第36話
俺たちは森の上空を結構な速さで飛んでいる。
あ……俺は走ってるけどね。
俺の走行に目を見開くアメリア。
「お前は本当に規格外だな、私達は精鋭中の精鋭でかつ最高速なのだぞ??」
「驚きすぎだから、義姉さん。これだって抑えてる方だよ? 皆のペースに合わせてるだけだから……んー、あと5段階はあげられるよ?」
正直に義姉さんに俺は言う。
アメリアが俺をお前と言うようになったので、俺もアメリアを義姉さんと呼ぶようにした。
「もう、もう何も言うまい…………はあぁ……」
こめかみを押さえながら呆れたように言う。
この義姉さんは身内に対して容赦なさすぎでしょ…………
ある程度飛んでいると、遠くの方にぼんやりとだが城のようなシルエットが見えてくる。だんだん近づいていくと全貌が明らかになる。
オルターが器用にも飛びながら胸を張って自信満々に言う。
「あれがフォレスタの王城、パルテノだ。」
クレトリアの城と比べてはやはり雲泥の差なのだが、クレトリアの王城が派手で豪華というならば、フォレスタの王城は地味ではあるが荘厳である。神を崇め、祀っているような神社のような雰囲気を纏っている。西洋チックな城なのにね。
「へえ~……凄いな…………」
これを前にすると嘆息しか出ない気がするのは俺だけであろうか。だが俺は別の事も考えていた。
「雰囲気までは無理だけどこれの一回り小さいのだったら一日で素材さえあれば作れそう…………」
「徹夜だけは許しませんからね? 早寝早起きが一番ですから。」
セリカは絶対に徹夜は許してくれなそうだ。
規則正しい生活の賜物か、君の美貌の秘密は…………
「そ、それはそうなんだけどさ? ……ついやっていると止まらなくなるんだよ~」
「アルナは区切りがつけられないだけでしょ?」
「うっ…………そ、その通りです……」
図星過ぎて言い訳も出てこない。
「お前ら、そろそろ自重を覚えないか……夫婦喧嘩か、まったく。王城はすぐそこだぞ?」
アメリアが俺たちの会話に割り込んできて怒気を少しだけ孕んだ声で注意してくる。
「「ごめんなさい」」
声を揃えて謝る俺とセリカ。
義姉さん恐いですね…………
俺たちは怒られながらも王城の中庭に着地するように下降した。そこには王城に勤めるエルフが勢ぞろいしていたようでなかなかに壮観だった。大体100人くらいだったかな?
「おかえりなさいませ、女王陛下。」
「「「「「おかえりなさいませ」」」」」
オルターは少しだけ怒ったような声で言う。
「そういうのは要らないって言ったでしょ? シトリー?」
だが、そのシトリーというエルフは不服そうに言い返す。
「それは勿論承知の上です、ですがお客様がいらっしゃるとお聞き致しまして……そちらのお嬢様ですか?」
俺のフードは外れ綺麗な艶のある長い髪と端整なオルターに負けず劣らずの顔が晒されている。耐えられなくなったのか後ろからアメリアが噴き出すように笑う。
「ブフっ…………ふふっ……」
「あははっ、アルナくん、お嬢様だって、ふふふっ、あはははっ、お腹痛いぃ~」
オルターも大爆笑している。
さっきの怒気はどこへ行ったんだよ……それになに笑ってんのさ。
「あ、あの陛下? 私にはなぜ笑っているのか分からないのですが…………」
「そうだね、この子は友好国クレトリアの筆頭公爵アルヴアート家次男、アルナ=アルヴア-トだ。」
オルターが俺を紹介すると、ここにいる全員の笑みに綻びが……
「英雄の息子様ですってええぇぇ~っ!」
シトリーが驚いたように声を荒げる。それに続くように他の使用人も叫ぶように話している。
「アスノ様のお子さんですって!」
「陛下をお助けになったって話よ?」
「もう! 流石英雄の息子ってところよね~!」
なんか散々言われてるんだけど、まあ悪口じゃないからいいとしますか。
シトリーが少しだけ申し訳なさそうに尋ねてくる。
「あ、あの…………本当に男性で??」
…………ああ、そっちね。本気で驚いてたの、そっちね…………
「うん、そうだよ。俺はオトコダヨ」
俺は無表情で淡々と答える。
後半が片言になってしまったのは偶然ダヨ?っていうか本当にそろそろ髪切ろうかな、鬱陶しいし、いちいち性別間違えられるとめんどいし…………
そこに大声で叫びながら突っ込んでくる男性エルフが…………
「オルターぁぁぁあああっ!」
中庭に居る全員が見ているにも関わらず、オルターに向かって抱き着こうとするがオルターはギリギリでその突進を避ける。
いやいや、そこは抱き締められてあげろよ、お義母さんよ…………俺でもそれは引くわ…………
「な、なんで避けるのさっ! 僕は君がアメリアがセリカが心配だったというのに……頑張って代理してたらそこら中から災厄やらで大変だったのにー……」
しゅんっと崩れ落ちるようにテンションが駄々下がりになる。
「悪かったわエレン……お客様がいたからいつものはちょっと恥ずかしくてね?」
…………珍しい反応。これはいじりがいがありそうだな、ふふっ。
「オルター、僕こそ我儘いってごめんよ」
「悪いなアルナ、父さんたちはいつもああなんだ。しばらくしたらいつも通りになるから。」
アメリアがわざわざ補足してくれた。
見つめ合うのも終わったようでエレンと呼ばれた男性エルフが俺の目の前に歩み寄ってくる。
「それで君が鬼神の如く奮闘しオルターを皆を助けてくれたアルナ君だね。僕の名前はエレン=エルトネーゼ、アメリアとセリカのあともう一人いるんだけど、父親だ。」
「ご丁寧にどうも、アルナ=アルヴア-トです、よろしくお願いします。」
俺の事を見つめるエレン。納得したように頷いてから口を開く。
「ふぅ~ん…………セリカも見る目があるようだ、やっと契りも交わしたみたいだし。」
セリカは俺が親に認められて、嬉しいようでとびっきりの笑顔で言う。
「はい、お父さん。初めてこの人と一生を過ごしてみたいと思いました。」
「っていう事なんで娘をよろしく頼むよ。」
はいっ!? なんか思ってたのと違うんだけど…………
「え!? 本当にいいんですか? 拒否されたり怒鳴られたりを予想してたんですけど…………」
「実を言うと僕は反対だったんだけどね? オルターやアメリアの君の活躍や評価聞いてね、この子なら娘を任せられると思って。不肖の娘だけど幸せにしてやってくれ。頼んだ。」
逆に懇願されるという予想していなかった展開に戸惑いながらも自信を持って言う。
「も、もちろんです。俺が絶対に幸せにしてみせますっ!」
うん、と大きく頷き笑みを浮かべるお義父さん。この中庭にいた全員が祝福の拍手を送ってくれる。
超恥ずかしいよこれ……
それから俺は王城内の一室に連れて行かれる。さっきまでの甘い雰囲気から一転、俺は完全に頭を切り替える。
これからエルフ達の治療を始めるのでアルナの側には1人のメイドが連れ添ってくれている。
「怪我人の規模とトリアージの確認は終わりました?」
メイドエルフは手元に資料を取り出してから説明を開始する。ここは異世界のはずなのに所々地球と似ているものが多々あるようだ。
「はい。確認は終了しました。カテゴリー1が約5人、カテゴリー2が25人、カテゴリー3が70人との事でしたが――」
そこで言葉を止め苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ん? どうかしたの?」
「治療が必要か喚起しましたら一気に増えまして……カテゴリー1が1500人、カテゴリー2が3500人、カテゴリー3が5000人との事です……」
結構増えたな、まあ治療しないで悪化するよりはいいか。
「おっけー、俺が直ぐに行動開始すれば最悪の結末は訪れないかな……魔力ポーションの用意は?」
「ありったけのポーションを私の【収納魔法】に入っております。」
ありったけってまたアバウトな感じで……
「って言うことは君も俺と随行してくれるの?」
「はい、女王陛下の命令ですので……じゃあ私も嫁にしてくれませんか?」
俺は飲んでいた紅茶を吹き出す。
「ブフォっ! ……は!? 何言ってんですか?」
「冗談でございますよ?案外初心なのですね?」
妖艶に微笑むメイド。完全にこの人俺のこと遊び相手のように扱ってるな。
「アルナくん? 私です、入りますよ〜」
部屋のドアがノックされたかと思うとセリカが入ってきた。
「差し入れと思って……あれ!? もしかして!」
「お久し振りです、セリカ様。マリアナです。」
淡々と感情の起伏はあまり無いが俺と話した時よりも嬉しそうだ。
「やっぱりー! 元気だった?」
その無表情にも近い対応でも昔からの馴染みなのかあまり気にしないセリカ。
「もう、元気いっぱいすぎて困ってるくらいです。」
区切りが良さそうなので俺はセリカに問う。
「それより、差し入れってどうしたの?」
「そう言えばそうでしたね、エルフの伝統菓子を持ってきたんですよ!」
「ほんとっ!?」
俺はその言葉に食い付く。甘いものは正義なのだ!
「くるみパイって言うんですけど……」
「えぇぇええー!?」
まさか異世界で地球のお菓子を食べるとは思わなかった……
俺が大声で驚いたことを不思議に思ったセリカは首をかしげる。
「何驚いてるんですか?」
セリカは俺が転生者ってことは知ってるとは思うけど一応はぐらかしておく。
「それに似通ったお菓子を知ってるからさ……」
その後食べたけど頰をが蕩けそうなくらい美味しかったとだけ言っておこう。
俺は食レポなんて向いてないし…………
午後からはすぐに治療を開始しないとね!




