第49話
遅くなりましたっ!
アルナが暴走した翌日、再びアルナの部屋に集まっていた。
日が昇る前に皆が強制的に起こされるほどの爆発的な魔力がアルナの部屋に集まっていたからである。しかし、昨日と同じ事が再び起こるのではないかと危惧する者もいたのだが……
ベットに寝かされているアルナが一瞬だけぴくっと身体を震わせた。
「……う、うう~ん、…………っつ!」
「アルナくん…………」
昨日のように大きな声で叫ばずにそっとアルナの手を握るだけに留まった。
アルナの手は昨日の冷たい視線とは打って変わり、自分の身体さえも温かく包み込んで安心させてくれるそんな温もりがあった。
アルナを見つめるセリカは同族、それに同性までもが目を奪われるほどの美しさが醸し出されていた。オルターに関しては、「恋する乙女は美しいわね。」と呟いていた。
「……っ!」
そんな和んだ雰囲気から一転、セリカの鋭い息を飲む声を聞き一瞬遅れて皆が臨戦態勢を取る。オルターは部屋の出口ギリギリまで下げられる。戦士の隙間から目を覗かせるとアルナの瞼がゆっくりと開かれたのだった。
「……っつ!…………うっ……」
アルナは重い瞼を押し上げ、頭痛に苛まれながらも目を覚ました。
あれっ?俺は森の中で…………ああ、あいつのせいか……余計なことを。
ゆったりとした頭の中でそんな事を思う。ベットから上半身だけを起こし、周りを見渡すと知り合いの顔があちらこちらに……部屋の奥にはニーズヘッグやフェニス、キルライトが大人しく佇んでいる。
何故こんな皆が集まっているのだろう?
どうしてか、より深い思考に入ろうとアルナが腕を組もうとした所――
「ああ……あ、アルナくん?アルナくんっ!」
「ん?セリカ……うわっぷ、どうしたの?」
目いっぱいに涙を溜め、突撃するように、そして“もう放さない”と言う意味を込めてセリカは力いっぱいアルナを抱き締める。アルナの胸に頬を思いっきりぶつけ大声で泣き叫ぶ。何度も存在を確かめるようにアルナくんとずっと呼び続ける。
「……うん、アルナだよ。君のアルナだ。」
泣き叫ぶセリカをゆっくり宥め、安心させるために頭を優しく撫でる。アルナの体温を直に感じ、より涙が溢れてしまうセリカ。この現状にアルナは「あははっ」と苦笑いを浮かべてしまう。
「アルナくん、体調はどう??」
「あ、オルター。俺は大丈夫だけど……またなんかやっちゃった感じ?」
「ええ、そうよ。あなたが来てから騒ぎっぱなしよ、まったく~」
「ご、ごめんなさい……」
「……いや、怒ってるわけじゃないのよ?君が来なかったらきっとつまらない人生を送っていただろうし。」
オルターはセリカとアルナの様子を目にし、苦笑しながら言う。未だにアルナに抱き着き一向に離れようとしないセリカ、離れないセリカを優しく撫で続け慈愛の表情でいるアルナ。アメリアはこの光景に胸やけをし、苦虫を潰した顔をしている。このメロメロムードに嫌気がさしているようだ。
「セリカ、ちょっといいかい??」
「……ん?なんですか?」
アルナから話しかけられすっかり幼児退行してしまい目を赤くし、目を擦っているセリカは妖艶さを醸し出す。そのセリカをお互いの唇がくっつきそうな程間近にして心臓の拍動が高まるのを感じるアルナ。恐らく顔は真っ赤に染まっているだろう。
「い、いや、その、あの時起こった事……朧気ながら覚えてるんだ。皆も被害者だから……さ…………」
後半言葉が途切れ途切れになってしまうのは皆に攻撃をしてしまった記憶があり、負い目があるからだ。
「……みんな気にしてませんよ?あんな禍々しい人はアルナくんじゃないですし……ね、みんな!」
目尻に浮かんでいた涙をゴシゴシと拭い、アルナのベットの周りに立っているオルターやアメリアを始め、エルフ達を見回すセリカ。
セリカの言葉にうんうんと首を縦に振るエルフ達をみてアルナは……
「……ぐすっ…………ありがと……」
自分への信用を落とす行為をしたにも関わらずエルフ達は許してくれるという。涙もろい裕哉もといアルナはもう気にしてないという笑顔と行動を目にすると目に涙を溜め、泣き始めてしまう。感謝の言葉以後の言葉はもう言葉にならなかった。
「……もう大丈夫ですか??」
「うん、ありがと…………」
あの後セリカのように泣き続けたアルナを今度は優しく撫でていた。役割が全く逆になったようである。アルナは顔を真っ赤に染めて俯いている。人前で大泣きした事に恥ずかしさを感じていたようだが……
「アルナ様、ご容態は?」
「召喚主、大丈夫ですか?」
「召喚主っ!私も撫でてー!」
アルナのベットに小さくなった召喚獣達が部屋の端にいたが話しかけるタイミングを見計らって寄ってくる。ニーズヘッグとフェニスはまじめに、キルライトは甘えてくる。
「ああ、もう大丈夫だ。それよりもニーズヘッグ、よく俺が具合悪くなったのに気がついたんだ?」
「恐らくですが、アルナ様は無意識にも我々召喚獣に魔力を多量に与えているため、主の古代魔法が軽くですが、使えるようになったようです。」
「「「えぇっ!?」」」
うっそ……マジかぁぁ!
いや、まあ……その、魔力がどんどん吸い取られていくから楽しくなっちゃって……それよりも古代魔法が使える召喚獣とか反則過ぎる…………
キルライトの毛並みを撫でながらそんなことを思う。狼だけあって毛並みは硬いのかと思っていたが、すごく柔らかくて撫でてるだけで心が和む。
「……あははっ、くすぐったいよ〜召喚主〜!」
もう全身を撫で始めるアルナ。
キルライト、可愛いなあ……ん?
キルライトとアルナのいちゃつきぶりに、手を握り締めてわなわなと震えているセリカ。
絶対怒ってる……やばいやばい!
「セーリカっ!」
ふんっと顔をそっぽ向けてたセリカを不意打ちでアルナは肩に手を置き、ベットに倒しアルナ自身の膝の上に頭を置く。所謂膝枕だ。
「ちょっ!ちょっと!?みんな見てるんだよ!?」
今まで見たことない程に慌てるセリカは手足をバタバタさせて抵抗するが、アルナの拘束から逃げられないと思ったか、すぐに抵抗を止める。
ドタバタしたせいでセリカの衣服が乱れてしまっている。胸元が大きくはだけ、スカートはセリカの形の整った綺麗な太ももが露わになっている。
うん、色々まずいんじゃないかなあ、これ……
「……全く、君も隅に置けないねえ~」
「やっぱり男なんだな、アルナは……」
オルターとアメリアがアルナをいじる。アルナは顔を再び真っ赤にする、セリカはどうしたのかとアルナの顔を覗くように上目遣いで見る。
アルナは目を逸らし、周りを見るとセリカの胸元と太ももを目に焼き付けんとばかりに見開く男のエルフ達が………
こいつらああああっ!
アルナがそんな事を思っている最中……
「…………セリカ、自分の服を見てみなさい?」
「え?何言って……うひゃあっ!」
慌てて右手で胸元を押さえ、左手でスカートを直そうとしてペタンとアルナのベットの上で座り込んでしまう。これ以上ないくらい顔を真っ赤に染めるセリカは涙目でアルナを睨み付ける。
「ご、ごめんっ!綺麗だったから見惚れちゃった…………」
「~~~~~~っ!」
思った事を素直にアルナは伝え、謝ったのだがセリカはアルナの嘘偽りのない言葉に卒倒してしまった。
この子、可愛すぎでしょおおおおっ!
数分後、卒倒していたセリカが起き、アルナはセリカの頭を優しく撫でる、セリカに関してはずっといつにもない笑顔で撫でられている。
アメリアはもう吐きそうな感じで立っている、さっきよりもメロメロムードが高まっているようだ。
ふと頭によぎったのか、アルナは気になった事を聞く。
「……って、そういえば!西のモンスターはどうなったの!?」
「…………ん?いや、何故か消えてしまったんだ。アルナは何か知らないのか?……あ、愚問だった、失礼した。」
「いや、全然構わないよ。それより……あ!」
憂鬱そうに、しかし事が事だけに真面目に答えるアメリア。
応答を聞いてアルナはある事に気がついた。ダンジョンから出てきたと言われているモンスターの中にはオーガ、オークはいなかったはずで、アルナの殲滅したモンスターには数千体といた。辻様が合う。
「多分、俺が夢中になって殲滅してた時、無意識に西に移動してたのかも……今、俺の探査には反応ないし……大丈夫だと思うよ。」
「そうか、それは良かった。いやあ地雷を埋めて、確認しつつ戻っている所に黒龍と不死鳥、魔狼が出てきたときは死ぬかと思った。」
アメリアは目線をアルナの召喚獣にチラッと向けながら言う。
アルナの召喚獣たちは決まり悪げに目を逸らす、特に悪い事してはいないのに理不尽である。
「あの時はお手数を掛けました……」
「いやいや、私達の方こそいきなり攻撃して悪かった。」
「いえ、あのような威圧的な格好ですのでしょうがないと思ってますから。」
召喚獣なのに丁寧な言葉遣いで呆気にとられるアメリア、その他エルフ達。
「(召喚主とは違っていい子だなあ)なんて思ってるでしょ、義姉さん??」
「ひゃああああっ!?…………い、いきなり、話しかけないでくれよ……まったく」
「その驚き様だと図星だったみたいだね。酷い義姉さんだな……」
目線をアルナから外して話してた為、いきなり後ろから思っていたことをそのまま言われたので大袈裟に驚いてしまう。
「と、とにかく。もう少し休んでいたらどうだ?まだ全快と言う訳ではないだろう?」
「え?ま、まあ……じゃあお言葉に甘えるとするよ。」
無理矢理話を変えるアメリア。このまま言及されるとボロが出ると判断したのだろうか。
アメリアが話した通り、アルナの体調は全快には程遠い。今までのように魔法を使えと言われても威力は半減してしまうだろうし。無理に動くと頭痛が激しくなる。
「じゃあ、お昼過ぎたらあの話はするね。」
「ああ、そうしてくれ。いいよね、母さん?」
「ええ、勿論よ。これ以上無理させたらセリカに怒られてしまいそうだもの」
今の今までアルナに膝枕をされていたセリカを見ながらオルターは言う。
その言葉を聞いてか、アルナの膝から名残惜しそうな顔をしながらも起きてベットの縁に腰を掛ける。
「そうですよ、流石にお母さんでも怒りますっ」
憮然とした態度で少し怒気を孕んだ声で応答する。
やれやれといった表情でオルターとアメリアは苦笑いをしてやり過ごす。
「私達は取り敢えず部屋から出る、何かあったらセリカに言えばなんでもしてくれると思うぞ??」
「へ?……あっ!ちょっと、義姉さんっ!?」
意味ありげなニヤニヤ顔をしてからアルナの慌てた声には反応をせずにそそくさと部屋を出て行ってしまった。それに追従するように他の面々も出て行く。
最後にオルターが出て行こうとすると、こちらに振り向いて言う。
「セリカはここにいるだろうから、……セリカ、アルナくんをちゃんと看病してあげてね?」
「勿論です、私以外にはやらせませんからっ!」
オルターの声には胸を張って堂々と答える。
「お楽しみはあまり大きな声は出さないようにやってね??うふふっ」
「へ??お義母さんまでっ!何言っているの!」
アメリアに続いてオルターも意味ありげな妖艶な笑顔を見せてまたもやアルナの返事にも答えずに出て行く。しーんとした静かな雰囲気がとても気まずい。隣にいるセリカを見ると、また茹でだこのように顔を真っ赤にしていた。
「あ、あの……その…………アルナくんがしたいようにして…………??」
恥ずかしさで涙目になっているセリカがとても妖しく見え、理性が弾け飛びそうになるが慌てて押しとどめる。セリフに似合わず、目線をこちらには向けようとしないセリカを見て、アルナはやれやれといった表情でいるのだが…………
アルナはセリカの頬を両手で包み込むようにして優しく顔を向けさせる。お互いの目線が合う。
そして、アルナは自分の唇をセリカの唇に押し付けるようにして触れ合わせたのであった。
次回は2日前後になります。




