第50話
遅くなりましたっ!
触れあわせたのは一瞬のはずだったのだが、とても長い時間が経った気がした。
唇を離すと、お互いの顔を見れずにアルナはそっぽを向き、セリカは俯いている。2人とも何も話そうとしない為、物静かな雰囲気が漂い始める。
どうにか雰囲気を変えようとアルナは……
「きょ、今日はキスだけにしよう?……その、アレは結婚してからに……しよ?」
「……そそ、そうですねっ!えぇ!勿論ですよ!?」
もう何やら顔を真っ赤にして慌てふためくセリカをみてアルナは自然と苦笑を浮かべてしまう。というかセリカの慌て具合をみて逆に冷静になったと言うべきだろうか。
「……そういえば、召喚獣たちは??」
ようやくいつも通りに思考が動くようになり、辺りを見回して開口一番にセリカは言う。
確かにアルナとセリカがキスをする瞬間までベットから離れて佇んでいた3体は今、この場には居らず不思議に思ったのだろうか。
しかし、セリカは知らない。彼らは神獣に属されるこの世で最高位に位置するモンスターなのである事を、そしてきちんと空気を読める子達である事を。
「ん?……ああ、ニーズヘッグ達なら俺の魔力に戻ったよ、召喚しっぱなしだと魔力を消費するからってさ」
「……え?で、でもじゃあなんでアルナくんが気を失ってる時戻らなかったの?」
「いやぁ、俺もよく分からないんだけど……召喚主の許可がないと戻らないらしいんだ」
アルナは知らないが、召喚魔法はこの異世界で禁忌の魔法に属されているという。大量の魔力を魔法陣に注ぎ込む事によって魔力量に応じた召喚獣が呼び出せる。
数十年前に、禁忌に属されたようで、その時は上級の悪魔を召喚したらしく地上に多大な被害をもたらしたという。
その為か、召喚魔法に関する文献は残っておらず今でもそれに挑戦する人はいないとされる。国に見つかれば大逆罪として死刑にされるからである。
転生前のアルナの知識にも召喚魔法についてはなかった。
「……っつ!」
「ど、どうしました!?」
今まで普通に会話していたのにいきなり頭を押さえて痛みを訴える様な苦痛の声が漏れる。セリカは慌ててアルナに駆け寄り介抱しようとするが……
「い、いや……大丈夫、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけだから」
「ほんとですか??」
「も、勿論だよ〜」
頰を引攣らせ、ぎこちない笑みを浮かべるアルナをみるセリカ。ジト目でアルナを睨みつけながら言う。
「なんか嘘っぽいですけど……ほんとにダメだったら言ってくださいね?あと少し寝たらどうです?」
「ああ、そうだね。ありがとう……少し寝させてもらうよ」
アルナはセリカが提案した様にベットに横になり、再び目を瞑る。朝は魔力の回復による魔力の暴走によって叩き起こされた為、ちゃんと寝られていなかったようである。
欠伸をしてセリカにの方を向いたアルナは何故か笑顔を浮かべている。
なんだろうと怪訝な顔になるセリカにアルナは言う。
「おやすみ、セリカ」
「……!おやすみなさい、アルナくんっ」
セリカは嬉しそうな表情を浮かべ、アルナは目を瞑る。程なくしてアルナからは寝息が聞こえてくる。その音を敏感に反応し、自分も少しだけ疲れたからといってアルナの寝ているベットに入っていく。そしてセリカはアルナの頬に軽くキスをして目を瞑った。
「……カ、……セリカ、まったく…………おーいっ!」
呆れを多々含んだ大きな声で、セリカを起こす声が聞こえてくる。声音からしてアメリアだろうが、正直言うとうるさい。とてもうるさい。
ゆっくり寝かせてくれと言わんばかりにアルナは声の聞こえる方と逆側に寝返りを打つ。
アメリアは気づいていないのだが……
「……んにゅっ、なんでしゅかあ……」
「何寝ぼけてるんだ、お前は……」
身体を大きく揺らされて起こされ、若干不機嫌な様子である。セリカはいつも寝起きがとても悪いので、アメリアは特に苦言の一つも言わないのだが。
「…………はっ!寝ちゃってたぁ~、はぁ~」
布団の中で二度寝しようとしたのだが、薄っすらと開けた目からアメリアの鋭い眼光を受け、さっと布団から抜け出し、眠気のせいにする。
姉さんの拳骨すっごい痛いし……
そんなセリカの思いとは裏腹にアメリアはーー
「はぁ~、もういい。それよりもう昼になる、アルナを起こして食堂に来てくれ」
「分かりました、…………アルナくーん、お昼だよ~、起きてくださーい」
この後、アルナとセリカが新婚夫婦並みのイチャイチャを見せつけてくると予想したそそくさと退散したのだ。
セリカはアルナを揺すって起こそうとするが中々起きない。そう、アルナも寝起きが悪いのだ。今までは忙しさと人命が掛かっていたので危機の意識が起こさせていた、しかし今は特に何も脅威がないので素のアルナが出ているのである。
「アルナくんも寝起き悪いのかぁ~…………いたずらしますよ??」
耳元で誘惑するような甘い蜜のような声を出すセリカ。妖艶な声に背筋を撫でられるような感覚を覚え、さっとベットから這い出るアルナ。何故か超級魔法【全属性矢】を待機させている。
「……なんだ、セリカか…………」
眉間に手を置き、はあ、と溜息をつく姿を見てセリカは露骨に怒った態度を取る。
「なんだとはなんですかっ」
「え?ああ、ごめんごめん……少し嫌な夢を見てさ…………」
その態度に気づいたのか、慌てつつも謝るアルナ。
嫌な夢とは、大人な女性に襲われる夢である、性的に……。セリカには絶対言えるわけがない。
あ、もちろん抵抗して貞操は守ったよ?最初はセリカって決めてるからね。
それはさておき。
「お昼なんで食堂に行きましょう?」
「ああ、そういえば――」
そこでアルナのお腹が鳴る、朝はロクに摂らなかったせいかとてもお腹が減っている。アルナは恥ずかしいのか、顔を赤く染めて俯いてしまう。ふふっと好ましい子を見たような笑みを浮かべるセリカは黙ってアルナの手をひいて部屋を出る。
アルナとセリカの関係が分からない人は傍から見たら姉と弟のように見えるだろう。それくらい身長差がある。
「あれっ?殿下、その子は…………ってアルナ様っ!?」
「そうですよ、アキさん。ね、アルナくんっ?」
城内の廊下をお互いの手を繋いでいてセリカよりも小さいので親族か何かと間違えたのであろう。アルナは複雑な心境である、この体になって一番不便なのは身長だななんて思っている。
アルナはここでいろいろ言っても虚しくなるので素直に頷く、アキさんはすぐに跪いて謝ろうとするが、
「この国では俺は貴族ではから気にしなくていいよ、それに堅苦しいのは苦手なんだ」
そう言って、立たせる。他の国で強権振りかざす貴族なんて滅んでしまえばいいと呟いたのが聞こえたのか、アキさんはびくっと肩を震わした。やろうと思えば出来てしまう所がまたいやらしい。
「そういえば、陛下が殿下とアルナ様を呼んでましたよ。私はもう食事を頂いたので、これで失礼しますね。」
「アキさん、ありがとうございます。じゃあいこっか、アルナくん」
あまりの恥ずかしさにアルナは俯いたままセリカの言葉に肯定するように頷く。アキさんは、本当に男なのでしょうか、なんて呟いていた。
「あら、やっと来たのね。遅かったじゃない。」
食堂に着くと、そこにはオルターとエレン、それにアメリアがいた。執事っぽいシトリーさんもいたけど。
「アルナくんの寝起きが悪くて……」
「なんで俺のせいなんだよー!」
「君が早く起きないからでしょうがぁー!」
「なんだとぉー!」
アルナとセリカは責任の擦り付けを始める、しかしオルターとアメリアはセリカも人の事言えないだろうと思っていた事だろう。その後もしばらく口論は続いたが、アルナの「ごめん、俺が悪かった」の言葉を最後に口論は止まった。
「早く座りなさい、使用人たちが困ってるでしょう?」
オルターの言葉にはっとしたアルナとセリカは食堂を見回す。そこには昼食とみられる料理が乗った皿をお盆に乗せたメイド達が数人、調理場から出るのを躊躇っていた。じっと事態を見ていたようで大変いたたまれない気持ちになりつつもシトリーさんにひいてもらった椅子に浅く座る。セリカは勿論アルナの隣である。
メイド達は何か微笑ましいモノを見たようにさっきとは打って変わって笑顔を浮かべていた。
アルナ達が座った直後にメイド達が一斉に動き出す。テキパキと働き、3分ほどでテーブルの上は料理の乗った皿で埋め尽くされた。
ステーキやキッシュ、タルトなど主食からデザートまで色とりどりである。
「いただきます。」
アルナは両手を合わせて神に祈るように言葉を発する。
他の人達はもう料理に手を付けていた。
それより、異世界でエルフといったらベジタリアンだと思ってたけどこの世界では違うんだな……セリカに関してはステーキをとてもおいしそうに頬張ってるし
アルナはセリカが食べていたステーキに手を付けてみた。
ナイフとフォークを使って器用に一口サイズに切っていく。よく焼かれた肉は香辛料に引き立てられ、匂いだけで食欲をそそる。
口に入れ、咀嚼していくと、肉汁が溢れてくる。歯触りもよく、しつこい臭さもない。それにあんなに腹が出ているのに脂肪が少なくてこれがまたいい。
「この肉は何の肉なんです??」
アルナの傍にいるメイドさんに話しかけると答えが返ってくる。
「この肉はオークキングで――」
「えっ!?あのモンスターのっ!?」
あの厳ついオークの2倍もある巨体の肉がこんなに美味しそうだなんて…………
「はい、それにオークキングの肉は高級品に分類されています。アルナ様にはとても感謝しております。」
恭しく最敬礼をするメイド、その動作に釣られるように他のメイド、それに調理場にいた調理師まで頭を下げてくる。
「い、いえ…………それに、皆さんに解体をお願いしたのは俺ですから。あの厚かましいですが俺にも少し生肉貰ってもいいですか?全て渡すと言って申し訳ないんですけど……」
「いえっ!逆に貰いすぎなくらいです。30体もいるなんて聞いてませんし…………」
その時の作業を思い出しているのか、顔が真っ青になっていく。多分まだいますなんて言った日にはもううつろな目になって顔を引き攣らせるだろう。
その後も他の料理を頂いた。どれもとても美味しかったがアルナは若干物足りなさを感じていた。
やっぱり、米がないと物足りないなあ~と遠くを見るような眼をしているのは誰も気づかなかった。
テーブルもメイド達によって綺麗に片づけられて、食休み用にハーブティに似た飲み物が出てきた。オルターの指示によりメイド達は部屋の外で待機するように指示を出した。アルナにとってはありがたい事だった、それほど重要な事だった。
アルナは飲み物で喉をうるわしてからオルターやエレン、アメリア、セリカの4人を見回す、その目は真剣そのものだった。4人は見られただけで悪寒が体中には走るのを感じた。
「他言は無用だ。絶対に口外しないで欲しい。」
そんな厳しい声で発せられた言葉に無意識にも4人は身体を震わせるが、アルナは気づかないふりをして話を続ける。
「俺の体内には“魔王”が眠っているらしいんだ。」
50話達成です、今の所はまだまだ続く予定です。
これからもよろしくお願いしますっ!




