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第46話

「さあて、どうやって調理(ころ)してあげようかなっ」


 アルナは物騒な言葉を吐きながら両手で膨大な魔力をこねている。

 たまに初級魔法【雷撃(ライトニング)】の改変(アレンジ)版を無詠唱で放ち、アルナを攻撃しようとしているモンスターの集団を焼き殺している。


「うーん、魔法で殺すのは味気ないなぁ……。」

 返り血を浴びないように器用に避けながら進んでいく。


 オークやオーガ、まだグレディアススパイダーも残っているが人格の変化から恐れなどないようである。


 いつの間にかアルナを中心にモンスター達が円を作るように囲んでいた。

「お?頭いいんじゃなあい??」


 モンスターには言葉は通じないのにアルナはバカにした声音と口角を上げた悪い笑顔で煽る。


「ギャアアアッ!」

「グアアァアアッ!」


 モンスター達はアルナの煽りに怒声を上げる。

 何故か通じたようである。バカと言う概念は種族を問わずに共通らしい。



 猪突猛進――そんな言葉が表す通りに円の中心にいるアルナに向かって走っていく。

「……うーん、やっぱりバカはバカか……」


 アルナが何もしない訳がなかったのだ。

 ドカンっと地面が膨れ上がり爆発したかと思うと地中から魔力の蔦のようなモノが這い上がり、モンスター達に絡みついていく。

 首や肩、腕、腰、脚と身体を動かす上で要とされる部位を固定する。


 魔導士が見たら、複雑な魔法による事象変化だと思うだろう。

 だがそれは違うのだ。

 アルナはただ魔力を操作し、少しずつ地面になじませ、自分のタイミングで土を破壊しただけなのである。

「ギャッア……グアアァッ!」


 あちらこちらでモンスターの喚く声が聞こえるがアルナは……


「……うるせぇな…………」

 それだけ消えそうなほど小さな声で呟くとモンスター達に向かって一歩踏み出す。


 ――スパンッ。

 踏み出した瞬間にアルナの周りの空気が破裂する。音を超え、モンスターに襲い掛かる。

 もがき抗う事も回避をする事もできないモンスター達を一方的に嬲り、屠っていく。


 目玉を抉り出し、首を落とす。身体は千切りに……いやより細かく切り刻む。残虐のオンパレードである。

 アルナは攻撃中に返り血を浴びて今は全身がほんのり温かい鮮血に塗れている為か狂人と化している。


「「「…………」」」


 ニーズヘッグは大剣として使われていた記憶はあるが、この光景を改めて見て……フェニスとキルライトは初めて見るアルナの残虐な攻撃の数々を見て、言葉も発することが出来ない程に恐れ慄いている。


 私が狩られる側でなくて良かった……、と。



 赤く染まった獣のような瞳を神獣達に向ける。

 その瞳には無機質で冷淡、感情の籠っていなかった。そのはずなのに、背筋が凍る。


 ――次の瞬間、アルナの体がブレたと思うと、うつ伏せに地面に倒れ込む。

「「召喚主(サモナー)っ!」」

召喚主(サモナー)様っ!」


 慌ててアルナの傍まで駆け寄る神獣。他の2体は魔力を使いすぎ、体内魔力の有無によるただの魔力欠乏症だと思っていたがニーズヘッグは念には念をとアルナを診る。

 息を呑む声が静かになった森の中に響いた。直ぐにアルナの衣服を口で掴み、自分の背に乗せ、飛び立とうとする。


「ニーズヘッグっ!?」

 突然の行動にフェニスは叫ぶような声で言う。


「は、早くっ!早く診せないとアルナ様がっ!」

 いつも冷静沈着で取り乱したりしないニーズヘッグが額に冷や汗をかき落ち着きがない。

 ようやく事態の重大さを感じたフェニスはエルフの里に急いで飛ぶ。


 アルナを落とさないようキルライトがしっかり抱き、ゆっくり飛び出す。キルライトは振り落とされぬようにニーズヘッグの背に爪を食い込ませる。

 来る前の速度を超える速さで移動する為、森は突風に煽られ数々の木々が倒れるがそんな小さい事を気にしている余裕はない。


 ニーズヘッグがアルナを診たときに感じたのは魔力欠乏症だけではなかった。

 多量の魔力保持者が急に体内魔力を無くす時に起こる魔力渇望症、身体が無理矢理空気中から魔力を体内に取り込む際に身体に馴染まず、吐き気や熱を催す魔風邪の2つを患ったのだ。

 勿論、転生前のアルナはたまに魔風邪を患ったことはあるのだが、転生後のアルナはこれまで無かった魔力を無理に行使していたようで身体に極端な負荷が掛かっていた。

 しかしアルナは自身に【回復魔法(ヒール)】、【状態回復魔法(リカバリー)】を使い、強制的に治療していたのが仇となったのだ。


 魔力が少ない者ほど症状が軽くなる魔力渇望症と魔風邪。しかし魔力を多量に保有する者ほどこの症状を患うのは死に等しいとされている。その2つを同時に患うアルナは相当生命力を削られているはずだ。


「……うっ、ぐぅ…………」

「大丈夫、召喚主(サモナー)…………もう少しで着きますから。」

 苦しそうな声を上げるアルナは多量の汗が前髪を濡らし、額にこびりついている。

 その声に反応し、安心させるように優しい声を耳元で囁くキルライト。


 時間にして約3分。やっとエルフの城、パルテノの傍まで飛翔してきたが……


「放てっ!」

 声を合図に数十発の初級魔法【雷撃(ライトニング)】には似ても似つかない強力な魔法がニーズヘッグとフェニスに攻撃してくる。


「くっ!こんな時にっ!」

 歯軋りをしながらも魔力障壁を多重展開(マルチキャスト)し、【雷撃(ライトニング)】を防いでいく。最後の障壁が破壊された時には焦ったが攻撃はまだ終わっていなかった。


「【疾風の刃(ウィンドカッター)】っ!」

「【氷塊(アイスストライク)】っ!」


 エルフの戦士たちは黒龍には【雷撃(ライトニング)】が効かないと踏んだのか、各々が持つ自身が使える最も最大の魔法を放っていく。

 さっきよりも魔力障壁を強化し、次々と魔法を相殺していくニーズヘッグは耐えきれなくなったのか魔力を込めた咆哮を放つ。


「ガアアアァアアッ!」

 空気がビリビリと震え、エルフ達は恐怖に脚をすくませ気絶する者も……。


 咆哮や黒龍の出現に何事かと他の部隊の戦士が城外へ、戦力がニーズヘッグの方へと集まる。


「……プランBだッ!早く展開しろっ!」

 戦士たちの長か、慌てて部隊を指揮し始める。隊長の怒声に我を取り戻したのかすぐに移動を開始する。


 面倒な事になった……

『フェニス、この者たちを説得してくれないか??』

『分かりました、少し待ってください。キルライトは召喚主(サモナー)をお願いします。』

『おっけー!任せといてっ!』


 神獣同士で[精神感応(テレパシー)]によって会話をし、方針は決まったようだ。

 バサバサっと、上空より舞い降りてくる不死鳥。黒炎を纏う翼はまるで死を連想させる。


「不死鳥だとっ!?……あり得ないっ!」

「なんで今日はこんなついてないのよっ!」


 突然の不死鳥の登場に混乱し始めるエルフ達。しかしこの混乱をより極める出来事が――。

「私達は敵ではありません――」


「モンスターが喋ったぁ!」

「ええっ!?」


「敵じゃないって、どういうことだっ!」

 戦士たちはモンスターの会話に驚き混乱しているが、1人だけは違った。

 戦士隊の隊長、アメリアだった。


「黒龍の背を見なさい。あそこに誰がいるか貴方は知っているでしょう?」


「黒龍の背……?ん、……お、おいっ!何故アルナがいるんだッ!」


「ほ、ほんとだ…………」

「気絶してるのか??」


 アメリアの大声を聞き、皆が黒龍に不死鳥に殺意の念を抱く瞳で睨む。


「私達はアルナ様の召喚獣です、あなた方に攻撃する意思はありません。」

 今まで出した事のない殺気を放っているにも関わらず淡々と話を続ける不死鳥にアメリアは、嘆息する。会話を続けようとしたが、城の中から声が聞こえた。


「――姉さーんっ!」

「ん、あれは……!セリカ様っ!」


 城内から聞こえる小さな反響した声にニーズヘッグはすぐに誰だか分かった。


「はっ、はっ、はあ~。」

 ドタバタと慌てた様子で走ってきたのか息が荒く、整っていない。恐らくアメリアの声に反応しきたようだ。『アルナ』という単語に。


「セリカ様、お久しぶりです。私です。」

「……もしかして、ニーズヘッグ??」

「はい、貴方にお願いしたいことがあるのですが……」


 普通に黒龍と話しているセリカにエルフ達は目を見開き驚き、身動きが出来なくなる。

 申し訳なさそうに、またどうしてもお願いしたいと込められた声に反応するセリカは――。

「うん、どうしたのって、そこにいるのってアルナくんっ!?」

「はい、キルライト、召喚主(サモナー)様を…………」

「おっけー、よいしょっと。」


 そこには魔力を失い病に伏したアルナがいるのだった。





次回は23か24日頃になります。

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