第1話
夢を見ていた。誰かの記憶を回想する、そんな夢だった。
歳は15歳くらい、腰まである長い黒髪に中性的で整った顔、その顔は優しそうな笑顔を浮かべている。お姫様のように凛々しく佇んでいる。
彼女は自分の容姿が嫌なようで生まれてから一度も外に出たことがないらしいのだ。
18歳になった途端にある病にかかってしまう。
身体の弱い彼女は寝込んでしまう、そんな中途半端なところで夢が途切れてしまうが、遠くの方からその彼女が歩いてくる。
やっぱり可愛い女の子だなぁ…
「僕は女の子じゃないよっ!」
その子は顔を真っ赤にしてパシーンっと思いっきり俺にビンタをして怒るのだが、
「僕の事をよろしくね?」
と笑って言うとすぐに遠くの方へ歩いて行ってしまった。状況が掴めない俺は、ただただ呆然とビンタされた頬をさすっていた。
まったく、夢の中だから痛くないのにね。
――――――――――
現実に引き戻される感覚が体を駆け回る。
夢から醒め、重い瞼を開けると、知らない天井が目に入る。俺はベットに寝かされているようだった。おでこにはタオルが掛かっていた。
「ん………ほんとうに転生したのか…」
ベットから出ようと思って起き上がろうとするが、身体つきが違うせいで、少し起き上がるのに時間がかかってしまう。起き上がると頭の痛みに違和感を覚えるが、部屋が気になってすぐ忘れてしまった。
起き上がって部屋を見渡すと、畳で20畳はあるとても広い部屋だった。しかしベットに机、椅子やソファしかない質素な部屋だった。
広い部屋なのに勿体無いけど俺の好みの部屋だなぁ。
なんて少々感動に浸っているとガチャっと部屋のドアからメイド服を着た女性がお盆におしぼりや水とかを載せて入ってくる。
そういえば俺のおでこにタオルが乗っかってたかも……
「や、やあ。こんにちは。」
部屋に入った瞬間にメイドさん?は俺と目が合ってしまったので引き攣った笑顔で裕哉は話しかけてみた。
女性は返事をするどころか、お盆を震わし始めやがてお盆を落としてしまった。コップに入っていた水が床にこぼれるのだがメイドはそんな事を気にせずに、両手で口を隠し、涙をこぼし始めた。
え?? なんで泣いてんの!? そんなに俺に話しかけられたのが嫌だったの?
裕哉はガックリして項垂れる前に震えた声と嗚咽をしながらメイドさん?がしゃべり始めた。
「あ、アルナ様!? ぐすっ………だ、旦那様っ!」
メイドは踵を返し、部屋を慌てて出て行ってしまった。
「ちょっとぉ!?」
色々聞きたいことがあったのになぁ……あとアルナって誰? ……もしかして俺?
突然、頭の中に直接話しかけてくる声が聞こえてきた。
『裕哉くーん! 聞きたいことがあるなら私がいるじゃない!』
なんか聞こえるなぁ……幻聴かなあ……怖いなぁ怖いなぁ。
なんてそのまま放置していると、急に神さまの声色が暗くなる。
『ぐすんっ……もう裕哉くんなんて知らないっ!』
「女神様、ごめんなさい…悪ふざけが過ぎました、お詫びになんでも言う事聞きますよ??」
『じゃあ、私を召喚してください!』
あれ?話を聞きたいのはこっちだったのにどうして女神様の話を聞くことになってんだし。しかも女神様のくせに喜怒哀楽が激し過ぎだよ……
「神って召喚できんの!?」
呆れ半分、驚き半分で聞いてみた。
『神が許可さえすれば下界の人々は召喚できますよ? 神託なんて直接言い渡しますし。早くぅ!』
安直すぎるし、どうせ気分で召喚されてるだろ……あ、そうだ、聞きたいことが山ほどあんだったわ…
「じゃ、じゃあ、召喚しますから…俺はどうすればいいんですか?」
『召喚、システィーンって詠唱してください。』
え、そんな簡単に召喚されちゃうの、神さまよ……もっと長ったらしい詠唱だと思ったのに…
「わ、わかりました…、えっと……召喚、システィーン」
詠唱した途端、部屋中に魔法陣が展開され、光る花弁のようなものが舞う。光る花弁が人型を作ると、光がますます強くなり閃光のようにパッと光る。
眩しくて目を瞑るが、徐々に光が収まるっていく。そこには天界でみた女神様――システィーンが微笑んで佇んでいた。
これだけを見てるだけならちゃんと神さまなんだけどなぁ…第一声が残念過ぎる。
「裕哉くーん! 会いたかったよぉ〜!!」
閃光の如く神さまが抱き着いてくる。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。頭がぼーっとしそうになる……が大きな存在感を放つ神さまの胸が当たっててそれどころじゃない!
自分の顔が真っ赤になり熱くなるのがわかる。
「ちょっ! ちょっと! かみさまっ! あ、あれが、あたってますからぁぁあ!」
「え? あれって何ですかぁ??」
この女神さまニヤニヤしやがって…、俺が慌ててるの楽しんでるな、しらばっくれてるし…よしっ!
「もう! 神さまなんて知らない!」
ふんっとそっぽを向いて頬を膨らませて怒るふりをしてみた。
女神には効果抜群のようだ!なんてテロップが流れそうだ。
「……へ? ……ご、ごめ、ごめんなざぁあい!! 怒らないで! 嫌わないで!」
泣きながら俺に縋り付いてくる。この女神様を信仰している人が見ていたら改宗されそうな残念な光景である。
「女神さまっ、俺は女神さまのこと大好きですから。嫌いになんてなりませんよ?」
速攻の手のひら返しである。
「え………!?」
神さまはびっくりして泣き止む。そして顔を真っ赤に染めて、ぷしゅぅっと効果音が鳴り、湯気が出そうなほどだ。
え、やばい、可愛すぎて結婚したい……!
「あうぅうう……恥ずかしいです…! 裕哉くんの女たらし!」
神さまは俺に向かってビンタをした。しかもおもいっきり…
「いってぇえええ!!」
俺の頰にはきっと紅葉が出来てるだろう、それくらい強く叩かれた気がする。だって頬がヒリヒリするもん……
「あ、ごめんなさい、思いっきりやっちゃった、てへっ」
神さまよ、舌を出して自分の頭をコツンとたたくのやめろ、てへぺろみたいテンションやめろや!まあ可愛いからいいけど。
「アルナー! 叫び声が聞こえたが大丈夫か!?」
さっきのメイドさん?と厳格そうな顔をもち緊張した雰囲気を漂わせた男が入ってきた。
誰っ??またアルナってさっきから誰の事言ってんの?
「貴方は何者ですかっ!」
「この状況は一体なんなのだ……それに、貴様は…何者だ」
俺の頰には真っ赤な紅葉、俺の側には知らない翼の生えた女、俺だって同じ状況に遭遇したら混乱するわ。
「召喚される度に思いますけど、ここの貴族ってのは礼儀がなってませんよね、女性に向かって貴様なんて、失礼しちゃうわ」
不満を大爆発させたような低い冷たい声を発する。
おい、神よ、あまり煽るなよ。
男は屈辱に顔を真っ赤に染め………なかった。
「これは失礼した。どうも私は初対面の女には緊張してしまって…」
自らの過ちを認めた男性は、すぐに女神様に向かって頭を下げた。女神様はなんだか満足気な顔をしている。
冷静で常識がある男性ってかっこいいなぁ…
「素直でいいですね。私は女神システィーンです。よろしくお願いしますね」
女神様よ、そんな簡単に正体ばらしていいのかよ。
「はっ!? ………何を言ってるのかさっぱりなのだが……」
「神託以外で降臨するなんて聞いたことありませんっ!」
二者二様である。
ほらね、神なんて信じられないですよ~
俺の心を読んだかのように女神様はニヤニヤしながら言う、勿論視線は裕哉に向けている。
「やっぱり信じてもらえませんねぇ……あ! ステータス見てもらえれば信用してもらえます?」
ステータスってなんだ!………俺を無視するなぁあ!
「え? あ、あぁ、勿論だ…」
「旦那様!?」
ゲームとかでよくある自分の情報が載ってるやつだよね………
「それは良かったです。称号の欄だけでいいですよね?」
「もちろんだ、心の準備は出来ている」
なんの準備してんだよ、この人………
「ステータス・オープン」
そんな言葉を発すると女神さまの体の前に半透明の小さな窓みたいなものが浮いている。
神さまは、俺たちに向けてそれを見せてくる。
ステータス
名前:システィーン 種族:神
称号:世界の創造主・管理者、転生神
俺は元々知ってたから驚きはしないが、男とメイドさん?は世界の終わりのような真っ青な顔をして体を震わせている。
そりゃそうか、神を信じなかったんだもんね。
「あ、あの、本当にすいませんでした………私に出来ますことならなんでもいたします。お許しください…」
「な、なんてこと………私は………」
男はさっきの態度と打って変わって土下座をしている。メイドなんて魂が抜けかけている。
女神は俺の方を向いて助けを求めるように困った顔をしている。
神さまや、俺に助けを求めるでない…
また頭の中に直接話しかけてくる。
『裕哉くん、君に精神感応を付与したから頭の中で私に話しかけてみて』
『こ、こうでいいのかな、この人達の事は許してくれない?』
『お~、出来てますよ。いやあ、もともと許すつもりだったんですけど、一応聞いといた方がいいかなって思って…』
優しい女神さまでよかった。
「別にそこまで怒ってないですしいいですよ。いきなり神なんて信じられないのも当然ですからね。」
「ありがとうございます……」
こうして下界の人間と天界の神との神託以外での邂逅は終わるのであった。
まだ土下座してるけどこの人大丈夫なのかな………