞いてみる。


「え?なんで皆もこんなにいないの?」

「それは秘密です。……あ、【探査(パルス)】は使わないでね?」

「わ、分かった……」


 どうして秘密にするのか、理由が読めずに狼狽えるが、セリカに使うなと言われた魔法は使わないようにしておく。使ったら半殺しにされそうだ。

 そんな中、少し歩くとある家のような場所に着く。

 10人と入らなそうな掘っ建て小屋なのだが……


「じゃあここに入ってくださいっ」

「……りょーかい」


 セリカに言われた通りに扉に手を掛け一気に扉を開ける。そこは――


「へ?」

 そこにはエルフの国の民である約10万人全員が集まっていた。

 この景色は中々に壮観で、気の抜けたような声しか出せなかった。


 だいたい、あの小屋とこの広さが合わなすぎる。10万も入るって……もしかして魔法か?


 そんなアルナの思考も長くは続かない。後ろから肩に手を乗せてさあさあとアルナの体を押して進めて行くのはセリカ。


「みんな待ってますから、主賓はアルナくん、君なんですから」

「え?どうして?」


 アルナやセリカのやりとりを見ていたのか他のエルフ達が騒ぎ出す。


「やっときたね、英雄。」

「遅いぞー!英雄!」

「はやくはやくぅ!英雄!」

「英雄!」


 好き放題言われているのに憎めない、自分が英雄呼ばわりされている事に不信感を覚えるがそこにオルターがやってくる。


「いらっしゃい、英雄。君の席はあそこだよ」



 オルターが指差した場所はまさかの舞台の上座であった。

次回は2日後くらいになります。

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