第45話
遅くなりましたっ!
「それでどんな感じで迎撃するんですか?」
「ん?うーんとね、俺が敵の正面から、フェニスとキルライトが側面から、ニーズヘッグが空からって感じで考えてる。なんかいい案ある??」
パルテノの俺の部屋から北に向かう為に城を出るために廊下で話しながら歩くアルナと3体の神獣。
「ん~、正直召喚主だけで事足りると思うけど~?」
「……いやいや、そんなことないよ~……多分。」
キルライトが結構真面目に核心をついてきて表面上は取り繕うが、内心は焦っている。
普段はほんわかしてるけど、時々鋭いっと……。
アルナはキルライトの評価を少しだけあげるのだった。
「あ、アルナさ……うぇっ!?」
城から出て城門を守る衛兵が声を荒げている。
「どーも、この子たちは俺のですから。気にしないでください。」
「は、はぁ……分かりました。」
衛兵のエルフさんは承知しかねているようだったが渋々認める。
「陛下やアメリアに会ったら北へ行くって伝えてもらっていい?」
「了解しました、気をつけて行ってきてください。」
「ありがと、ほらみんな行こ?」
一応念のために伝言を残しておく。
俺は探査を使えるけど他の人は使えないからなぁ。
パルテノから少し離れてからアルナと3体の神獣は歩行速度を上げる。いや、上げるどころか上げ過ぎである。音速で移動している。
5分後……北の森に着く。
「ふぅ〜、着いたぁ!」
呑気な声を上げているアルナ。両腕の伸ばし、リラックスしている。
「ひ、ひぃ……」
「はっ、はぁはぁ……ふぅ」
「こほっ、ううん……」
3体はあまりの速さに無理に付き合わされ息を上げている。
フェニスは鳥なのに疲れてるのは皆の風圧に負けぬよう翼をはためかせていたからであろう。
ニーズヘッグはあまり疲れていないように見える。
「【探査】」
アルナは詠唱をする。
アルナを中心に彼の魔力が円状に周囲の森中に広がって行く。
反応があったのかアルナは形の良い眉を顰める。
「……うぅん……へぇ〜、そういう感じ。」
「これは、なかなかめんどくさそうです。」
「うへぇ〜、私やりたくなぁい」
フェニスとキルライトは俺の魔力から俺の探査の結果を見て二者二様の意見を言う。
キルライトはサボりぐせがあると。
今度は評価が下がるのであった。
「召喚主様、私もフェニスもキルライトも攻勢に参加するってことは武器、どうするのですか?」
ニーズヘッグは誰もが疑問に思っていた事をアルナに聞いた。
「ん?……ミナカゲがあるから大丈夫っしょ。なんなら魔法でも付与しとけば大丈夫だよ。」
「へ?……えぇ?」
あまりにも気の抜けた返答に驚きを通り越して呆れている様子のニーズヘッグ。
「第一に君たち神獣が3体もいるんだよ?負けるとすれば神が相手の時くらいっしょ?」
「「「…………」」」
突拍子も無い質問をされ、黙り込む3体の神獣たち。
無言がより肯定を指しているようだ。
「そろそろ、敵が俺たちの目視できる範囲に来るから……お、先陣は……あれはなんだ?」
「あれはブラッディタイガーですね、あの長い犬歯には猛毒が含まれているようですが……召喚主は心配無用でした。」
フェニスがアルナの独り言に答えてくれたようである。
奥の茂みから約1000体くらいのブラッディタイガーがアルナ達に向かって飛び出して来る。
ブラッディタイガー
冒険者ギルドだとAランク相当になる。
体表が黒く染まり、口からはみ出る大きな長い赤くなっている歯には猛毒が含まれる。
全長約2m
「さっきの作戦なしで。取り敢えず殲滅すればよしっ!」
アルナの合図を受け、一斉に行動を開始する3体の神獣。
「ガァァアァア!!」
獣のように叫びながら真っ先に敵陣に突進するキルライト。
さっきの憂鬱な態度は何処へやら……
元のサイズに戻り、全長約5mの狼になる。
雷属性の魔法を使いながら蹂躙する。そこら中で雷が落ち、焼け野原が出来ている。
「キュルゥゥゥウウウ!」
甲高い鳴き声を上げて上空より迫撃をしているのはフェニス。
元のサイズに戻ると、全長約3mほどの鳳凰に。
黒火属性の魔法を使い、モンスター達を焼き尽くしている。元の原型を残さずに。
「グルゥァァァア!」
空気がビリビリと震えるほどの咆哮をあげるのはニーズヘッグ。
神龍を除けば最強と名高い龍は龍種のみが持つ固有魔法、【龍の咆哮】を吐く。その姿はまさにこの世の終焉を催すようである。
「……強すぎね?」
3体の神獣による一方的な蹂躙を見てアルナは呆けている。
先陣のブラッディタイガー約1000体をいとも簡単に殲滅した神獣たち。
神獣の名は伊達では無い……
3体の瞳は普段から赤いので体毛がモンスター達の鮮血に塗れ、とても仰々しい姿をしている。
うん、怖いね。ひたすらに怖い。
アルナは新たに近づいてきた殺気に気づく。
「次来た……うぇっ!?フェニス……あれは何??」
近づいてきた異形のモノにアルナは鳥肌を立て飛び退き、ニーズヘッグの影に隠れる。
「召喚主?あれはグレディアススパイダーです。口から吐く糸は対象の魔力を吸い取る効果があるそうです……大丈夫ですか?」
アルナの真っ青になった顔に驚く神獣。地球でも裕哉、いやアルナは蜘蛛が大の苦手なのである。小さくても……
それが今目の前に巨大化しているのである。8本の奇妙な黒光りしている脚で器用に走っている。それもたくさん。気持ち悪い光景である。
吐き気がする……うぇっ…………
グレディアススパイダー
冒険者ギルドだとBランクに位置する。
全長約2m程度の蜘蛛の姿をしており、口から吐く糸には魔力低下の魔法がかけられている。
集団で行動する傾向があり、すぐに繁殖する為害虫扱いされている。
口を押さえ始め、真っ青から血が引いたように白い顔をし始めるアルナ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「えぇ!?ちょっと!」
「こ、これは……とても、可愛い……じゅるっ」
おい、1人だけ心配してねぇ黒龍がいるんだけどっ!?涎を垂らすなっ!
「……うっ、だ、大丈夫……はやく、ぶっ殺してアイツら。」
怨念と殺意が入り乱れる瞳をギラギラさせて神獣たちにお願いをする。
「蜘蛛なんて嫌いだ、蜘蛛なんて……うっ……」
1人でブツブツ呟いて、『蜘蛛』の単語を自分で発して気持ち悪くなるアルナ。おバカである。
「いつもクールなアルナ様があんなに嫌がるモンスターがいたなんて……」
「本当です、早く殲滅しましょう。」
「召喚主の元気を返せーっ!」
3体、それぞれがグラディアススパイダーに向かって走り出す。最初に攻撃したのはキルライトの落雷であった。
巨大な蜘蛛が焼け焦げ、周囲には異様な臭いが放たれる。
「くさっ!……うっぷ……これはマズイ。」
鼻をつまんでも僅かな隙間からでも入ってくる悪臭にうんざりしつつも吐きそうになるアルナ。
「くっさぁあい!」
自分で攻撃したにも関わらず前線で嫌がっているキルライト。
「……もう怒ったぞ。殲滅じゃぁぁあ!」
あまりの臭さと嫌悪から口調すら変わってしまうアルナ。無詠唱で最上級魔法【爆破】を次々と発射し、地面をボコボコにしつつもグレディアススパイダーを倒していく。
たまに爆破の影響で蜘蛛の破片が飛んでくると、
「いやぁぁあ!きもちわるぅうう!」
その場から飛び退き、わなわなと脚を震わせて怯える。女子のように甲高い悲鳴も上げている。
結局、【爆破】のみで全てのグラディアススパイダーを倒してしまったアルナ。その数、約1万体。
死体から出る悪臭にはアルナがわざわざ魔法を作るほどに臭い、鼻が曲がる。絶対。
「……くっさ、【浄化】」
アルナの創造魔法、【浄化】は臭いや穢れを清浄にする効果がある。アンデットに使えそうな名前だがただの無属性魔法の為殺傷力は皆無に等しい。
「んん~、すぅーはぁ~……うん、空気がおいしいなあ」
「まったくその通りですね。」
「召喚主さすがっ!」
「……休んでる暇はなさそうですが?」
ニーズヘッグはしっかり索敵をしていたようで、アルナはすぐに頭を切り替える。
「うん、分かってるさ。今度は俺がやるから休憩してていいよ。」
「い、いえ……私達も―――分かりました。」
フェニスは黙り込む。
アルナの鋭い眼光と濃密になりいつでも破裂しそうなほどになる殺気を間近にしたからだ。
「さあて、今回はどうやって調理してあげようかなっ」
セリフとは合わない笑みを浮かべる姿はまさに悪魔である。
そして再びアルナの目が赤く染まっている事を誰も知らない……
次回の更新は20、21日ほどになります。




